【幻のポケモン】ミュウは任天堂すら知らない「隠しデータ」だった。あえて入れた理由とは?

存在しないはずの151匹目のポケモン。開発元のゲームフリークがプログラムの空きスペースに入れた背景には、ある人気ゲームの「都市伝説」が関係していた


「ポケモン」の種類がついに1000種類を突破した。ポケモン公式YouTubeは1月12日午後11時から全1008種類のポケモンたちを振り返る記念映像「Pokémon 1008 ENCOUNTERS」を公開する。

ポケモン関連ゲームソフトの累計出荷本数は4億4000万本以上、TVアニメなどメディアミックスも広がる巨大コンテンツ「ポケモン」には知られざるエピソードがある。

2000年に日経BP社から出た単行本『ポケモン・ストーリー』を元に紹介しよう。

■任天堂も知らなかった151匹目の「ポケモン」とは?

タカラトミー製のフィギュア『 ポケットモンスター モンコレ MS-17 ミュウ』
タカラトミー製のフィギュア『 ポケットモンスター モンコレ MS-17 ミュウ』
Amazon/タカラトミー

「ポケモン」の誕生は今から約27年前だ。1996年2月27日にゲームボーイ用ソフト『ポケットモンスター 赤・緑』が発売された。発売当初の注目度は低かったが、通信ケーブルを使って、入手したポケモンを交換できるという仕組みが子ども達の間で人気を呼び、爆発的なヒット作になった。

やがて子ども達の間に、ある噂が広がった。『ポケットモンスター 赤・緑』に登場するポケモンは全部で150種類のはずなのに、幻の「151匹目のポケモン」が存在するというのだ。

それは事実だった。実は開発会社の「ゲームフリーク」が、販売元の任天堂に無断で入れた隠しデータで、通常のプレイでは絶対に登場しないように厳重に封印されていた。しかし、プログラムのバグによって、一定の操作をしたときだけ151匹目のポケモン「ミュウ」が登場するようになっていたのだという。

このバグは後に修正されたため、『ポケットモンスター 赤・緑』の初期生産分だけに登場して、それ以後には登場しなくなったため、子ども達の間でも「あの子にはミュウが出るのに、自分のには出ない」とますます憶測を呼ぶようになった。

■「いま思えば、ちょっと大胆なことをやってしまった」

ミュウのプログラムは、製品版ではカットされるデバッグ用プログラムの空きスペースに設定されていた。ゲームフリークのプログラマー・森本茂樹さんはミュウを入れた理由を次のように振り返っている。

「いま思えば、ちょっと大胆なことをやってしまったという気がします。プログラマーとしては、それやったらまずいでしょう、というような問題ですね。まあ、入れた動機は、いつかなんかに使えたらいいよねってことだったんですけど、使えなければ使えないで、自分らで楽しんでいればいいかなと思ってました」

森本さんから事前に相談を受けて「やったらいいじゃん」と後押ししていたのは、ゲームフリーク社長の田尻智さんだった。田尻さんは高校生にしてミニコミ誌『ゲームフリーク』を創刊するほどのゲームマニアだった。

通常のプレイでは登場しない「ミュウ」をあえて入れたのは、1970年代の人気ゲーム『スペースインベーダー』の都市伝説が念頭にあったのだという。田尻さんはこう語っている。

「ミュウを入れようと思ったのは、1978年ごろの、インベーダーの都市伝説が頭にあったからです。88発空打ちして、真中の列の一番上の30点のインベーダーを撃つと1500点入るとか、確かめようがない都市伝説、で、それが本当かウソかは、あまり関係がない。いや、ウソなんです。けれど、ウソだとよけいに『本当になる』までやろうとするじゃないですか。だから、伝説そのものは語り継がれ、生きていく。そういう一種の都市伝説というか、口承文化というのかな、そういうものが、からだで体験したっていう感じかな」

田尻さんは、何らかの形で「ミュウ」の存在が子ども達に伝わって、話題になることを予感していたようだ。

■3900倍の倍率。応募が殺到した「ミュウ」のプレゼント企画

実際、田尻さんのもくろみ通り、子どもたちの間で都市伝説となった隠しデータ「ミュウ」。任天堂にばれてしまったので、公式に存在を認めて、子ども達にプレゼントすることになった。

小学館の児童向け月刊誌『コロコロコミック』1996年5月号で抽選20人に「ミュウ」を手持ちのポケモンのゲームソフトに追加してプレゼントすると発表したところ、7万8000通の応募があった。倍率は実に3900倍。子どもたちの熱気がどれだけ強かったが伺えるエピソードだ。その後もミュウのプレゼント企画は続き、いずれもすごい倍率だったという。

151匹目の「幻のポケモン」ミュウ。それは、TVゲームを知り尽くした田尻さんらが、ゲームを愛する子どもたちの心に刺さる心憎い仕掛けだったのだ。

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