アートとカルチャー
2020年01月24日 07時30分 JST

罪を犯した人は「変われる」のか? 刑務所を撮影したドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』に込められた思い

カメラが追う4人の若い受刑者。彼らはみな、「加害者」になる前は「被害者」だった。

(C)2019 Kaori Sakagami
映画『プリズン・サークル』の場面写真 / (左下)監督の坂上香さん

受刑者たちが円になって座り、自らが犯した罪や、幼い頃に受けた虐待やいじめの経験について語り合う。この場所では、彼らは番号ではなく、名前で呼ばれる。 

「機械から生身の人間になれた。生きててよかったと思えた」――。ある受刑者は、そう口にする。

これは、先進的な更生プログラムを導入する刑務所「島根あさひ社会促進センター」で見られる光景だ。この刑務所に2年間カメラを入れ、受刑者たちが成長していく姿を記録したドキュメンタリー映画プリズン・サークルが1月25日(土)、公開される。

監督の坂上香さんは、暴力の連鎖を止めたい、という思いで取材を続ける。本作に込めた思いを聞いた。

 

日本の刑務所とかけ離れた光景に「衝撃を受けた」 舞台となった『島根あさひ』とは

 2008年に開設された「島根あさひ社会促進センター」(以下、島根あさひ)は、国と民間が協働で運営する男子刑務所だ。最大収容人数は2000人。初犯など、犯罪傾向の進んでいない受刑者が服役している。 

(C)2019 Kaori Sakagami
映画『プリズン・サークル』より

刑務所といえば、受刑者の行動が刑務官に厳しく管理・制限されているイメージだが、島根あさひでは受刑者が付き添いなしで「独歩」することが許されている。受刑者をICタグやカメラで監視しているためだ。

さらに、注目すべきは、島根あさひで実施されている「TC(Therapeutic Community、回復共同体)」という更生プログラムだ。

TCとは、イギリスの精神病院ではじまり、1960年代以降に欧米で広まった治療法のこと。問題を抱えた人同士が「対話」をすることで自らと向き合い、新たな生き方や問題への対処法を身につけていくという。

島根あさひでは、このTCを使った教育プログラムを日本で唯一導入している。

導入のきっかけとなったのは、アメリカの刑務所内TCを取材した坂上さんのドキュメンタリー映画、『Lifers ライファーズ 終身刑を超えて』だ。この作品を観た刑務所関係者が、日本の刑務所でのTC導入に尽力したという。

「初めて島根あさひに行った時は、びっくりして、鳥肌が立ちました」

坂上さんは、2009年に島根あさひを訪れた時の衝撃をこう語る。日本の刑務所とはかけ離れた光景が広がっていたからだ。

(C)2019 Kaori Sakagami
教育プログラム「TCユニット」を受ける受刑者たちの様子。円になって、それぞれの経験や思いを語り合う。

TCは、厳しすぎる日本の刑務所には合わないだろうと思っていました。刑務所に行ってTCの話をしても、『日本にはTCは必要ない』とよく言われたんです『日本は規律正しい刑務所で成果を上げているから、アメリカの方法は必要ない』とその反応を見ていたので、日本の刑務所でやるのは難しいと思っていました。

だから、島根あさひの人から声をかけていただいた時も、私は嫌で、逃げ回って。(笑)私は関わらない、と決めていたんです。

それが、半信半疑で行ってみたら、想像と全然違っていて。衝撃でした。たいした交流はできないだろうと思っていたら、『ライファーズ』と同じ光景が広がっていたんです。支援員(更生プログラムの民間職員)が私を紹介したら、拍手が巻き起こって、『えええ!?』って。(笑)スタッフもすごく柔らかくて、丁寧で、受刑者を『さん』付けで呼んでいたことにまず驚きました」

坂上さんはそう振り返る。

「これは映像で記録しないとダメだと思いました。日本ではあまり知られていないことなので、知らせなくちゃいけない、と」。すぐに取材を申請したが、許可が下りるまで実に6年もの時間がかかったという。紆余曲折の果てに許可が下り、2年かけて撮影した。

 

カメラが追う、4人の若者たち 彼らはみな「被害者」だった

(C)2019 Kaori Sakagami
TCで受刑者と会話をする支援員。支援員は、臨床心理士や社会福祉士などの専門資格を持つ。

映画『プリズン・サークル』は、4人の若い受刑者を追う。詐欺、強盗致傷、窃盗、傷害致死...。犯した罪や量刑はさまざまだ。

彼らは、円になって黄色い椅子に座り、仲間たちとさまざまなことを語り合う。犯した罪のことだけではない。幼い頃の記憶や、怒り、悲しみなどの負の感情についても、徹底的に話し合う。

なぜ自分たちは罪を犯し、ここにいるのか? 罪を「償う」とはどういうことなのか? 会話を通して自分自身と向き合い、問題の原因を探り、その対処法を見つけていく。

その姿を見ているうちに、受刑者の多くが「加害者」になる前は「被害者」であったことに気づかされる。カメラが密着する4人はみな幼い頃に虐待を受けており、差別やいじめなど、何らかの暴力被害にあっていたのだ。

暴力は連鎖する。4人のストーリーを通して、私たち観客はそのことを苦しいほどに実感するのである。

(C)2019 Kaori Sakagami
受刑者たちの幼少期や過去は、砂のアニメーションによって描かれる。

「暴力の連鎖をどうやったら止められるか」。暴力や犯罪に関する取材をつづけてきた坂上さんにとって、そのテーマが「ライフワーク」なのだという。

「どの立ち位置からこの映画を観るか、ということは人によって異なると思うんですが、TCで語っている人たちのことを、自分たちと同じ『人間』として観てほしいとすごく思います。

そこで語られることって、レベルは違うかもしれないけれど、大なり小なり私たちが体験し、目にしていることでもあります。

社会では暴力の被害や加害が起きていて、いじめもDVも虐待も性暴力も差別も、日常的に起こっている。今までは蓋をしてきたから見えなかったけれど、彼らの言葉を通していろいろな問題が見えてくるはずです」

(C)2019 Kaori Sakagami

 

罪を犯した人は「変われる」のか?

罪を犯した人は、社会から隔離され、処罰される。報道やネット上で彼らは「危険人物」だと見なされ、激しいバッシングを受ける。

もちろん、犯した罪は償わなければならないし、この映画は受刑者に「免罪符」を与える意図で作られてはいない。

しかし、時に涙を流し、葛藤しながら自らを内省していく受刑者たちを見ていると、治療を受ける機会が与えられることや、社会復帰の道が開かれていることこそが重要なのではないか、と感じさせられる。

印象的なシーンがある。

強盗傷害、住宅侵入で刑期5年を与えられた健太郎(27歳)は、事件をきっかけに婚約者を失った。自分が犯した罪と向き合うことがなかなかできなかったが、ある日、TCで行われたカリキュラムで被害者や婚約者と「対話」をすることになる。

仲間の受刑者が「被害者」と「婚約者」役を演じ、健太郎本人が「加害者」役を演じる、というロールプレイが行われるのだ。

この様子は予告編でも確認できるが、被害者役の受刑者は、「あなたにとって償いとは何ですか?」と健太郎に問いかける。健太郎は、涙を流しながら、苦しそうに償いの言葉を紡いでいく。そして、婚約者役を演じていた受刑者は、健太郎の姿を見て、何かが乗り移ったかのように、涙を拭う。

(C)2019 Kaori Sakagami
ロールプレイの様子。話していくうちに、健太郎は腰をかがめて涙を流しはじめる。

ロールプレイが終わった後、健太郎は「僕が質問を受けて辛い以上に、被害者の人は今も辛いんだろうなというのが頭から離れない」と感想を語る。そして、映画の終盤には、TCを通して「機械から生身の人間になれた。生きててよかったと思える瞬間がたくさんある」と、笑顔を交えて思いを打ち明ける。

罪を犯した人は「変わる」ことができるし、やりなおせる。その希望が、この映画では描かれるのだ。

坂上さんが取材したアメリカ・カリフォルニア州の刑務所内TCでは、更生が難しいとされる終身刑や無期刑の受刑者もプログラムの対象になっているという。

「重犯罪者と呼ばれる人を対象にするには高いハードルがあり、彼らが語る経験に耐えられるスタッフも必要です。アメリカでは、たいてい元受刑者がスタッフに入っています。

日本では元受刑者がスタッフとして入ることが想定されていないので、今は実現が難しい状態です。けれど、そこがクリアになって、TC経験者がスタッフとして入るようになれば、日本でもできると思っています。

変わるべきなのは凶悪な罪を犯した人だし、今まで『変われない』と言われてきた人たちが『変われる』ようになると、日本の社会も変わっていくし、良くなるはずだと私は信じています」

 

「社会の中にどうやったらあの場所を作っていけるか、考えてほしい」

(C)2019 Kaori Sakagami

海外の調査では、TC出身者は再入所率が低い傾向にあるという。

日本でも、出所後2年以内の刑務所への再入所率が全国平均18.5%なのに対し、島根あさひは4.7%というデータが出ている。

島根あさひの受刑者は犯罪傾向が進んでおらず、教育効果が高いことが見込まれるため、その効果は一概には判断できない。島根あさひでTCを受けられるのは、条件をクリアしたわずか40人ほどの受刑者だ。

しかし、受刑者の回復に重きを置いたTCプログラムは、厳罰化が進む日本で異彩を放つ存在でもあり、専門家からその効果に期待もかけられている。

「日本にはああいう場所が必要なんじゃないかと思います」。坂上さんはそう話す。

「刑務所が舞台ですが、自分につなげて考えてほしいんです。そこにはきっとあなたがいますよ、と言いたいんです。自分自身だったり、お友達だったり家族だったり...観たら刑務所の話ではない、と気づいてもらえると思います。私たちの話だから。

刑務所だけじゃなくて、社会の中にどうやったらあの場所を作っていけるか、ということを観た人にぜひ考えてほしいな、と思います」

作品は、1月25日(土)より、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開が始まる。その後は全国の劇場で順次公開予定。公開情報は、公式サイトから確認できる。

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坂上香さん

坂上香(さかがみ かおり)監督プロフィール

ドキュメンタリー映画監督。NPO法人「out of frame」代表。一橋大学客員准教授。高校卒業と同時に渡米・留学、ピッツバーグ大学で社会経済開発学の修士号を取得。南米を放浪した後、帰国後TVドキュメンタリーの道へ。「被害者」による死刑廃止運動、犯罪者の更生、回復共同体、修復的司法、ドラッグコート(薬物裁判所)など、暴力・犯罪に対するオルターナティブな向き合い方を映像化。ATP賞第1回新人奨励賞を皮切りに、ギャラクシー賞大賞、文化庁芸術祭テレビ部門優秀賞、ATPドキュメンタリー部門優秀賞等、数多くの賞を受賞。2001年TV業界を去り、大学専任教員に転職。メディア教育に従事しながら、薬物依存症の女性やその子どもたち、刑務所等に収容される人々を対象に、映像やアートを使ったワークショップも行う。2012年、映画制作に専念するためインディペンデントに。劇場初公開作品でアメリカの刑務所が舞台の『Lifers ライファーズ 終身刑を超えて』(2004)で、New York International Independent Film and Video Festival海外ドキュメンタリー部門最優秀賞を受賞。2作目の『トークバック 沈黙を破る女たち』(2013)はLondon Feminist Film Festivalのオープニングに選ばれる。「暴力の後をいかに生きるか」をテーマに、「希望」や「成長」に着目した作品をこれからも作り続けていきたいと考える。主な著書に『癒しと和解への旅』(岩波書店)、『ライファーズ 罪に向きあう』(みすず書房)。絵本の翻訳に『ねぇねぇ、もういちどききたいな わたしがうまれたよるのこと』、『きょうのわたしは ソワソワ ワクワク』(偕成社)。