遊休不動産を活用してエリアを再生!定住可能都市を目指し豊島区で「リノベーションスクール」が開催

今回、東京都内開催のリノベーションスクールは、豊島区で行われました。

街には使われていないままになっている遊休不動産が数多く存在しており、こうした物件が多いエリアは活気がなくなってきています。その一方で、若い人たちは作りたいと考えているスペースやお店のアイデアはありつつも、使える物件がない状態。

ここをうまくマッチングしてあげることで、街にエネルギーをもたらすことができるのではないでしょうか。そんな機会を作り出している「リノベーションスクール」という取り組みがあります。

小さなエリアに変化をもたらす「リノベーションスクール」

「リノベーションスクール」は、実際の空き物件(遊休不動産)を対象に、具体的なリノベーションの事業プランを作成し、提案するスクールです。

「リノベーションスクール」では、全国から集まる受講生がユニットを組み、国内の先駆的なリノベーション事業者がつとめるユニットマスターとともに、3日間かけて事業プランを作成。

最終日は、不動産のオーナーに向けて公開プレゼンテーションを行います。

株式会社リノベリングが企画運営する「リノベーションスクール」は、4年前に北九州市で始まりました。

北九州の小倉で開催された「リノベーションスクール」では、これまでに17つのプロジェクトが実現。雇用者を300名以上生み出したという成果も。プロジェクトを実施した不動産物件付近では、なんと人通りが途絶えていた通りの歩行者の通行量が4年で4割増加したそうです。

スモールエリアを劇的に変える効果を生み出したことによって、「同じようにうちの街も変えられるのでは?」と考えた他地区も変わり始めました。

現在、このユニークな取り組みは全国に広がりつつあり、静岡県浜松市や鹿児島県鹿屋市でも開催されています。そして、今回、東京都内開催のリノベーションスクールは、豊島区で行われました。

消滅可能性都市に指定された豊島区での開催

みなさんは、「消滅可能性都市」という言葉を知っていますか?

「消滅可能性都市」は、2040年の20~30代の女性の数を試算し、2010年と比較して30年間で半分以下に減ると予想される自治体です。

有識者たちによってつくられた民間研究機関「日本創成会議」が出した独自の試算の中で公表されたもので、全国で合計896の自治体にのぼるとされています。

試算に登場する自治体のほとんどは北海道や東北の山間部に集中していますが、東京都内で唯一「消滅可能性都市」として選ばれたのは豊島区でした。

今回「リノベーションスクール」が開催された豊島区は、日本で2番目の乗降客数を誇る池袋駅を中心とした人口26万人の街です。人口密度が非常に高く、立教大学、学習院大学をはじめとした多数の大学があり若者も多く住んでいますが、同時に高齢化率も高いエリア。

それに危機感を感じ豊島区を元気にしたいと考える人たちによって、豊島区に在住・在勤する女性100人が未来を語り合う「としま100人女子会」や、ジャンルや世代を越えて豊島区の人々が交流する「としま会議」など、現在様々な取り組みが行われています。

豊島区で初開催

豊島区が主催となり開催された今回のリノベーションスクールは、2015年3月6日から8日まで豊島区にある大正大学で開催されました。

今回は定員を超える多数の応募者が集まり、その中から選考で選ばれた47名が参加しました。

1日目の開校式は、このリノベーションスクールを主導する「らいおん建築事務所」の嶋田洋平さんによるライブアクト「欲しい暮らしは手づくりで手に入れる」から始まりました。豊島区に暮らし働いている嶋田さんは、リノベーションまちづくり構想検討委員会の委員でもあります。

職住遊超近接の東京都心の新しいライフスタイルを、この豊島区で自分たちの手で実現したいと思っています。

今せっかくつくった建物が使われないことが多いですが、僕は建物と人が豊かな関係性でいてほしい。リノベーションスクールでは、「みんなが同じ方向を向くことができるプロセス」をどうデザインできるかが大事だと思っています。

「空き家をつかってプロジェクトを興す」ことは、そのエリアの課題を解決し、エリアの価値を高め、お金を稼ぎながらもまちづくりに貢献するということです。それは、子どもたちに価値のあるふるさとを残すことでもあります。

自分のしたい暮らし、住みたいまち、ほしいサービスは、行政に頼るんではなく自分たちで手づくりで手に入れていきましょう。

その後、セルフリノベーションコースの受講者は物件のリノベーションを開始。

「事業計画コース」の受講者は4つのユニットに分かれ、不動産オーナーから提供された対象物件を見学に。

不動産オーナーからはその物件にまつわるエピソードや込められた思いを聞き、周辺地域の情報も調べたうえで、物件をどう生かしていくかをみんなで考えます。

プログラムの合間には、Webマガジン「greenz.jp」のプロデューサー小野裕之さんや、株式会社ブルースタジオの大島芳彦さんなど、まちづくりやソーシャルビジネス、リノベーション業界の第一線で活躍しているプレイヤーによるライブアクトも行われました。

受講生は三日間かけて、ユニットマスターとともに企画をブラッシュアップしながら、公開プレゼンテーションに向けて準備を進めていきます。熱心に徹夜で話し合いを続けたユニットも多かったそう。

公開プレゼンテーション

3日目に行われた一般参加可能の公開プレゼンテーションには、豊島区長の高野之夫さんをはじめとし、豊島区役所職員や区議会議員も駆けつけました。

なんと会場に入りきらないほどたくさんの観覧者が集まり、急遽第二会場を用意してパブリックビューイングが行われました。リノベーションスクールへの期待と、豊島区への関心の高さが感じられます。

「セルフリノベーションコース」では、空いているマンションの1部屋をリノベーションしました。ボロボロの状態だった部屋に壁を設置し、フローリングやタイル、壁材を張り、3日間で今すぐ人が住めるような綺麗な部屋に生まれ変わらせました。

初めてリノベーションに挑戦するメンバーもいたそうですが、教え合いながら楽しんでリノベーションに取り組んだそうです。その後、「事業計画コース」の発表が各ユニットごとに行われました。

unitDは、池袋から徒歩15分の椎名町にあり、以前は「とんかつ一平」という名前でとんかつ屋をしていた物件を担当。多くの外国人客が訪れるという土地性を生かして、まちぐるみゲストハウス「シーナと一平」を提案しました。

一階を旅行者と地域の人たちが一緒に料理を作って食べるダイニングキッチン、二階を宿泊できるドミトリーに。ひとつのお家で人を受け入れるのではなく、まち全体で訪れてくれる人を受け入れ、地域を盛り上げていこうという計画です!

unitCが担当したのは、池袋から2駅の東長崎席近くの伝説の銭湯「モダンバスアパート」。1階に銭湯、2階、3階にアパートがあり、銭湯の暖簾をくぐるとオーナーのお母さんがお気に入りのモダンアートが飾ってあります。

この場所を「モダンバース」と名付け、一階をカフェと助産院、子育ての専門家による家族サポート、子供の預かり合いの施設にします。2、3階は子育てを支援する専門家のオフィスへ転用し、広々とした屋上は地域の人が誰でもこれる場所に。

池袋は学生など若者が多く住んでいますが、多くの30、40代が地域外へ流出してしまうという課題を解決するため、「モダンバース」を拠点とし、豊島区を若者が子供を育てやすい「家族がうまれるまち」にしようというアイデアが発表されました!

unitBは、千川駅から徒歩7分の「ビルホリモト」を担当しました。この周辺は商店街が衰退している地域で、子ども連れにママは池袋に移動しないと集まる場所がないそうです。ビル前の公園は普段は全く人がいない状態ですが、年に3回のお祭りは大勢の人でにぎわうことから、ビルの一階を活用してコミュニティカフェをつくることを提案。

「あやかりカフェ」と名付けられたカフェでは、地域に住むママを雇用したり、オーナーにワークショップを開催してもらったりして、地域の人たちの協力を得ながら運営。「パークサイドリノベーションから始まる民間始動のまちづくり」を目指します。

unitAは、リノベーションスクール中心メンバーである「株式会社メゾン青樹」代表の青木純さんが東池袋で運営する「ROYAL ANNEX」の別館205号室を担当。そこを中心として、商店街や小学校、図書館などがある周辺地域を「日の出ディストリクト」と名付けました。

様々な大きさの箱「ANNEX BOX」をつかって、クリエイターやアーティストが作品を展示・販売し、205号室を「まちにひらくトランクルーム」にします。そして、ANNEX BOXをさらに周辺の公園や商店街へ設置し、様々な人が自分の特技を教えてまちとコミュニケーションしていきます。

地域の情報を伝えるメディアも運営し、どんどん地域の持つポテンシャルを引き出して、日の出ディストリクトエリアを盛り上げていこうと提案しました。

4つの事業プランは、どれも不動産オーナーの想いを汲み取ったうえで、単なる建物の再生を超えて、周辺地域の課題を解決し地域を盛り上げていく可能性のあるものばかりです。

受講生たちの熱量の高いプレゼンテーションが行われた後は、これまでライブアクターを務めたことがあるゲストの皆さんから、プランについてフィードバックがありました。これを元にさらにプランをブラッシュアップして、実際の事業化に向けて動き出します。

「消滅可能性都市」から「定住可能都市」へ

クロージングアクトは、スクールマスターである「株式会社アフタヌーンソサエティ」代表の清水義次さん。

不動産、歴史的資源を上手に活用して民間自立型プロジェクトを運営し、地域の課題を複合的に解決していってください。物件の中に入るコンテンツの魅力は「人間」です。コンテンツの魅力とそれを実践して成功・伝播させていくことが、まちを変える原動力になるはずです。

みなさんの力で豊島区を、「消滅可能性都市」から「定住可能都市」へと変えていきましょう。

その後は、豊島区長の高野さんが受講生へ修了証書を手渡しました。区長が会場を離れる際に、受講生たちとハイタッチをし「区長コール」で見送られる一幕もありました

最後にクロージングパーティーが行われ、豊島区で初開催のリノベーションスクールは大盛況で終了しました。

自分たちのまちを手づくりしていく

都心には、子育て中のお母さんたちが集まる場所がない、若者の流出が激しい、海外からの旅行客が滞在するスペースが不足しているなど、数々の課題があります。

リノベーションスクールは、空き物件の問題を解決するだけではなく、同時に複数の地域課題を解決し、さらに地域コミュニティをも生み出していこうとする取り組みです。

行政だけにまかせてしまうのではなく、その地域に関わる市民の一人一人が創造力を生かしながら、力を合わせて自分たちの理想とするまちを手づくりしていくことが、これからのまちづくりには必要ではないでしょうか。

今回のリノベーションスクールで生まれた事業プランが、これから豊島区で実現され、どのようにまちを変化させていくかがとても楽しみです。

(2015年3月16日の「マチノコト」より転載)

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