『名探偵ピカチュウ』米興行、予想を上回る好成績 「ゲーム原作映画はヒットしない」定説を覆す?

日本でも報じられている、製作側の原作への愛やコアファンへのリスペクトに加え、米国ならではのヒット要因を探ってみたい。
John Lamparski via Getty Images
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『名探偵ピカチュウ』米興行、予想を上回る好成績 「ゲーム原作映画はヒットしない」定説を覆す?

現在公開中の『名探偵ピカチュウ』が、北米興行で予想を上回る好成績をマーク。米国における「ゲーム原作の実写映画は振るわない」定説を覆すことになりそうだ。日本でも報じられている、製作側の原作への愛やコアファンへのリスペクトに加え、米国ならではのヒット要因を探ってみたい。

■ゲーム原作実写映画の公開週末興収記録を更新

同作は、米国でも圧倒的な知名度を誇るポケモンの世界(2016年の同名のビデオゲーム)をもとにした、初の実写映画。人間とポケモンが共存するライムシティを舞台に、10代の少年ティム(ジャスティス・スミス)が、行方不明になった探偵の父を捜すため、父のパートナーであったポケモン=ピカチュウ(声:ライアン・レイノルズ)とともに陰謀に立ち向かうという物語だ。

過去には、『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』や『Doom』をはじめ、数々のゲーム原作映画で痛い目を見てきたハリウッド。最近の『ランペイジ 巨獣大乱闘』や『トゥームレイダー ファーストミッション』も、米国においてはヒット作とは言えず、海外興収に助けられたかたちだ。こうしたなか、『名探偵ピカチュウ』は、ゲーム原作実写映画の公開週末において、過去最高の興収5450万ドルを記録。公開3週目を迎えた『アベンジャーズ:エンドゲーム』が6500万ドルでボックスオフィス首位をキープしたものの、それに接近する興収となった。

米『バラエティ』誌の映画評論家ピーター・デブルージは、「たとえポケモンの熱烈なファンでなくても、この長編実写映画がポケモンを崇拝するファンにとっての大きなターニングポイントであることは明白」としたうえで、「ビデオゲームをプレイし、カードを集め、日本のアニメシリーズを観て、過去21本の日本の長編アニメーション映画に満足できなかった人々」にも受け入れられる作品だと評価。「人々が子どもの頃に夢中になったファンタジーの実写映画版」としては、マイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー』やマーベル・シネマティック・ユニバースとほぼ同列である、と綴っている。

■ピカチュウの姿からの“粗野で生意気なおっさんの声”が好評 同作の好調の理由として、米メディアの多くが真っ先にあげているのは、ピカチュウの声を担当したライアン・レイノルズの存在だ。レイノルズといえば、大人向けスーパーヒーロー・コメディ映画として、サプライズ・ヒットを飛ばした『デッドプール』における声でも有名。俳優としての人気と知名度に加え、観客が彼の声になじみがあるという点は、北米において、かなりの強みだったようだ。

米『エスクァイア』誌のジャスティン・カークランドは、「一歩まちがえれば、深みのない子ども向け映画になってもおかしくなかった作品を、大人も楽しめるコメディにした立役者は、ライアン・レイノルズと、その声」と断言。「過去20年以上にわたり、ほぼ自分の名前ぐらいしか話さなかったピカチュウの小さなかわいらしい姿から、突然、『デッドプール』の粗野で生意気な声が聞こえてくる。

そのミスマッチだけでも笑えるのに、レイノルズの性格が、さらにおもしろさをプラスする。ときに困ったちゃんであるピカチュウに、レイノルズのキャラがはまっている」と分析している。

■コアファンでなくても楽しめるライトさ

ポケモンのコアファンでなくても、ライトに楽しめるドラマ性も奏功したようだ。人間同士の関係性はもちろん、人間とポケモンの関係性にも共感できる要素が盛り込まれている。物語の骨子となる父と息子の関係でいうと、昨年、興行と評価ともに最高値であった『スパイダーマン:スパイダーバース』を彷彿とさせるが、親子や家族の絆はいつでも鉄板のテーマ。もちろん、愛着を持たずにはいられないピカチュウの表情や動きは、日本の権利元と米国主導の製作側の綿密なコラボレーションがあってこそ、実現できたものだろう。

米国の劇場では、いまだ『アベンジャーズ:エンドゲーム』が存在感を放っているため、2作を比較する声も目立つ。レイティングでいうと、『アベンジャーズ』はPG13指定(13歳以上は保護者の同意が必要)で尺は3時間、『名探偵ピカチュウ』はより低年齢層にアピール可能なPG指定(子どもの鑑賞には保護者の同意を推奨)で尺は1時間45分。内容はもちろん、レイティングや尺の面でも、『名探偵ピカチュウ』はファミリー層やライト層を惹きつけやすい。そこも興行を押し上げている要因のひとつとして挙げられる。

■興行だけでは測れないポケモン・ブランドの強さ 同作の好調の大前提として、ブランドとしての強さがあることは言うまでもない。ビデオゲームやポケモン・カードはもちろん、スマホゲーム『ポケモンGO』の大ヒットにより、ポケモン・ブランドは全米規模で市民権を得ている。一定のコアファンのもの、というイメージが強い他のゲーム・コンテンツに比べて、圧倒的にターゲットが広く深いのだ。

映画のビジネス価値を判断する際には、単に興行成績だけではなく、その後の配信や商品化ビジネスまでが考慮されるが、ポケモンについては、同作によって同タイトルのビデオゲームの売上が期待できると同時に、アプリやカード、玩具などにおけるビジネス効果も見込める。もちろん、映画の続編へのニーズもある。

メディア・アナリストのポール・ダーガラベディアンは、「ポケモンで育った親が、子どもを連れて映画を観にいくというように、ブランド人気は継続していく」と話し、「近年のスーパーヒーロー・キャラクターと同じような、数億ドル規模のビジネスに広がる可能性も秘めている」と語っている。

『名探偵ピカチュウ』のヒットは、ゲーム原作映画の未来のみならず、『ポケモン・ユニバース』の行方にも明るい光を灯したようだ。
(文/町田雪)

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