(にわか)「ディッキ族」になってみた

「『マーケティング』とは、『人の気持ちを知ること』」というくらたまなぶさんの言葉があるけれど、今回の体験はまさにこれまで自分が接点のなかった人たちと、接点のなかった場所で触れる体験だった。

今年になってネット上で「ディッキ族」なる言葉をよく見かけるようになった。

その定義は"Dickies/ディッキーズのハーフパンツをはいて(主にパンクロックの)ライブやフェスに行く人々"とのことで、最初は「音楽との結びつきが強いブランドだからそうやって認知され始めたのかな」と思っていたら、にわかに雲行きが怪しくなる。

2013年3月27日に、バンド・クリープハイプの尾崎世界観氏が突如Twitterを退会。その理由として、彼らの歌詞を卑猥なイラストとともに書いた自作Tシャツを着たファン集団がTwitterにアップした画像(現在は削除)が物議を醸したことがあげられていた。この時、彼らがディッキーズのハーフパンツをはいていたので「ディッキ族」自体が批判されることになった(一方で「ブランドは関係ない」という声も多数あった)。

その後、いったん鎮静化したかと思われたが、それから2週間後の4月11日。今度はディッキ族が渋谷スクランブル交差点で集団で腹ばいになって公開した写真が、ネットで多くの批判を集めることになった。

しかもこの写真はその後、4月24日放送のフジテレビ「とくダネ!」で取り上げられ、プチ再燃することに。

こうした事態を注視しながらも、ディッキーズジャパンでは夏フェスの協賛やコラボアイテム、ロックバンドとのコラボ、音楽スタジオとの協業...と音楽との結びつきをより進めていくプロジェクトをいくつも展開していくことにしたが、なぜ推進していくことにしたのか、背景を整理してみたい。

ディッキーズジャパンでは副社長である私自身がFacebookを運用(写真撮影、加工、原稿、広告などなど)し、ツイッター、2ちゃんねるなどのモニタリングもリアルタイムで行っている。(「マネジメントは自分の仕事をしろ」と思われることもありそうだが...)

「ディッキ族」というワードが出てきたときには、早速社内に「女ディッキ族の特徴」なるイラストを共有した。

最初は「こんなのいるのか?」なんて声もあがっていたが、ネガティブな情報も知らせると俄然、全員の関心度が高まる。

マネジメントがソーシャルメディアを運用する利点は、(苦情やネガティブな声も含め)直接生の声が聞けること、そしてそこから迅速に動けること。

「刺激的すぎて見せられないな」「見せたら怒られそうだな」「どうせたまたまだろう」そんな判断のもと"なかったこと"にされる情報にこそ、重大なリスクが潜んでいることは珍しくない(だからマネジメントは「とにかく情報をよこせ!」と叫び続ける)。もちろん数量やトレンドを集計し、パッと見てわかる資料やデータに加工するのも価値のある作業だが、ソーシャルメディアではとにかく情報の"足が早い"。対処すべき問題かどうかの判断に時間をかけられないし、社内を動かすのに上を待っていては手遅れになる。

一方で、よくある話だがネットだけで判断するのは危うい、ということでまず小売の店長にも聞いてみると「最近、そういった明るめの色のショーツが売れるなと思っていたんですけど、そういう理由だったんですか」という声が聞けた。

次は実際に自分の目で見るしかないな、とパンクロックのフェス(PUNKSPRING2013)に自分もフェスTシャツ&ディッキーズショーツという出で立ちの「ディッキ族」になりきり参加してきた。

会場を見渡すと確かにディッキーズのショーツをはいた人が多い。こうしたパンクロックのフェス自体初めてだったので何もかもが新鮮でいろんな発見がある。

・全体のうちディッキーズ着用者は10%から15%くらい。思っているより目につく

・フェス全体の男女比は7:3、ディッキーズ着用者だと5:5。

・どうもディッキ族は女性の方が目立つようだ

・全体に比べてディッキ族は年代が若く10代~20代前半

・グループは4,5名くらいが多く最大でも8名くらい。

なんとなくディッキ族同士だとすぐ顔見知りになれる雰囲気。

・ディッキ族のうち単独で来ているのは女性のほうが多い。

・ディッキ族のうち、下にタイツをはいているのは3~4割。女性だけでなく男性も。

・ステージへの集まり具合などを見ているとディッキ族は(今回のラインナップの中では)マンウィズ、NAMBA69あたりに強い反応を示す

・マナーとしては全体と比べると比率的にはそんなに変わらないが、服装が同じで良くも悪くも目立つので、何かとつぶやかれる原因

・家からディッキーズはいてくる人8割、会場で着替える人2割

またネット上だとディッキ族=モッシュのイメージも強いように見えたので、自分もステージ前方のモッシュゾーンに突入してきた。人の体が上から降ってきたり肩を踏み台がわりに上っていったり、サークル作ってぐるぐる回ったりとモッシュ初体験だったわけだが、

・モッシュゾーンにおけるディッキ族の比率が高いわけではない

-前後左右からの圧力が半端ないので女性の比率が下がることが原因かも

-10代より20代後半くらいの人が多い

・みんな助け合い。ディッキ族も人助けする

-転んだりしたらそれぞれ助け合う。ディッキ族の人もそうでない人も。

・(あたりまえだけど)みんな音楽が好き

・(あたりまえだけど)みんなお祭り騒ぎしたい

※この中にいます。暑かった...

(© 2013 CREATIVEMAN PRODUCTIONS CO.,LTD)

さらにステージの合間にいろいろ聞いてみた。

・好きなバンドの人がはいているから憧れて

・自分自身も音楽をやっている

・ライブやフェスにおける制服のようなもの

・みんなと一体感が持てるのでおそろいの色が欲しい

・気兼ねなくはける。モッシュしても壊れない(どれだけ激しいんだか...)

ネットで見て、リアルで見て、聞いて、なりきってみる。アーティストや音楽スタジオなど、新しい取り組みの可能性を見つけられたことよりも、自社の商品を使ってくれている顧客になりきることで、これまでよりも理解が深まったことのほうが自分にとって重要だった。

「『マーケティング』とは、『人の気持ちを知ること』」というくらたまなぶさんの言葉があるけれど、今回の体験はまさにこれまで自分が接点のなかった人たちと、接点のなかった場所で触れる体験だった。クタクタになって京葉線に揺られながら、ソーシャルメディアの向こうにいる一人一人のことをこれまでよりリアルに想像しながら向き合っていけるのかな、と思ったにわかディッキ族の一日でした。

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