【東電福島第一原発、"水との戦い"にメド】~汚染水対策本格化で廃炉への道筋見えてきた~

燃料取り出しの先には、「核燃料デブリ(燃料と被覆管などが溶融し再び固まったもの)」の取り出しが待っている。その工法はまさに人類初の挑戦だ。災害で完全に破壊された原発の廃炉はこれまで例がないのだ。

【外観】1~4号機の原子炉建屋。右側一番手前の黒い建屋が4号機。2014年12月19日撮影

東京電力福島第一原子力発電所のいわゆる汚染水は一体どうなっているのだろうか。この目で実際に見るため、8月末に現地に行き状況を詳しく取材した。その結果を一言でいうと、「水との戦いにメドがついた」ということになる。水とは「汚染水」のこと。放射性物質を含む「汚染水」を減らし、コントロールできれば、作業員の被ばくや環境汚染を減らすことが出来、「廃炉」への道筋が見えてくるのだ。

そうした中、14日、耳慣れない言葉がニュースで流れた。それが「サブドレン(subdrain: 地下排水管)」という言葉だ。東京電力は14日、福島第一原子力発電所1~4号機建屋近くの井戸からくみ上げ、浄化装置で放射性物質を除去した地下水の海洋放出を始めたが、この井戸のことを「サブドレン(subdrain: 暗渠、の意)」と呼ぶ。東電によると、初日のこの日は、昨年8月以降に試験的にくみ上げタンクに貯めている約4000トンのうち、約850トンを港湾に放出した。東電と第三者機関による水質検査では、放射性物質の濃度は基準を満たしていたという。

実はこの「サブドレン」からくみ上げた地下水の放出は、汚染水対策の重要な柱の一つ=「新たな汚染水の発生抑制」に繋がる。地下水は山側から原子炉建屋に向かって流れている。「サブドレン」はすでに実施している山側の地下水汲み上げ=「地下水バイパス」と共に建屋内の高濃度汚染水に地下水が流入しないようにするためのものだ。

さらに、建屋周辺には深さ30メートル、およそ1メートル間隔に打ち込んだ管に冷媒を通し「凍土壁」を作って地下水の流入防止に万全を期している。すでに実証実験は終わっており、技術的課題はクリアされているという。早期の稼働が期待される。加えて、地表からの雨水の浸透を防ぐために、モルタルなどで地表を覆う、「フェーシング(facing)」も進んでいる状況を見ることが出来た。

汚染水対策の第2の柱が、「高濃度汚染水の除去」だ。原子炉を冷やした水は燃料にふれて高濃度汚染水となりタービン建屋に残留している。この高濃度汚染水はセシウム吸着装置を経てタンクに溜められているが、そのタンク貯留の汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去設備も、既存設備に加え2つの設備が増設され、その処理能力は2000立法メートル/日以上となった。5月末には、この多核種除去設備を含むいくつかの装置でタンクに貯留している汚染水の浄化をほぼ終えているという。ここまで汚染水対策が進んでいるとの認識は一般の人には浸透していないのではないか。

【タンクエリア】大型休憩所にある展望窓からの眺め(海側)。タンクエリアの奥に見えるのが1~4号機。2015年6月19日撮影

そして第3の柱が「汚染水の漏えい防止」だ。建屋海側の護岸と港湾内に遮水壁を設置し、汚染水が海に漏れないよう工事が進んでいた。10月末には工事完了の予定だという。

事故から4年半、ようやく汚染水対策にメドがついたことで、廃炉に向けてのロードマップが動き出すことになる。既に4号機の使用済燃料の取り出しは2014年12月に終了しているが、1号機、2号機、3号機はこれからだ。まず建屋内のガレキ撤去の必要があり、燃料取り出しは、2017年に3号機、2020年に2号機、1号機の順で予定されており、2022年から23年くらいまでかかる見込みだ。まだまだ廃炉への道のりは長い。

燃料取り出しの先には、「核燃料デブリ(燃料と被覆管などが溶融し再び固まったもの)」の取り出しが待っている。その工法はまさに人類初の挑戦だ。災害で完全に破壊された原発の廃炉はこれまで例がないのだ。これにも20年から30年はかかるとみられており、最終的に廃炉が完了するのは、2040年から50年となりそうだ。

その「核燃料デブリ」の除去に向け、最先端の技術開発の拠点が現在建設中であることはあまり知られていない。それが「楢葉遠隔技術開発センター」である。運営は独立行政法人日本原子力研究開発機構(JAEA)が運営する。センターには、なんと実寸大の格納容器下部のモックアップを作り、高線量下で作業を行うロボットの開発などを行うという。こうした先端技術は今後日本にとって大きな強みとなるだろう。中国は無論、新興国、産油国でも原発の新設は進む。万が一、それらの原発で事故が起きた時、今後日本で開発される技術が他国の為に役立つことになる。それは、事故を起こした国としての責任でもある。

一方、福島第一原子力発電所では常時7000人の作業員が働いている。事故直後に比べ、発電所内の放射線量は大幅に低くなり、フルフェイスの防護マスクではなく、顔を半分だけ覆う半面マスクで作業できる場所も増えている。私も1時間ちょっと構内を取材して回ったが、被ばく量は0.03mSv(ミリシーベルト)、歯医者で撮る歯のレントゲン3回分程度であった。また大型休憩所や食堂などが整備され、労働環境はかなり改善された印象だ。とはいえ、未だに防護服に身を包み、放射線計を身に着けて被ばく量を測りながらの作業は決して楽ではない。廃炉に向け、こうした作業が今後何十年も続くという現実を私たちは忘れてはならない。

いわきから福島第一原子力発電所まで往復する中、帰還困難区域や居住制限区域などを通り、荒れ果てた田んぼを見た。雑草や木に覆われ、茂みのようになってしまったその風景は、事故の悲惨さと住民の方々の無念さを思い起こさせるに余りあるものだった。テレビや新聞の福島第一原発に関する報道は減っているのは残念だ。ウェブメディアとして、これからも継続して報道していく必要性を強く感ぜざるを得ない取材となった。次は、これも大手メディアが詳しく報じない、原発の安全対策について取材を進める。

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