サイボウズ式:PTAに公立校の平等論を持ち込むと良さは消える──「やりたい人がやるから文句言うな」を貫け

千葉県浦安市にある公立小学校でPTA会長を務めてきた川上さん。いかにしてIT化を進めたのか?PTA活動はどう変わったのでしょうか?お話を聞かせてもらいました。

グロービス経営大学院准教授・川上慎市郎さん。専門領域はマーケティング。浦安市立美浜南小学校PTAで会長を3年、副会長を1年務め、現在は上の子が通う中学校のPTA会長と、浦安市PTA連絡協議会の会長を務める。大学時代の卒論テーマは「非営利組織の経営」だったそう

【PTA活動】とことんIT化したらどうなるか?【やってみた】」──。先日、こんなスライドが注目を集めました。作成したのは、グロービス経営大学院准教授の川上慎市郎さん。千葉県浦安市にある公立小学校でPTA会長を務めてきた川上さんは、いかにしてIT化を進めたのか? これによって、PTA活動はどう変わったのでしょうか? お話を聞かせてもらいました。

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連絡網をそうとっかえ。集まる回数減、印刷コストも半分に

──川上さんが会長になった4年前まで、役員や委員のみなさんは、どんな手段で連絡をしていたんですか?

川上:平日の日中に学校に集まったり、メールで連絡を取り合ったりですね。PTAから保護者全体に連絡があるときは、お手紙(プリント)です。

──これを、どんなふうに変えたんですか?

川上:「誰に対して、どんな情報発信が必要か」ということを洗い出して、それぞれに連絡システムを構築したんです。

まず、役員や委員の間の連絡や意見交換は、Facebookグループでやることにしました。そして一般保護者へのお知らせは「認証制のウェブサイト」とメールを使うことにして、地域の人たちとか、これからこの学校に入る予定の保護者向けには「公開ウェブサイト」で情報発信するようにしました。

──地域の人たちへの情報発信も大事ですけれど、プライバシーの問題などでひっかかりがちですよね。在校生の保護者向けと、サイトを分けるのはよさそうです。Webだから費用もかからないですしね。Facebookは、使ってみていかがでしたか?

川上:各自の登録さえできてしまえば、あとはスムーズでしたよ。「既読」がわかるから伝達漏れもないし、返事も一言でいい。「いいね」を押すだけでも済む。ファイル共有もできるし、さらにDropboxと併用すればサイズ制限もなくなるという。

──わたしはFacebookが苦手なのでグループウェア派ですが、やっぱりメールより効率がいいと感じます。川上さんのPTAも、だいぶ活動しやすくなったのでは?

川上:そうですね、オンラインで意見交換できるから、学校に集まる回数や時間を減らせました。3年前は専業のお母さんばかりでしたけど、いまは役員の半分が働いている人になったし、印刷コストも半分以下になりました。

明確に役割分担しない、仕事を兼務だらけに──そのほうがPTAはうまく回る

──委員の数も減らされたんですね。以前は1クラスから5人選んでいたのを、「3.5人」で済むようにしたと。これは、どんな経緯で?

川上:当時、「みんなに平等に仕事を分担させるように、役職を増やすべきだ」って言う方がけっこういたんです。でも僕はもともと「負担したくない人はしなくていい」という考えだし、「6年の間に1年だけ超頑張ってPTAをやるけど、あとは一切やらない」っていうかかわり方のほうが健全だと思ったから、逆に「役職自体を減らそう」って提案しました。

────なるほど。PTAってなぜかどうしても「みんな平等に」が目的にすり替わって、仕事が肥大化しやすいですけれど、その方向を断ち切ったんですね。

川上:そうです。PTAはボランティア組織だから、「ゆるく活動する」っていうのが必須なんですよ。「とにかく義務化しないと、みんな参加しないです」っていう人が多いけど、そうではない。ボランタリズムというものをちゃんと理解したうえで、「義務化をしない」というのが、すごく大事です。

──委員会は、どうやって減らしたんですか?

川上:ひとつひとつの仕事の範囲をあいまいにしたんです。仕事の範囲を複数の人で重複させるようにして、誰かができないときはほかの人がカバーする形にした。「お互いに助け合ってください」って言って、仕事を兼務だらけにしました

──へえ、斬新ですね。それで、うまくまわるんですか?

川上:そもそもPTAの委員の人たちに「何が負担か」って聞くとね、「都合が悪いときに、助けてもらえないことだ」って言うんですよ。だからこういうふうに助け合える形にしたほうが、負担を感じなくて済むんですよね。最初はちょっと混乱したけど、あとは落ち着きました。

──そっか。みんな「仕事の分担は、はっきりさせなければいけない」と思い込みがちですけど、逆にそれが負担になっていた可能性もあるわけですね。ひっくり返してみたら、実際にうまくいったと。

それにしても、いろいろ変えるのはけっこう大変だったのではないですか?

川上:最初はもちろん喧々諤々(けんけんがくがく)、いろいろな反発がありましたよ。改革の提案を役員会や運営委員会で出すたびに、僕は「矢ぶすま」みたいな状態になってました(苦笑)。

PTAには厳然とした独自のルールがありますからね。僕みたいに、意識してそれを破りにいく人ならいいけど、そうじゃないとがんじがらめになってしまうところがあると思います。

PTAは学校じゃない。「やりたい人がやるから文句言うな」ロジックを貫け

川上:PTAってね、公立校的な「平等論」を持ち込んだ瞬間に、良さが死んじゃうんですよ。

────ん、どういう意味ですか?

川上:学校もお役所だから「全員が平等にできないことはやれません」っていうのがルールなんです。PTAはそうじゃなくて、「やりたいやつがやってるんだから、文句言うな」っていうロジックを貫かなければいけない(笑)。学校も、暗黙のうちにPTAにそういう役割を期待している部分はあると思います。

──たとえば、どんなことですか?

川上:実験的なこととか、ニッチなことですね。たとえば、僕のPTAでは「ワークショップ大会」というイベントを毎年開催していたんですが、参加児童は全校の3分の2です。3分の1は来ない。でも、それでいいんです。

学校はそういうことをやれないんですよ。全員が来ることしかやれないから、「最大公約数」的なことしかできなくなりがちです。

──あぁ、そういう傾向はありますね。PTAも同様の傾向がありますけど、実際は、なんでもかんでも全員でやらなければいけないわけではない。非会員のお子さんを除外するのはダメですけど、会員だからって全員、来たくない子まで来させる必要はないですよね。

川上:あとはそのワークショップ大会がきっかけで、PTAが毎月子どもたちにプログラミング教室をやるようになりました。こういうのも、学校でやるのは難しいんですよ。

今、発達障害のお子さんが注目を集めていますよね。通常の授業だとなかなか適応できなかったり、うまくクラスに溶け込めなかったりするケースが多いですけれど、プログラミングをやらせると、すばらしい能力を発揮したりするので。

──プログラミングは誰が指導するんですか?

川上:保護者のなかに、某有名企業で自然言語解析の研究員をやっていたっていうスゴイ人がいて、彼が「このアルゴリズムは、こうこうこうでさぁ」ってガンガン教えてくれるんです(笑)。

そうしたら、1人アスペルガーの子がいたんですけど、彼がどんどん力を発揮しはじめました。コンピューターの専門家の保護者の方が手ほどきしてあげることによって、彼はエックスコード(統合開発環境)を使って、物理学の重力法則とか、「木星では、このくらいでスピードでモノが落ちます」なんていう(スマートフォンの)アプリを作るようになったんです。

──小学生ですよね!? すごい......、その子の得意分野を伸ばせて、よかったですね。

川上:逆に、できない子にも対応できます。PTAなら、アシストの保護者が何人もつくことができるから。

学校の先生がこれをやろうとしたら大変ですよね。プログラミングって特に、できる子とできない子のギャップが激しいので。マウスの動かし方がわからない子から、勝手にプログラムをバチバチ打ち込んじゃう子まで、1、2人の先生で面倒をみろ、なんて言ったら、それはかわいそうですよ。

──ふだんの授業でも大変だと思いますもんね。

川上:そういうニッチな対応というか、「本当にできる子、本当にできない子への対応」って、学校はできないんですよ。PTAはそこに対応することができる。それは、すごく大きいことだと僕は思ってます。

「おやじの会」がプロデュースした「土のう積み大会」

川上:僕が会長になってから、「おやじの会」も立ち上げました。要は、飲み会好きなお父さんだらけなんですけれど。最後の年は、運動会のPTA競技のパートの企画運営を、おやじの会に任せました。

──「おやじの会」って大体、行事の準備と片付けとか、「力仕事だけ」任されることが多いですけれど、競技の企画を1個まるまる任されるほうが楽しそうですね。

川上:うん、盛り上がりましたよ。メンバーのなかに市議会議員のお父さんもいて、「市からこんなものを借りられる」っていうリストを持ってきてくれた。そこに「土のう」って書いてあったから、「よし、これだ!」って言って「土のう積み大会」をやりました。リヤカーに積んだ山のような土のうを、保護者がリレーで運んで、運動場のはじっこに積んでいく。その高さで競う!(笑)

──そんな競技、初めて聞きました(笑)。

川上:競技名は「Do know!」。「土のう」って響きがさえないから、ちょっとカッコよくした。同じだよ!って(笑)。

────川上さんのところは、PTAと「おやじの会」がうまく仕事を分担できていていいですね。「おやじの会」は好きなことばっかりしてズルイ、みたいなところもあると聞きますが。

川上:基本的に「おやじの会」って、PTAのアンチテーゼとして出てきますからね。「PTAの制約は受けないぜ!」みたいなところがある(笑)。

だから、自由な部分もそこそこ残しつつ、PTA保険(活動中の怪我などに下りる)や学校との調整なんかは、PTAでいっしょにやるという形です。

あとは市P連(浦安市PTA連絡協議会)の中にも「おやじの会交流会」っていう部会を作って、PTAと「おやじの会」がコミュニケーションをとるようにしています。

──おもしろいですね。わたしも「おやじの会」は応援しているんですが、欲を言えば、お母さんも入りやすい名前にしてくれたら、もっといいのになーと思います。

PTAも企業も、いかにして周囲にコミュニティをつくるか

川上:これからのPTAって、コミュニティ経営的な視点っていうのを持たなければいけないと思うんです。「PTAのなかだけで、どううまくやるか」というより、「その周りにどういうふうにエコシステム(協調関係)をつくるか」というところ。

学校と地域が、"子ども"をうまく育てていくために、どんなステークホルダーを、どういう形で巻き込むと、その場所が全体としてうまくまわるか、みたいなね。たぶん、その視点がすごく大事なんじゃないかと。

────なるほど。でも、それってけっこうハードルが高い要求ではないですか? もちろん、できるならやっていただきたいですけど、「そこまでは、やれないよ」という声を、会長さんから聞くことも......。

川上:まあでも、PTAに限らず、これからの企業に必要なことも同じなんですよ。今まではモノをつくって売ればそれでよかったけど、これからはやっぱり、ユーザー自身にどうやってコミュニティをつくってもらうか、いかにして企業のまわりにみんなで輪をつくってもらうか、というところだから。それが、これからのマーケティングの鍵なんですよね。

──なるほど。自分のところのことだけやっていても限界があるわけで、これからはNPOとか行政とか、あらゆる組織に求められる視点なのかもしれませんね。川上さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

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文:大塚玲子/写真:谷川真紀子

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サイボウズ式」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。

本記事は、2015年12月8日のサイボウズ式掲載記事PTAに公立校の平等論を持ち込むと良さは消える──「やりたい人がやるから文句言うな」を貫けより転載しました。

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