大人の「あたりまえ」と子どもの「あたりまえ」は違う。子どもの目線から見た貧困

今年は、子どもの貧困対策法が成立して5周年になります。

今年は、子どもの貧困対策法が成立して5周年になります。子どもの貧困対策センター公益財団法人あすのばは、子どもの貧困を子どもの目からも捉えようと当事者の高校生・大学生らや保護者にアンケートを行い、結果を「子どもの貧困対策2.0に向けて 法成立5周年・あすのば設立3周年のつどい」(2018年6月東京・代々木にて開催)で報告しました。

つどいの様子

つどいの様子

あすのばで活動する赤星美月さん(20歳・大学3年生)は、

「大人にとっての「あたりまえ」と子どもにとっての「あたりまえ」は違う。子どもにとって、「あたりまえ」のことを自分だけあきらめなくてはらならないことは、とてもつらい。」

ということを目の当たりにしたそうです。中学生や高校生にとっては、学校という狭い社会が生活のほとんどです。その中で自分だけが「あたりまえ」のことができない状況は、大人が思っている以上に苦しいことなのかもしれません。

当事者の子ども自身が感じている「子どもの貧困」とは、どういうものなのでしょうか、赤星さんに聞きました。

つどいで子どもの貧困の現状を訴える赤星さん

つどいで子どもの貧困の現状を訴える赤星さん

部活動は「あたりまえ」?

アンケートの回答では、学校生活のことに触れる子が多く、部活動の悩みがたくさんありました。部活動はほぼ強制の学校が多く、中高生にとって、部活動に入るのが「あたりまえ」になっています。

---(聞き手)部活動はやりたい子だけが参加する自由参加の活動だと思っていました。確かに、全国の公立中学の約3割で部活は強制加入という調査結果もあります(スポーツ庁「平成29年度「運動部活動等に関する実態調査」集計状況」)。実際に中学2年生の部活加入率は9割以上となっているそうです(スポーツ庁「運動部活動に関する調査結果の概要に係る基礎集計データ」2016年度)。学校では部活動に参加するのが当然となっているようですね。

みんな部活に入るんです。でも、公立でも部活費用の負担は大きいです。道具やユニフォームを揃えなくてはならないし、試合などでは交通費もかかります。お金がかかるから、と最初から部活に入ることをあきらめたり、途中で辞めざるを得なかったり、という体験を話してくれた子が多かったです。

離島にある強豪校のサッカー部に所属していた男子高校生は、度重なる遠征の飛行機代が母子家庭の家計に負担になることをいつも心配して、試合に出ないことを考えたと話していました。

受験には、塾は必須?

学習塾はぜいたくだ、とよく言われるのですが、実際には学校の授業や自力での勉強だけで、受験勉強のすべてをカバーするのはとても難しいことです。塾は必須になっていると思います。

---(聞き手)公立中学では約70%の子どもが学習塾を利用するというデータもありますね(文部科学省「平成28年度子供の学習費調査」)。中学3年生、高校3年生は塾に通う子の比率が高くなる傾向が報告されています。確かに、受験を考えると塾を必要に感じる子は多いのではないでしょうか。塾は、学校と並んで子どもの教育の一部を担っているといえるかもしれません。

塾などの経済的な負担が重いので、高校に入るのも大変ですし、高校に入ってから、その先の進路の選択は家庭の経済力によって制約を受けることになります。家計を支えるためにアルバイトをしていて、塾や学校の補講など放課後の勉強の時間が減ってしまう子もいました。

ある女子高校生は、福祉の勉強をしたかったけれど、両親から経済的な理由から「専門学校の進学よりも就職がいい」と言われた経験を話してくれました。「なんで他の子達は大学や専門学校に通えるのに、私は就職しなければならないのだろう」と思ったそうです。でも、自分以外のきょうだいの学費など負担が増えるので、長女として家族を支えるためにも就職を選ぶことにしたそうです。

進学したければ奨学金を借りればいい、という意見もよく聞くのですが、多くの奨学金は、借金です。この女子高生のように、家庭で働き手として必要とされている子にとっては特に、奨学金の返済義務は重すぎる負担だと思います。

スマホがないと学校で孤立する?

高校生からの話で進学とともによく出てきたのは、スマートフォンのことです。今の高校生はスマホを持っているので、持っていないと友達との関係も築けません。スマホもぜいたく品だと言われることが多いのですが、それがないと友達同士のコミュニケーションが取れないのです。ただのぜいたく品ではなくなっていると思います。

---(聞き手)私自身が高校生だった頃はスマホなんてなかったので、子どもがスマホを持つ必要はないと思っていました。でも、現実には日本の高校生の約96%がスマートフォンを持っているそうですね(内閣府「平成29年度青少年のインターネット利用環境実態調査」)。そして、利用内容の1位はコミュニケーションとなっています。

---私は高校時代、家の固定電話でよく友達と長電話をしていました。他愛のない話しかしていませんでしたが、楽しかったし、当時の自分にとっては重要なことだったように思います。今はスマホを使うことになるので、そういう友達とのやりとりが、大量に、すごいスピードで交わされているのだろうと想像がつきます。その中に入れないことは、友達の輪の中に存在しないのと同じくらいのことかもしれません。

そのとおりで、スマホを持っていなかったために友達付き合いができず、孤立してしまったという話は多いです。友達と出かける約束は全部スマホでやりとりされていて、友達と遊ぶこともできなかったという経験も聞きました。

友達も実は貧困だった。なぜ、豊かな日本で?

---(聞き手)大人が子どもの目線から見た貧困を知る機会は少ないかもしれないですね。「貧困」といっても、大人が考える貧困とは違うものを感じました。

発展途上国など海外の貧困と違って、日本の子どもの貧困は見た目からわかりません。貧困といっても、ボロボロの服を着てガリガリに痩せているとは限らないからです。そのうえ、子ども自身が誰にも打ち明けることができずに我慢している場合が多いです。当事者ではない外側にいる人にとっては、見ようと思わなければ見えない問題です。

---(聞き手)大人も子どもも、自分のことで精一杯、という人が多いと思います。恥ずかしながら、私自身も学生時代、自分のことしか考えていなかったように思います。なぜ、赤星さんは子どもの貧困に関心を持つようになったのですか。

私が地元の公立中学校に通っていた時、冬に同じクラスの友達の唇が切れ、血が出て真っ赤になっていたことがありました。その友達を見て思わず、私は、

「なぜ(唇から血が出ているのに放っておいているの)?」

と聞きました。その友達の返答は、

「リップクリームを持っていないから。」

この子は親に負担をかけないように、ほしいものを頼むのを日頃から我慢しているのかもしれない、と感じました。

衝撃でした。リップクリームなんて200円くらいで買えます。その子の家が母子家庭で幼い弟がいることは知っていましたが、それほど貧しい生活をしていることはその時初めて気づきました。私はその出来事がきっかけで、子どもの貧困が自分の身の回りに起きている問題として関心を持つようになりました。

周りに貧困はないし、社会問題なんて知らない、とおっしゃる方もいるのですが、よく見てみれば、困ったり苦しんだりしている人は身近にもいて、その背景には社会の問題があると思います。

最近では、NPOなどによる無料塾などの支援も広がって、塾という「あたりまえ」が少しずつより多くの子に提供されるようになってきました。ほかにも、子どもの成長で使えなくなった服や靴などをもっとリユースできれば経済的負担を減らすことができると思います。そんな「あたりまえ」を実現するような民間レベルの支援が大きく広がってきています。

しんどい状況にある子ども達を支えるこういった活動はさらに広げていくべきですが、制度的な支援は不十分で根本的な貧困対策となる公的支援はまだまだ足りていないのが現状です。だからこそ、国が高校入学時の費用負担や給付型奨学金といった法制度を改善していく必要があると思います。なぜなら貧困問題は日本全体で取り組むべき社会問題であるからです。

また、こういった支援を進めていくことは、ひとり親家庭でも、家族に病気や障害がある家庭でも、社会的養護のもとにいても、家庭環境に関わらず、すべての子どもが「あたりまえ」のことをできる社会の実現には不可欠です。

---(聞き手)塾や進学はぜいたく、と非難しても何も変わらないし、だからといって無料塾や奨学金制度ですべてが解決できるかというと、問題はそれだけではないようにも思えます。これだけ経済的に豊かな日本だったら、すべての子どもの生活や教育を保障できるはずではないかと思います。

当事者の声が届きにくいからこそ、当事者ではない多くの人が関心を持つことが大切だと思っています。子どもの貧困をより身近な問題として、伝えていきたいです。

あすのばの仲間と(右から2番目が赤星さん)

あすのばの仲間と(右から2番目が赤星さん)

聞き手・野口由美子 (ブログ Parenting Tips

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