臨時国会で決めるべきは「成長戦略」の確かな中身

日米両政府が何らかの協議した上で、アメリカのBechtelの様な圧倒的な技術力、実績を持ち、卓越した政治力を兼ね備えたエンジニアリング会社と日本企業が組むのも面白いかも知れない。日本が最も気を付けねばならないのはアメリカとの関係悪化であるからだ。

秋の臨時国会が召集され12月6日まで開催される予定である。通常国会が閉会してから3カ月が経過したが、安倍首相はこの間消費税率引き上げを決め、TPPの交渉も大詰めを迎えようとしている。すっかり影の薄くなってしまった野党はマスコミ受けのするテーマの国会審議を希望するであろうが、国会はそんな事に時間を割いている場合ではない。アベノミクス第一の矢(金融緩和)と第二の矢(財政出動)で何とか上向きに転じた景気を更に確かなものにするのか? 或いは、一過性で終わらせてしまい、その後景気減速に向かうのか? 言い換えれば、日本が今世紀も繁栄を継続する事が出来るのか? 或いは、没落を続け、凡庸なその他沢山のアジアの国の一つに成り下がってしまうのか? 日本の運命を決める国会になると思う。

■「成長戦略」の確かな中身とは?

日本経済を力強く浮揚さすに至る具体的施策という事になる。そして、中身を大別すると日本経済を牽引する駆動部分と、日本を浮揚し易い様に軽量化する「構造改革」の二点となる。この内容については、参議院選挙直後に発表した、今問われているのはアベノミクス、「成長戦略」の確かな中身、及び、2020年夏季五輪の東京開催決定直後に発表した、何故「成長戦略」の中身が見えて来ないのか?で、詳しく説明しているので是非参照願いたい。

■安倍首相のリーダーシップを可能にする国内政治状況

安倍政権が「成長戦略」について卓越したビジョンを持っていたとしても、与野党の勢力が国会において伯仲していては中々決定にまでは至らない。これが永らく続いた日本政治の痼疾ともいえる「決められない政治」である。しかしながら、私が、野党消滅の背景とは?で予言した通り、日本の政治状況は幸いな事にその真逆にある。日経世論調査の結果は自民党が支持率55%を獲得し、一方野党は何れも一桁台に低迷している。言葉は悪いかも知れないが、まるでミミズが地べたを這っている様な光景ではないか? 日本が待ちに待った、決められる政治の登場である。そして、これこそが安倍首相に臨時国会で「成長戦略」の具体的中身を決めるべきと主張する所以である。野党は悔し紛れに安倍首相に対し、「独裁」とか「右傾化」などと的外れな批判に終始するであろうが無視すれば良い。

■主戦場となるのは成長著しい東アジア地域

日本が今世紀も繁栄を継続するためには、日本は何故TPPに加盟すべきなのか?で説明した通り、アジア地域の成長の果実の分け前にあり付かねばならない。「世界で今世紀、成長が期待出来る唯一の地域はアジア・太平洋である。従って、日本が今世紀も繁栄の継続を望むのであれば、アメリカに協力する事で、この地域の平和と繁栄に協力し、その結果として成長の果実の分け前にありつかねばならない。経済の主役は飽く迄民間企業である。従って、政府はアメリカを筆頭にアジア・太平洋地域との戦略的な通商関係の構築と経済連携の深化を図る事で主役、民間企業を力強く側面支援すべきである。露骨にいえば政府が民間企業に「稼ぎの場」を提供するといっても良いのかも知れない。そして、TPPは、そのための理想的な「チャンス」という事になる」。

■東アジアで存在感を増す安倍首相

WSJ、安倍首相、東アジアサミットで注目度高めるが伝える通り、今回、安倍首相はインドネシアで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)フォーラムと、ブルネイでの東南アジア諸国連合(ASEAN)会合に出席し、領土問題については「法の支配」に従う事の重要性を説き、中国を除く参加国の理解を得た。同時に、東アジア地域に「平和」と「繁栄」もたらすために、日本として支援を惜しまない姿勢も好感を持って迎えられた。日本が米国、オーストラリア両国との戦略的同盟関係を基軸により深くこの地域にコミットする事がこの地域の国々から理解され、好ましい事として受け入れられたと理解すべきであろう。

余談となるが、韓国、朴大統領は就任後執拗に安倍政権が右傾化に舵を切っており、このままでは世界から孤立するとの誹謗中傷を続けている。しかしながら、事実は全く真逆であるという事である。寧ろ、孤立するのは韓国という事になるのではないのか? 流石に韓国メディアからも懸念の声が出ている。韓国大統領の任期は5年であり、朴現大統領は任期を4年残してレイムダック化するのではないかと思う。その結果、産業政策や外交は漂流し、韓国経済は厳しい状況を迎える事になると予想する。

■期待出来るインフラ輸出

この地域に恒久的な平和が約束されるとなると、各国は競って経済発展のための必須となるインフラ整備を急ぐ事となる。日本は地の利に恵まれているだけではなく、技術、人材、資本力を総合すれば突出して競争力がある。朝日新聞が伝えるところでは、2020年までに800兆円もの投資がアジアで見込まれるとの事である。必要とされるインフラの具体的な中身については、過去三十年の対中ODA実績を参照すれば充分であろう。予想通り、空港 、鉄道 、道路 、港湾 、発電所 、肥料工場 、製鉄工場 、環境保全、医療と続く。仮に、日本の援助で病院を建設し、日本の医療機器が納入されれば日本製の機器に慣れた現地の医療関係者はその後も日本製を使いたがるはずである。

ひとたびインフラを日本企業が受注すれば、メインコントラクターが潤うのは当然として、下請け、孫請けにも仕事が循環し、結果として日本国内で新規雇用が創造され、日本経済をダイナミックに押し上げる事になる。ついては、抽象的な「成長戦略」を何時までも連呼するのは今臨時国会までと限定して、来年以降は、例えば800兆円の半分の400兆円を具体的に日本企業が受注するには如何にすれば良いのか? を議論してはどうだろうか? 実に具体的で分かり易いと思うが。

経済の主役は飽く迄民間企業である。しかしながら、政府は国内企業の受注を支援する環境整備を行う事は出来るし、是非勇気を持ってやるべきである。新興産業国、発展途上国においてはインフラを整備するに際し、「資金」、「技術」、「人材」が圧倒的に不足している。従って、これらを総合的に相手国に対し供与出来るか否かが受注の鍵となる訳である。「資金」についてはODAの円借款や無償援助と制度金融を対象インフラに応じて最適に組み合わせる事で相手国に取って魅力的なスキームの構築が可能となる。日本の提案が相手国に取ってより魅力的になる様に、日本政府は制度の中身を検討すべきと考える。国内企業を支援するため、輸出保険の保険料率引き下げも検討すべきである。

「資金」と共に重要なのは「人材」である。短期的には経験があり即戦力足り得る日本の技術者が現地に行く事になる。従って、企業は本来自社のエンジニアを確保すべきなのであるが、こういった方向性が見えて来なければ宝の持ち腐れとなりリストラされているのかも知れない。安倍政権が早く方向性を打ち出せば企業もそれに沿って人事施策を立案する事が可能となる。日本の経験、実績のあるエンジニアがアジアの国々の発展のために活躍するのは大変良い事であると思う。

中期的には現地に技術センターを作りエンジニアを養成すべきであろう。資金としては無償援助が馴染み易いと思う。更に、長期的には東大や東大に雁行する国内一流大学に対象国留学生の一定枠を設け、奨学金を支給し受け入れる事である。こういったエリートは母国に帰国後、政府や民間企業で重要な役職につく。対象国との間で何層ものパイプを構築する事は重要である。

日米両政府が何らかの協議した上で、アメリカのBechtelの様な圧倒的な技術力、実績を持ち、卓越した政治力を兼ね備えたエンジニアリング会社と日本企業が組むのも面白いかも知れない。日本が最も気を付けねばならないのはアメリカとの関係悪化であるからだ。仮に、アメリカとの間に隙間風が吹けば、そこを狙い澄ました様に中国、韓国に付け込まれ折角の計画が破綻してしまう。それでは元も子もない。仮に、日本政府が円借款を供与する案件であっても日本企業が独占するのではなく、Bechtelと組む位の度量を持つべきと思う。

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