筋トレ後のプロテインって、本当? - 大西 睦子

最近、欧米では、アスリートの無秩序な栄養補助食品の使用が問題になっています。先日、英国の研究者は、栄養補助食品の使用によってドーピングテストにひっかかったアスリートや、健康への有害事象などを例に、特にプロテインの使用法について警告1を促しました。

ハーバード大学リサーチフェロー

大西 睦子

2013年11月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

最近、欧米では、アスリートの無秩序な栄養補助食品の使用が問題になっています。先日、英国の研究者は、栄養補助食品の使用によってドーピングテストにひっかかったアスリートや、健康への有害事象などを例に、特にプロテインの使用法について警告(1)を促しました。

●プロテインの品質

米国のある調査(2)によると、24の市販のプロテインサプリメントのうち、製品の31%が品質保証テストに不合格であることが判明しました。別の調査におい て、ニューヨーク都市部やオンラインを中心に購入した15種類のプロテイン粉末と飲料で、ヒ素、カドミウム、鉛、水銀の含有について試験が実施されまし た。分析の結果、そのうち3製品から、安全レベルを超えた重金属のレベルが検出されました。こうした問題は、製造および貯蔵の過程で生じます。FDAの ウェブサイトではサプリメントについて、未申告のアレルゲンや微生物汚染、異物の混入などの問題が、頻繁に報告されています。

●ドーピングの問題

「ドーピング」として知られるアナボリックステロイド(anabolic-androgenic steroid nandrolone、蛋白同化ステロイドとも呼ばれます)は、筋肉増強剤として使用されています。最近の調査では、 2007年に米国で標準的な小売店を通じて購入された58のサプリメントを分析した結果、25%に低レベルのステロイド、11%に興奮剤が混入していまし た。それらの中には、実際に健康被害を引き起こす可能性があるサプリメントも含まれますが、特定は難しい場合もあります。特に、海外のプロテインを使用されている方は、これらの混入に注意の必要があります。安心できるメーカーのものを使用するべきです。

ところで、そもそも筋肉を増やすために、筋トレ後にプロテインなどを摂取する必要性があるのでしょうか?通常の食事からたんぱく質を摂取するだけでは、不十分なのでしょうか?

確かに、トレーニング前後に正しい栄養を補給することは、パフォーマンスの向上や疲労回復ためにも、とても大切ですよね。理論的には、トレーニング後にな るべく早く、(少なくとも30分以内)に補給することによって、より速く疲労が回復し、より多くの筋肉を獲得できることが報告されています。この時間帯 は、「アナボリックウインドウ」(Anabolic Window)とも呼ばれ、トレーニング直後の、筋肉の成長を最大限に促進するごく限られた時間帯とされています。いわば筋肉増強のための"ゴールデンタ イム"です。これについて、アラゴン博士とショーンフェルド博士が、筋トレ後に筋肉をつけるための栄養補給に関する最近の知見をまとめて報告(3)をしましたので、ご紹介いたします。

●まず、筋肉を増やすために、筋トレ後に栄養補給をする理由は以下のとおりです。

1. 筋グリコーゲンを補充する

グリコーゲンは、私たちの体のエネルギーを一時的に保存しておくための炭水化物で、必要な時にグリコーゲンをグルコースに変換します。ですから、トレーニ ングにおいて、筋のグリコーゲンが少ないと、筋肉の成長に悪影響を及ぼします。特に、トレーニング後は、筋肉のグルコースは、グリコーゲンにより変換され やすい状態にあるため、トレーニング直後に炭水化物を補給すると、 グリコーゲンがはるかに速く補充され、筋肉の成長と疲労回復ができると言われています。

2. タンパク質分解を止め、合成を刺激する

筋肉を増やしないのなら、1の炭水化物に加えて、タンパク質も重要です。タンパク質合成(アナボリック、同化)は、タンパク質分解(カタボリック、異化) を上回らなければなりません。トレーニング後は、タンパク質の代謝が増加し、筋肉のタンパク質の分解、合成は通常よりも早くなります。(タンパク質の合成 -タンパク質の分解=筋肉量増/減)。理論的には、トレーニング後、早めにタンパク質および炭水化物を摂取すると、インスリン分泌などの作用で、筋肉のタ ンパク質の分解を早く抑制し、筋肉が増えます。

●トレーニング直後、筋肉を増やすために、栄養補給をする必要があるのでしょうか?

実は、多くの方は、トレーニング前の最後に摂取した食事を、トレーニング後もまだ消化しています。私たちが、ふつうの食事を、トレーニングの数時間前に摂 取すれば、インスリン、アミノ酸、グルコースのレベルは、トレーニング後の数時間は高い状態のままです。例えば、通常の食事で、食後4時間はインスリンの レベルが高く維持され、たんぱく質の分解を止めるのに十分です。ですから、一般的には、トレーニング前の食事で、トレーニング前、トレーニング直後の両方 に十分な栄養があると言えます。

●それではどんな場合、トレーニング後にプロテインが必要なのでしょうか?

1. 朝起きて、何も食べずにジムに行く人: もし、一晩絶食してトレーニングをするなら、トレーニング後、すぐにプロテインや炭水化物を摂取するべきです。たんぱく質の異化は、絶食後のトレーニング 後は高くなるので、トレーニング後すくに摂取すると、筋肉の成長を促します。

2. トレーニング前の最後の食事から3−4時間以上空けてトレーニングをする人: 食後のアミノ酸代謝率に基づくと、通常の食事のアナボリック効果は5-6時間持続します。ですから、例えば、1時間のトレーニング後、シャワーを浴びて家 に帰るまでにアミノ酸のレベルは低くなりますので、プロテインを補給するべきです。

3. 一日に2回トレーニングする人: 少なくとも1日2回、例えば朝晩にトレーニングを同じ筋肉群について行う場合です。最初のトレーニング後すぐに栄養補給をしないと、2回目のトレーニングに準備ができていない可能性があります。

4. 高齢アスリートの人: いくつかの研究では、高齢のアスリートは若いアスリートとは違うという見解を示しています。高齢のアスリートが筋肉を獲得したい場合、多くの場合、若者と タンパク質摂取量と同じ量で同じくらいの筋肉が得られません。これを、"アナボリック抵抗性anabolic resistance"呼びます。トレーニング後にタンパク質を摂取することで、この問題を克服することがあります。

●どのくらいのプロテインを必要としているのでしょうか?

高品質のプロテインを、除脂肪体重(lean body mass:全体重のうち体脂肪を除いた筋肉や骨、内臓などの総量)の0.4-0.5 g/kg、トレーニング前後に摂取するとよいでしょう。例えば、除脂肪体重が70kgの方なら、トレーニング前後に、約28-35gのプロテインが必要と なります。

最後に結論ですが、まず基本は、様々な食品からタンパク質を摂取することです。プロテインは、質がよく栄養価の高い健康的な食事を補うために使用される、 あくまでも"サプリメント"です。ご自分の生活リズム、活動量に合わせて、一日にタンパク質をどれくらい摂れば良いのか確認してくださいネ!

<参考>

1. Ronald J. Maughan, Quality Assurance Issues in the Use of Dietary Supplements, with Special Reference to Protein Supplements, The Journal of Nutrition 2013;143 (11)

2. ConsumerLab.com. Product review: protein powders & drinks (including sports, nutrition, and diet products) [cited 2012 Nov 26].

3. Alan Albert Aragon and Brad Jon Schoenfeld, Nutrient timing revisited: is there a post-exercise anabolic window?, Journal of the International Society of Sports Nutrition 2013, 10:5

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