Jah Grey for HuffPost
特集
2019年06月17日 22時02分 JST | 更新 2019年06月21日 17時16分 JST

「もう、先祖の系図を説明したり辿ったりするのにはうんざり」様々なルーツを持つダンサーのネノオカアシ・オギチダア

ネノオカアシ・オギチダアは、アートの力で黒人先住民の居場所を生み出した。

Photos by Jah Grey

ネノオカアシ・オギチダア(オジブウェー語で「ハチドリの戦士」を意味する)は、two-spirit(2つの魂:先住民社会では「様々なジェンダーロールを持つ人」の意)でパウワウ(ネイティブ・アメリカン部族の交歓の集会)のダンサーで、黒人であり、ウクライナ人であり、オジブワ族であり、カナダとアメリカに居住するファースト・ネーション部族だ。

Two-spiritというのは、北アメリカの先住民が性別と性的指向の領域で自分の立ち位置を表現するのに使う総称である。ネノは2種類の性代名詞を使う。They、their、 them「彼ら」が、「彼ら」の、「彼ら」をとSheとher「彼女」は、「彼女」の(を)だ。ネノにとって、世界で生きていく上でこうした代名詞で認識されるのは重要なことなのだ。

 

(カナダ・トロント発)ネノオカアシ・オギチダアがショールを纏い華麗に舞うと、それはまるで空中で蝶がくるくる舞うのを見ているようだった。

ネノオカアシ、略して「ネノ」は、燃える炎の模様がフリンジまで続く、黄色いショールを羽織っている。足元には、炎柄があしらわれ、道端に捨てられたソファから再生した皮革で補強された、手作りのモカシン靴を履いていた。

近くで中国の獅子舞いが始まり、ドラムをたたく音が聞こえてきた。ネノは回りながら地面を離れる。蝶が回る。

「すごく懐かしい」。彼らは言った。

 ネノは、トロントの市庁舎の外にあるメディスン・ホイールのサインの前で踊っていた。このホイールは、最近作られたもので、現在の北アメリカの先住民に捧げられたものだ。

ファースト・ネーション族とイヌイット族のコミュニティにとって、その4色の色は、とりわけ感情、霊魂、心と肉体の健康を象徴するものだ。

ネノは、ダンスが医療行為であると述べた。それがもたらした喜びが、2009年に起こった車の衝突事故から回復する上で必須であったという。

彼らは、ショールの下にフード付きのプルオーバーを着ていた。胸には「打たれ強く容赦しない」というネノが体現する言葉が書かれていた。この37歳のネノとの会い方によっては、その打たれ強さの違った側面を見ることになる。また、どう表現するかも違ってくるかもしれない。ネノは、性別の違いを示す代名詞は責任を表現するものとみなしている。

男女の固定観念を切り開くパウワウ・ダンサーであり、オンタリオで黒人と先住民のコミュニティの為に働くメンタルヘルスナビゲーター。夜、町の通りで1人立つアーティスト。妻と3人の子供を愛してやまないクィアの女性。(最近引き取った、取材に参加してくれた子犬のラも加えれば4人)

「Two-spiritであること、それは性別による役割に関することではありません。それは、私たちが果たす責任のことです。そして、時にはそうした責任のことを述べるとき、『彼らが』というのが適切なのです」とネノは述べた。「私が女性の支援活動をするときには、そのことは特に重要です」

ダンスが始まる2時間前に、通年一般開放されているトロント郊外にあるアーバン・コンサーバトリーで、インタビューは始まった。ここはネノの大好きな場所の1つで、私がこの強い意思を持った活動家を紹介された場所でもある。

会話中に2人の職員が近づいてきた。ここで私の携帯で会話を録音することは規則に反すると言われた。ネノがあやした眠っている子犬も規則違反だという。

「ここは、あなたたちの場所(職場)という事は分かっています。しかし、ここは納税者がお金を払っている公共の場所でもあります」とネノは指摘した。「私たちは今、会話をしており、それは許されています」

周りでは、何人かのビジターが全くお咎めも受けずに、一眼レフカメラでチューリップやヤシの木のスナップ写真を撮っていた。市の所有地では許可なくプロフェッショナル写真を撮ることは禁じられている。こうした不公平な対応に、私はネノに場所を変えたいかと尋ねた。

「いいえ、このまま続けましょう。私の周りにいる誰かが居心地が悪いと感じる度に、一時停止するなんてことはできません」と彼らは述べた。

ネノは、日常的に居心地の悪い状況に遭遇する。様々なルーツを持つ者として、彼らは自身の認識に苦労した。成長するにつれ、彼らはウクライナのルーツからは疎遠となり、一方ジャマイカ系の家族の中では唯一の混血人種であった。周りは彼らのことを「白人化された」と形容した。ネノが地元のコミュニティの集まりに行き始めた頃、彼らはそこに「属する」とは思われなかった。彼らは、自分たちのアイデンティを「ブラック・ニッシュ」(ブラック:黒人、ニッシュ:アニシナアブ→カナダとアメリカにいる文化的に関連したファースト・ネーションの総称)だと表現するようになっていた。

「人々は『あなたのどこが先住民なのですか?』と聞いてきます。私は『左足の指は先住民です』と言うんです。もう、先祖の系図を説明したり辿ったりするのにうんざりしています」と彼らは言った。「奴隷についてはよく知っているし、先住民の虐殺や植民地化についてもよく知っています。しかし私たちは、彼らがどのようにお互いに交じり合ったかについては話をしません」

「アメリカ大陸には...亀の島には」と、北米の先史時代の大陸のことを指す先住民用語でネオは話し始める。「そこには黒人の先住民がいましたが、殆ど話にのぼることはありませんでした」

ウクライナ系の黒人の先住民というネノの多重性が、彼らを抑圧することはなかった。それは、Two-spiritというアイデンティティにも通じる。

ネノはハフポスト・カナダ版に、男女がそれぞれ決められたダンスを、決められた服装で踊るパウワウダンスの性別による分別が好きではない、と話した。彼らが男女両性の服装を身に着け、性別による責任の流動性を示したいという願いは却下された。

時が経るにつれ、ネノは彼らが押し込まれようとしている二極化の世界では自分たちの幸福は増進できないと悟るようになった。彼らの「治療」は上手くいっていなかった。そのため、彼らは正装して踊ることをやめ、ドレスを再び着ることも拒否し、ビーズ細工もやめ、髪から鷲の羽を取りはらった。ネノが最後に正装してダンスをしたのは3年前だった。

「それは本当に難しいことでした」とネノは言う。「それは、私の魂が最も自由であるときだから」

このような失望に直面すると、さまざまなコミュニティで声をあげる事から遠ざかってしまうのは容易だ。しかし、ネノは違った。彼らは、困難でも癒しとなることに引き寄せられていった。声が小さい「ブラック・ニッシュ」が恥じることなく自分でいられる為に、彼らを代表して声を上げることが天職となったのだ。

ネノが働くトロント市の東側の地区にある黒人コミュニティの保健センターでは、彼らは4つの神聖な医薬、たばこ、スギ、スイートグラスとセージを自分のオフィスの前に置いていた。彼らは、人種と健康についての問題に関していくつかの諮問委員会で助言をしている。それは、カナダ中のプライド・フェスティバルの儀礼について助言を与えるtwo-spirit諮問委員会も含む。

彼らは、先住民のtwo-spiritにパウワウと自分の衣装の作り方を教える非営利のプログラム、イジシモを創設した。最近、彼らは多くの黒人と先住民が住む、トロントのマルバーン近辺で、最初の屋外パウワウを主催した。

ネノは、two-spiritのパウワウ衣装はどのようなものか、今も想像している。衣装はそれを身に着ける人の物語と、彼らに宿った役割を授けてくれるものであり、これは大きな仕事なのだ。自分の性的アイデンティティの現実をとらえた衣装をデザインできるまで、ネノはコミュニティの形成と自分たちの文化について他の人たちを教育することに、そのエネルギーを注ぐであろう。

彼らは、昔ほど頻繁にはダンスをしなくなったが、今でも時折ネノは踊る。ネノが社交的な集まりやパウワウで友だちと踊るときは、彼らの身につけるモカシンとショールはいつもたくさんの愛情を受けている。

彼らが踊るとき、止まって見ずにはいられない。ネノはそれが大切だと思っている。それにより、仲間のブラック・ニッシュの人たちを引き寄せ、一目でダンサーと結びつきを共有する事ができるからだ。

「私のことを『炎のプリンセス』と呼ぶ小さな女の子がいます」
ネノは、パウワウに来るうちの大好きな1人の顔を思い起こしながら言った。「それは、本当にかわいいのです。いつか彼女もそれをまねて踊りたいと思うでしょう」

「小さな女の子たちが自分自身を自然に心地よいと感じ、私のような経験をしないことは、なんて素晴らしいことでしょう」
先住民の中で黒人であることの自分の経験を指して、彼らは述べた。

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一緒に過ごした時間も後半になると、ネノのブラック・ニッシュの若者への影響が、ヨンゲ-デュンダス広場で明らかになった。

そこは、トロントで最も繁華な広場で、彼女は自身のアートショー「#Nuitpoc」を1時間開催していた。

何百人というアーティストが、毎年一晩だけ街を変貌させる芸術のお祭「ニュイ・ブランシェ」に参加する。イベントの名前は「眠らない夜」という意味で、文字通り訳すと「白い夜」である。#Nuitpocは彼女の非公式な貢献で、有色の先住民(IPOC)が表舞台に出るチャンスだ。

過去3回のニュイ・ブランシェ祭では、感情的な反応をかき立てた社会実験を、トロントのダウンタウンのヨークとクィーン通り西の街角で行った。彼女の手書きの看板には、自身の民族性について彼女が耳にしてきたことが書かれていた。彼女は夜通しその看板の前に立った。目を研ぎ澄まし腕を差し出して、見る人々をハグと会話に招いた。

1つの看板には「私たちを殺すのはやめて」、もう1つには「白人は正しい」と書かれていた。その看板には靴跡がついていたが、見物人が踏みちらしたものだった。ネノは彼らを「真実のパネリストたち」と呼んだ。落ち着かない通行人たちも見ることを強いられるものだった。

まもなく、見知らぬ人が展示に近づき、彼女の名前を呼んだ。彼女は一瞬戸惑ったが、すぐに微笑んで昔からの友だちのダグに挨拶をした。彼の後ろには、10代の女の子が「ハロー」と手をふっている。

ヘル・G-テイラーというその女の子は、「ハチドリの戦士」を感謝の眼差しで見ていた。彼女は「私はネノみたいなんです」と私に言った。黒人の若者であり、メティスでクリー(どちらもファーストネーション族の部族)であり、モホーク族である彼女は「先住民らしくない」と見られ、苦労した。彼女は、ネノに先住民の若者プログラムに参加できるように支援して欲しいとお願いした。

「ネノは深く探求し、それを表に出すのです。彼女は何が起こっているのかを人々に知って欲しいのです」とヘルは述べた。

「そうです、彼女は目ざめたのです。分かりますか?」彼女の父親はそう加えて、ネノの社会的な意識を強調した。

2人が去った後、人々はネノと交流を始め、看板に書かれたメッセージから何を感じるかを話し合った。何人かは強い反応を示した。

眉を上げて、1人の男がネノに近づいてきた。短い会話の後、彼は去った。

「最初に見たとき、これは極右翼だと思いました」とその男は言った。「しかし、その後看板を見ました。人々は、こうしたことを(看板に書かれたメッセージ)いつも考えているんです」

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コミュニティの形成や、権力に疑問を投げかけ、議論を誘発するなどの活動に時間を取られ、ネノにはわずかしか自由になる時間はない。その少ししかない時間を、彼女は家族とともに過ごす。

「私にとっては、苦闘がまさに現実である人生を送ってきました」と彼女は述べた。彼女には「自分でなんでもやる」という精神しかなかった。彼女の妻、イボンヌがその考えの大部分を変えた。

静かで落ち着いた振る舞いのイボンヌ。彼女は、パートナーの奮闘を支援しつつ、できる時は気楽になることを気づかせてくれる。1日中、彼女はネノが必要としている時には一緒にいて、子犬がキャンキャン吠える時には子犬を散歩に連れ出し、町中にポスターを運んだりもした。

彼らは15年前に出会い、ネノがポリアモリー(多重的な性愛関係を持つ)としてデートし始めた後まもなく再会した。

「2人にとって、これは全く新しいことでした」と彼女は言った。「人々と結びつくことと、浮気者や欲張りとレッテルを貼られることの違いを理解するには長い時間がかかりました」

多重的な愛を探求することでネノは幸せになったが、一方で時には結びつきがほどけることもあった。イボンヌは、ネノがデートしていた別の人と苦しい別れを経験した後、ネノを愛情深く支えた。また、ネノもいつもイボンヌを支えた。彼女の生活のテンポを緩やかにし、持続可能な関係を築いた初めての妻となった。

人は、彼女の恋愛生活は彼女の仕事やダンスには関係ないように思うかもしれない。しかし、ネノにとっては、それは1つであり同じことなのだ。彼女がありのままで声をあげ、現状を揺るがすことは、誰を愛するかに通ずる。彼女の目標は、カナダを超えてグローバルにクィアの権利のために積極的に行動することだ。

「私は今ここで、妻にキスすることができます」と彼女は言った。「誰も何もケチつけないでしょう。しかし、世界の多くの場所では、人々は同性に魅力を感じる、と声に出す自由さえないのです。私は、全ての人間の権利としてこのことを行使したいのです」

これまでに成し遂げたことで最も誇りに思うことは何かと尋ねると、ネノは2つの答えをくれた。1つは安定で、愛する人であり同士でもあるイボンヌがくれた贈り物だ。2つ目は?

「自分自身を知ったことです」

50年前の6月、ニューヨーク市のあるバーで暴動がおきた。警察によるLGBTQの人の理不尽な取り締まりが発端となった反乱は、事件があったバーの名前をとって「ストーンウォールの反乱」と呼ばれ、その後に続いた抵抗運動はやがて世界を、そして歴史を揺るがした。

私たちは今、ストーンウォールの後の世界を生きている。

アメリカでは2015年に同性婚が認められた一方で、現在トランスジェンダーの人たちの権利が大統領によって脅かされている。日本ではLGBTQの認知が徐々に広がっているが、学校のいじめやカミングアウトのハードルがなくならない。2019年のバレンタインデーには同性カップル13組が同性婚の実現を一斉提訴し、歴史的一歩を踏み出した。

6月のプライド月間中、ハフポストでは世界各国で活動する次世代のLGBTQ変革者たちをインタビュー特集で紹介する。様々な偏見や差別がある社会の中で、彼らはLGBTQ市民権運動の「今」に取り組んでいる。「Proud Out Loud」ー 誇り高き者たちだ。ハフポストは心から彼らを誇りに思い、讃えたい。