日本がこれから直面する事になる危機とは?

アメリカが頼りにならないと分ればイスラエルが単独でイランの核施設を爆撃するのは確実の情勢である。そうなれば、既にイランはホルムズ海峡を封鎖すると警告している訳で、ペルシャ湾には無数の機雷がばら撒かれ日本のタンカーは航行出来なくなってしまう。その結果、全ての原発が停止した日本への石油やガスの供給が途絶えるのである。

私は、シリア問題の本質とは?の冒頭で、最早「内外の報道を見る限りアメリカがシリアに軍事介入する事は最早避けられない」と予測した。しかしながら、週が明けるや否やオバマ大統領は私の予想を見事なまでに覆し、シリア問題に関する演説で軍事行動に対する支持を議会に求めつつ、外交オプションに軸足を移す可能性に言及した。明らかにそれまでの流れから見て変調である。

要するに、オバマ大統領はシリア政府がレッドラインを越えたら(化学兵器を使用したら)軍事介入も辞さないと自分で拳を振り上げておきながら、米国国民の反対が強く、国内での支持率を失わないために議会に軍事行動の承認を求めると言う時間稼ぎ、他人任せの戦術に出た訳である。しかしながら、米政府あげての議会工作にもかかわらず、議会の反応は一向に好転せず、一方国民の反対もますます強くなると言うことで進退窮まるに至った。そこに、「敵に塩を送る」ではないが敵陣営のロシア、プーチン大統領の「化学兵器の国際管理」の提案があった訳である。冷静に考えればこんな提案に「現実性」、「実効性」があるとはとてもでないが思えない。しかしながら、苦境にあったオバマ大統領は「渡りに船」とばかりに、こんな提案に飛びついてしまった。この辺りがシリア問題に対するアメリカ変節の経緯ではないかと思う。

アメリカによる軍事力の行使という、オバマ大統領が振り上げた拳は結局アメリカ議会もアメリカ国民も支持しておらず、単なる「脅し」である事が白日の下に晒されてしまった。アメリカはシリアの化学兵器使用ばかりを批判の的にしているが、多くのシリア国民が政府軍の通常兵器で、アメリカ、ロシアの和平交渉中も、交渉が合意に至ってからも殺戮され続けている。一体、化学兵器で殺される事と爆弾やミサイルといった通常兵器で殺戮される事にどういう違いがあるのだろうか?

アメリカ、ロシアの和平交渉は合意に達し、オバマ大統領は今回の合意を歓迎している。しかしながら、約束は破棄するためにあると思っているシリアの順守など、とてもでないが信じられないし、そもそもシリアは内戦状態にあり、シリア政府に最早国内を統治する能力はない。従って、化学兵器の回収、廃棄というのは机上では可能であっても現実的には不可能ではないのか? シリアが約束を破棄した場合は国連の安保理決議にかけるといっているが、ロシア、中国が拒否権を発動するのは確実で実際問題軍事力を行使しての対シリア制裁はあり得ず、結局は何かやっているというポースに過ぎない。

一連の交渉を見る限り、オバマ大統領の興味は振り上げた拳の落としどころの確保と、アメリカ大統領としてのメンツを保つ事のみと見受けられる。ロシアに取ってはシリアでの権益を維持する事が全てで、北アフリカ・中東で、リビアに続いてシリアも失うのは堪らないといったところとしか思えない。 一方、国連は実効性の面は兎も角、仕事をしたというアリバイ作りに熱心だ。アサド大統領はイラクのフセイン大統領や、リビアのカダフィ大佐の轍は踏みたくないといったところとお見受けする。その結果、無垢なシリア国民は置き去りにされ、虐殺され続ける。シリア国民の悲惨極まりない現状が、結局、アメリカも国連もいざとなったら何の役にも立たず、自国は自分達でしっかり守るしかないという教訓を日本に与えている。

シリア政府は今回の交渉合意を受け、早速「シリア政府は化学兵器など保管しておらず使用もしていない」と発表した。アメリカ、ロシアの合意は早々とシリアによって出鼻を挫かれてしまった。恐らく、化学兵器の処理は進まず、国連を舞台に長々と外交交渉をやって行く事になるであろう。しかしながら、シリアのアサド政権は当然として、ロシア、中国も現状維持を強く望んでおり進展は期待出来ない。アメリカの顔を立てて、使い物にならない様な古い化学兵器が散発的に発見されて終わりではないのか? その結果、シリアの内戦は果てしなく続き、結果として、中東における米国への信頼を根本から揺るがす事になるのであろう。アメリカが頼りにならないと分ればイスラエルが単独でイランの核施設を爆撃するのは確実の情勢である。そうなれば、既にイランはホルムズ海峡を封鎖すると警告している訳で、ペルシャ湾には無数の機雷がばら撒かれ日本のタンカーは航行出来なくなってしまう。その結果、全ての原発が停止した日本への石油やガスの供給が途絶えるのである。

■アメリカが軍事介入を躊躇する背景

日本のマスコミの多くは、「9/11」があって、その後のアフガン、イラク戦争の失敗にアメリカが懲りたからであると説明している。確かにこれは間違いではない。巨額の国費を投入し、多くのアメリカの若者の血が流されたがアメリカが得たものは何もない。寧ろ、アルカイダを筆頭にイスラム原理主義者やイスラム過激派の怒り、恨みを買い、結果としてアメリカが絶えざるテロの脅威に晒されてしまう事になってしまった。圧力鍋についてネットで調べたらFBIが飛んで来るというのは矢張り異常だ

しかしながら、より現実的な理由は、軍事行動を起こしたくても軍事費が底を突いているというアメリカの財政事情ではないのか? アメリカは10月にも財政の崖問題に再突入する。最早アメリカの恒例行事ともいえる、「議会で「借金財政はここまでだよ」と決められた枠いっぱいに借金してしまい、緊縮財政を喫緊に実行するのと引き換えに、直前の必要資金の借り増しをするか、それとも、デイフォルトするかの二者択一を延々と議会の場で議論する訳である」。こういう状況で軍事介入に踏み切れるとは思えないのは確かである。オバマ大統領が今回の演説で「アメリカは世界の警察官ではない」と言明した背景もここにある。

■重篤なアメリカの双子の赤字

アメリカをここまで追い詰めたのは双子の赤字である。経常収支は2006年以降赤字幅を縮小しているものの、それでも年間約50兆円と巨額である。一方、財政収支はピーク時の半分程度にまで縮小しているとはいうものの2013年度で約100兆円の赤字が見込まれている。北アフリカ・中東からアメリカ軍を今後の成長が期待出来るアジア・太平洋地域に移動させた上でのアメリカ軍削減計画の背景がここにある。勿論、アメリカ軍の撤退により「軍事」の空白が生じれば地域の不安定要因となる事は必至である。

■軍事的野心を高める北朝鮮

北朝鮮が札付きの「ならずもの国家」、「テロ国家」である事については議論の必要はない。同時に北朝鮮の経済と財政は実質破綻しており、国民は飢えている。相当の国民が餓死に追い込まれているという未確認情報もある。金王朝に寄生する一部の特権階級が彼らの栄華の維持を目的に「核」と「ミサイル」技術の開発に注力し、核搭載のミサイルの照準を東京や大阪に据え、日本を金目当てに脅す展開は容易に想像出来る。オバマ大統領の「アメリカは世界の警察官ではない」が世界に向け発せられるや、北朝鮮はまるでこのオバマ発言を待っていたかの如く、それまで停止していた反応炉の運転を再開した。核弾頭の材料となるプルトニュムの生産が目的である事は明らかである

北朝鮮抑止を目的にした六か国協議といった所で、所詮、北朝鮮の現体制が崩壊すれば、韓国を筆頭に中国、ロシアは北朝鮮難民を受け入れねばならず、寧ろ北朝鮮が日本を金蔓にしてずるずる生き延びる展開が好ましいと考えているのではないのか? そうであれば、六か国協議の「実効性」、「現実性」に疑問符が付くのは明らかである。早晩、日本は単独で北朝鮮の核に対する対策を考えねばならなくなる。

■バブル崩壊前夜の中国経済。中国解放軍の暴発はあるのか?

最近になって中国政府が「理財商品」に対し警鐘を乱打している事もあり、てっきり販売残高は減少しているものと思いこんでいた。しかしながら、中国銀行業監督管理委員会によると、6月末の中国の銀行全体の理財商品の残高は9兆800億元で昨年末(7兆1000億元)と比べ28%増えたとの事である。「理財商品」という相対的に高い金利で調達された資金は、更に高い貸し出し金利を求め地方政府の傘下にあるディベロッパーなどに向かわざるを得ない。皮肉な事にバブルを抑制するための窓口規制が「理財商品」の販売残高膨張の原因になっているのである。中国は国家と中国共産党が金融市場を「鉄火場」にしてしまった。

高金利で調達した資金で建設された地方の住宅に買い手がつくとは思えない。日本が嘗て経験した様に買い手のつかない不良債権になってしまう。中国経済のバブル崩壊がカウントダウンの段階に入ったと理解すべきであろう。中国は間違いなく今後混乱する。そして、我々日本人が用心しなければならないのは、中国国民の不安や不満の矛先を日本に振り向けて火消しを行うというのは中国政府のお家芸という、日本に取っては不都合な事実である。中国解放軍が尖閣に上陸し実行支配する事で中国国民の溜飲を下げるという展開は残念であるが充分にあり得る話だ。

「それでは、中国共産党が権力の座に座り続ける正当性とは一体何か? という基本的な疑問に行き着く。それに対する説明が中国らしくて分り易い。第一は、兎に角13億人の国民を飢え死にさせない。腹一杯食べさすというものである。これについては中国共産党を評価して良いと思う。今一つの理由は、抗日戦線を戦い抜き、勝利し、最終的には戦勝国の一員となったというものである。中華民国の手柄をちゃっかり横取りしている訳であるが。こういう歴史的背景があるから、江沢民時代の徹底した反日教育や、それを是正しなかった(出来なかった)胡錦濤時代がある訳だ。中国共産党は国民に対する威厳を維持するためには日本に対し厳しく当たり続けなければならない。それが、彼らが存在する数少ない正当性であるし、何より、そうしなければ彼らによって反日教育を受けさせられた現役世代が、日本に対し手緩いと不満をもってしまう。これでは、共産党政権の正当性を揺さぶる一大事となってしまう」

■北東アジアの何が問題か?

アメリカの抑えが利かなくなり、益々狂暴化する「ならずもの国家」、「テロ国家」北朝鮮の存在であろう。要は、日本を脅して金を巻き上げる以外何の将来も見えて来ない。一方、韓国を筆頭に、中国、ロシアは北朝鮮の体制変換に対し自国が返り血を浴びる事を危惧して及び腰である。次いで、中国は経済が不調にも拘わらず軍備の拡張を止めようとはしない。経済が悪くなれば、中国国民は中国解放軍による目に見えるメリットを求める事となり、結果、他国領土を侵略しての領土拡張を目指す事となる。一方、北東アジアで緊張が高まっているにも拘わらず、日本は以前程アメリカの軍事力を頼りに出来なくなる。しかも、日本はこの所ずっと防衛費を減らし続けている。その結果が、最近発表された平成25年版防衛白書が示す下記北東アジアの軍事バランスである

■イスラエルは何故イラン核施設を空爆するのか?

平和ボケした多くの日本人はイスラエル人が好戦的でイランを空爆すると誤解しているかも知れない。しかしながら、これは全くの誤解である。私は嘗て何人かのイスラエル人と親しくなり、ある程度の人間関係が出来た後、この問題を質問した事がある。彼らの回答、説明は驚く程単純明快であった。一言でいえば、「やれねば、やられる」という言葉に尽きる。

話は1981年6月7日のバビロン作戦にまで遡る。イスラエルはこの空爆によりイラクの全ての核施設を破壊する事に成功した。当然の話として、この作戦はイスラエルがイラクへの安保理武力制裁決議を経ないで行ったために、欧州を中心に激しい対イスラエル非難に晒される結果となった。しかしながら、湾岸戦争時にサダムフセインはエルサレムに向けて短距離弾道弾スカッドを連射するに至ったが、上記バビロン作戦で「イラクの原爆生産を阻止してあったので、イラクの武器庫には核弾頭がなく、エルサレムは通常弾頭スカッドを被弾しただけだった。そのためエルサレムの被害は小規模で済んだ」。イスラエルに取ってイランはイラク同様イスラム国家である。そして、イランがイラク程好戦的でなく、イスラエルに対して核攻撃をしないと信じるに足る客観的証拠がない限り、アメリカが最早頼りにならない以上、イスラエルの国家存亡を賭けて事前にイランの核施設を叩くというのはイスラエル人に取っては当然の話なのである。

■中東からの石油・ガスの供給が止まる

日本は輸入原油の80%を中東に依存しており、中東からの石油・ガスはペルシャ湾を経由して輸入される。一方、仮にイスラエルがイランを空爆すればイランが機雷によってホルムズ海峡を封鎖するという展開が国際的な常識になっている。対応を誤れば日本経済はショック死してしまうかも知れない。再三主張している様に、「その日に備え原発の再稼働を急ぎ、エネルギーの中東依存率を出来るだけ下げるべき」といった議論すら起こらない日本は一体どうなっているのであろうか?

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