Qアノンについて知っておきたい5つのこと。大統領選を左右する陰謀論はなぜ拡大しているのか

アメリカ大統領選挙を前に存在感を増すQアノン。誰が始め、どうやって拡大しているのか
ロサンゼルスで児童売春に反対してデモをするQアノン支持者たち(2020年8月22日)
ロサンゼルスで児童売春に反対してデモをするQアノン支持者たち(2020年8月22日)
KYLE GRILLOT via Getty Images

「トランプ大統領は単なるアメリカの大統領ではない。小児性愛者のリベラルエリートたちと闘い、世界を救うヒーローだ」――こうした主張を展開する陰謀論・Qアノンが、存在感を増している。

全く根拠のない主張であるQアノン。

しかし支持者は世界各地に広がり、11月3日投票のアメリカ大統領選挙にも影響を及ぼすとも言われている。

テロの脅威になりうると危険視されているQアノンは、何を主張し、どう拡大しているのだろうか。

1. どんな主張をしている?

Qアノンの核をなすのは、次のような主張だ。

・アメリカは、民主党議員やメディア、ハリウッド、財政界の大物らによる“闇の政府”に支配されている。彼らは悪魔を崇拝する小児性愛者たちであり、世界的な児童売春組織を運営している。

・ヒラリー・クリントン氏やバラク・オバマ氏、ジョージ・ソロス氏などがこの悪の組織のメンバーだ。

・トランプ大統領は、秘密裏にこの闇の政府と闘っている。しかし闇の政府をコントロールするリベラルメディアが、“フェイクニュース”で、トランプ大統領を攻撃している。

こういった根拠のない陰謀論が生まれたのは2017年、ネット掲示板への書き込みが始まりだった。

2. どうやって誰が始めたのか

Qアノンは「Q」と匿名を意味する「anonymous(アノニマス)」をかけあわた言葉だ。

2017年10月、「Q」と名乗る人物がインターネット掲示板4chanに「嵐の前の静けさ」というスレッドで、投稿を始めた。

Qの正式名称は「Q Clearance Patriot(Qクリアランスを持つ愛国者)」。

「Qクリアランス」とは、アメリカ政府の最高機密情報にアクセスする権利を意味し、Qは自らを「政府関係者でアメリカ政府の機密情報にアクセスできる立場にある」と主張している。

イメージ画像
イメージ画像
Andrew Brookes via Getty Images

Qの主張は、2016年の大統領選挙前に起きた「ピザゲート」に関連している。

ピザゲートとは「ヒラリー・クリントン氏ら民主党の政治家がワシントンD.C.にあるピザ店を拠点にして児童売春をしている」という陰謀論で、これを信じた人物がピザ店に武装して乗り込む事件に発展した。

実はQが書き込みを開始する数週間前に、トランプ大統領が「嵐の前の静けさ」という言葉を使っている。

トランプ氏はアメリカ軍上層部との記者会見で、「これは嵐の前の静けさかもしれない」と述べ、「何の嵐ですか?」という記者の質問に、「そのうちわかる」と曖昧な回答をした。

この言葉が、Qによる「嵐の前の静けさ」スレッドの由来になったと考えられる。

Qがどんな人物なのか、一人なのかそれともグループなのか、詳しいことはわかっていないが、4chanや8chanの掲示板に4000を超える書き込みをしてきた。

書き込まれるのは暗号化された謎めいた情報で、この情報を、Qアノンの信者たちがつなぎあわせて“解読”していく。

信者たちは、解読した情報をFacebookやTwitterやInstagramやYouTubeなどのソーシャルメディアに投稿して、Qアノンを拡散させてきた。

4chanに書かれた、Qアノン
4chanに書かれた、Qアノン
4CHAN

Qが投稿する情報は「Qドロップ」や「パンくず」と呼ばれ、解読者たちは「パン職人」と呼ばれている。

3. Qアノンが危険な理由

Qアノンの特徴の一つは、様々な陰謀説と結びついて広がること。中でも最近彼らの動きを加速させているのが、新型コロナウイルスだ。

「新型コロナウイルスはデマだ」という陰謀論とQアノンが結びつき、「新型コロナウイルスはエリートの秘密組織による作り話で、トランプ大統領が闇の組織と闘って世界を救おうとしている」という考えが広がりつつある。

信者はアメリカだけでなく、イギリスやカナダ、ドイツ、フランス、オーストラリアにも広がり、マスク着用や外出規制などの政府の感染防止対策に反対している。

ロンドンで開かれた新型コロナウイルスの規制撤廃を求めるデモ。Qアノンのサインが掲げられている(2020年10月17日撮影)
ロンドンで開かれた新型コロナウイルスの規制撤廃を求めるデモ。Qアノンのサインが掲げられている(2020年10月17日撮影)
Hollie Adams via Getty Images

ハフポストUK版の調査によると、新型コロナウイルス拡大やロックダウンが始まった3月以降、Qアノンのソーシャルメディアアカウントが大幅に増加した。

また、ドイツの国際公共放送DWによると、Qアノン信者たちの中には「新型コロナウイルスは、ワクチンで人口をコントロールしようとする企みだ」という主張している人たちもおり、ワクチン反対運動にも発展している。

新型コロナウイルス以外にも、Qアノンは5G反対運動や反ユダヤ主義、反移民などの思想や主義と結びついて陰謀論を広げている。

新型コロナウイルスがQアノンを加速させている理由について、オックスフォード大学インターネット研究所のジョナサン・ブライト氏は「生活がコントロールできていないと感じた時に、人々は陰謀説を信じやすくなる。また、新型コロナウイルスでインターネットで多くの時間を割くようになったことで、反ワクチンやその他の陰謀論を目にすることが増えた」とポリティコに説明する。

ドイツ・ベルリンで、QアノンのTシャツを着て政府の新型コロナウイルス対策に抗議する極右団体支持者(2020年8月29日撮影)
ドイツ・ベルリンで、QアノンのTシャツを着て政府の新型コロナウイルス対策に抗議する極右団体支持者(2020年8月29日撮影)
Sean Gallup via Getty Images

Qアノンが原因の犯罪や事件も増えている。

アリゾナ州では2018年6月、ライフルで武装したQアノン信奉者が、大量の武器を積んだ車でダム近くの橋を封鎖した

また2020年6月には、マサチューセッツ州に住むQアノン信者が、自分の5人の子どもたちを車に乗せたまま、警察と約32キロに及ぶカーチェイスを繰り広げた。男性はカーチェイスの様子をFacebookでライブ配信し「トランプ大統領、私には奇跡が必要だ。Qアノン助けてくれ」と叫んでいた。

他にも、Qアノン信奉者による殺人事件も起きている。

Qアノン信者が使っているスローガン「where we go one, we go all(我々は、一つになる場所にともに向かう)」の頭文字をとった「WWG1WGA」が書かれたサイン(2020年5月9日撮影)
Qアノン信者が使っているスローガン「where we go one, we go all(我々は、一つになる場所にともに向かう)」の頭文字をとった「WWG1WGA」が書かれたサイン(2020年5月9日撮影)
picture alliance via Getty Images

4. どんな人が信じているのか

Qアノン信者による危険行為や事件が相次ぐ中、FBIは2019年に「Qアノンは過激主義者を生み、テロや暴力に繋がる」と警告FacebookTwitterYouTubeなどのソーシャルメディアも、Qアノンのグループやページを削除する対策を打ち出した。

それにも関わらず、Qアノンは存在感を増し、世界各地に広がっている。

心理学の専門家らは、将来への不安や権力に対する不信感が、人々が陰謀説を信じる要因の一つになっていると考えている

精神医学を専門とするカリフォルニア大学教授のジョン・ピエール氏は、陰謀論を信じる人たちの多くは権威ある情報源への不信感を持っていると指摘。

「Qアノンを信じる人の多くは、主要メディアの情報に不信感を持ち、インターネットやソーシャルメディアで多くの時間を費やして、自分が納得できる情報を探している」とサイコロジー・トゥデイで説明する。

トランプ大統領の支持者だけが、Qアノンの信者になるとは限らない。

かつてバーニー・サンダース氏支持者だったという人物は、2016年大統領選で民主党がサンダース氏ではなくクリントン氏を党の候補者に選んだことで党上層部への不信感を抱き、Qアノンを信じるようになったとローリングストーンに語っている。

別のサンダース氏支持者も、Qアノンの主張を聞いた時「筋が通っていないものの、これこそが自分が探していた説明だと感じた」と述べる

カルト専門家のダイアン・ベンスコーター氏は同メディアに、「彼らは自分の怒りをぶつける場所と、世界を理解する方法を切に求めている」と説明する。

5. アメリカ大統領選挙への影響

Qアノンは、11月3日の大統領選にも影響を与えると考えられている。

アメリカのYahooニュースとYouGovの最新調査では、トランプ大統領の支持者の約半数が、Qアノンを信じていると回答した。

トランプ氏の選挙集会では、Qアノンのプラカードを掲げたり、Tシャツを来たりしてQアノン支持を熱烈に訴える人もおり、Qアノンの広がりがトランプ大統領への支持につながると考えられる。

ペンシルバニア州で開かれたトランプ大統領の選挙集会で、Qアノンのサインを掲げる人たち(2020年9月22日)
ペンシルバニア州で開かれたトランプ大統領の選挙集会で、Qアノンのサインを掲げる人たち(2020年9月22日)
Tom Brenner / Reuters

また、大統領選挙と同時に行われる連邦議会の選挙では、27人のQアノンを支持する候補者が立候補しており、彼らの当落にも注目が集まる。

その一人、ジョージア州から共和党下院議員に立候補しているマージョリー・テイラー・グリーン候補は、民主党の対立候補が9月に選挙戦からの撤退を表明したため、当選が確実視されている。

グリーン氏はソーシャルメディアで、Qアノンの主張を繰り返し投稿してきた。そんなグリーン氏が8月の予備選で共和党主流派候補に勝利した時、トランプ大統領はTwitterで「未来の共和党のスター」と褒め称えている。

トランプ大統領自身は8月、Qアノンについて聞かれた際に「彼らが私のことを好きでいてくれることに感謝する」「彼らは国を愛していると聞いている」と答えた

Qアノン信者にとって、トランプ大統領は世界を救う唯一のヒーローだ。

彼らは大統領が近々、“秘密組織”を暴き、大勢の民主党やメディアのエリートたちが逮捕されると信じている。

もし大統領選でトランプ氏が破れることになった場合、どうなるか。

多くのQアノン信者たちがこの陰謀説への信用を失う可能性がある一方で、暴力行為が起きることも考えられる。

大統領選の前だけではなく、大統領選後のQアノンの動向も注目されている。

Maya Nakata / Huffpost Japan

11月5日夜9時(日本時間)から、モーリー・ロバートソンさん、長野智子さんとともに議論します。また、これまでアメリカの「ラストベルト(さびついた工業地帯)」を訪ね歩き、今回も現地で取材をしている朝日新聞機動特派員の金成隆一さんと中継をつなぎ、投票直後の「アメリカ」を伝えていただきます。

番組はこちらから⇒ https://twitter.com/i/broadcasts/1lDGLylbnRQJm

(時間になったら自動的にはじまります。視聴は無料です)

注目記事