ラグビーもビジネスも「弱さを見せられるリーダー」が肝心。世界に勝てるチームの作り方とは?

ラグビーワールドカップで決勝トーナメント進出を決めた日本ラグビー。マザーハウスの副社長 山崎大祐さんが、日本ラグビー協会で「指導者を育てるコーチ」として活躍する中竹竜二さんに話を聞いた。
全国大学ラグビー決勝・慶大-早大/胴上げされる中竹監督 2008年01月12日撮影
全国大学ラグビー決勝・慶大-早大/胴上げされる中竹監督 2008年01月12日撮影
時事通信社

ラグビーワールドカップ日本代表の8強進出で盛り上がりを見せる日本のラグビー界。さまざまな人たちが地道な努力を重ねてその土台を作ってきた。

日本ラグビーフットボール協会の初代コーチングディレクターとして、指導者育成を牽引するのが中竹竜二さんだ。早稲田大ラグビー蹴球部の監督を清宮克幸氏から引き継ぎ、全国大会2連覇を成し遂げた名将としても知られる。一方で、スポーツで培った知見を企業の人材育成に生かした事業を営む経営者でもあり、スポーツとビジネスの両軸で活躍している。

バングラデシュをはじめとする発展途上国でつくったバッグなどを販売するマザーハウスも、早くから中竹さんに研修を依頼してきた企業の一つ。同社代表取締役副社長を務める山崎大祐さんが、個人のキャリア、そして組織運営における“強みの育て方”についてインタビューした。

インタビューは、マザーハウス代表取締役兼チーフデザイナーの山口絵理子さんの『ThirdWay 第3の道のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)を記念して行われました。

中竹竜二さん
中竹竜二さん
HUFFPOST JAPAN

――スポーツのチームマネジメントやリーダー育成を、ビジネスにも活かす。中竹さんはその橋渡し役となっている第一人者です。別物と考えられがちなこの二つの関係を、どう捉えてきたのでしょうか?

スポーツとビジネスの親和性や相違性についてはよく聞かれるのですが、私からすると「まったく同じ」なんです。どちらが上ということもなく、同じもの。結局、「人が人と共に何か成果を上げるために起きる問題とその解決法」はすべてに共通するものと考えています。

なぜスポーツから学びやすいのか? という問いがあるとすれば、結果が圧倒的にヒューマンスキルに拠るから。ビジネスであれば、人材育成が多少うまくいっていなくても、商品力がもともと高かったり、市場環境が優位な状態にあったりすると、売り上げが上がる、つまり、結果が出ることも多いでしょう。しかし、スポーツはそうはいきません。人が育たなければ絶対に勝てない。だから、スポーツには人材育成のメソッドが集約されているのだと思います。

――ご自身がラグビーチームを率いた時の経験も、今の指導法に活かされているのでしょうか。

そのまま活かされていますね。組織は上意下達の縦構造で語られることが多いと思いますが、私は小学生の頃から「キャプテンや監督は、強いリーダーシップで皆を引っ張っていくものだ」という考えを心の底から疑っていました。そうじゃない活躍の仕方があるはずだ、と。

ボールを保持してスコアを決める“オン・ザ・ボール”の活躍だけではなく、“オフ・ザ・ボール”の活躍だってあるはずだと思っていたんです。例えば、ボールを持っていないけれど、めちゃくちゃ走ってスペースを埋めることも、チームにとって必要な貢献になる。実際、今のプロスポーツでは選手全員にGPSがついていて、1試合あたりの運動量も客観的に測れる。「スコアを決める選手より、よく走ってチームに貢献する選手のほうが年俸が高くなる」ということも現実に起こっていますよ。つまり、それだけ価値を認められているということです。

山崎大祐さん(奥)
山崎大祐さん(奥)
HUFFPOST JAPAN

――しかし、それを小学生の頃から分かっていたというのは?

私の能力が極めて低かったからです。足が遅く、体も弱く、目立つプレイもできない。オフザボールで工夫するしか貢献できなかったからです。

――たしかに、ラグビーを競技場で観戦していると、「これほど自己犠牲が勝敗を決めるスポーツはない」と感動します。

おっしゃるとおりで、ラグビーでは試合の中で一度もボールを触らない選手もたくさんいます。活躍の種類が多様であるという、競技の特性には恵まれたと思います。

立場上あまり大きな声では言えないのですが、実は昔はラグビーが全然好きではなかったんですよ(笑)。ずっと縁の下の力持ちだったし、ケガも多かったし。極め付きは、大学3年生の最後に練習中に大けがをしてレギュラーの道を絶たれたことでした。その時、初めて「もう無理です」と漏らしたら、同じポジションを競っていた先輩が本気で怒ってくれたんですよ。「俺はお前がいたから頑張れたんだ!二度とそんなこと言うな!」と。その言葉で継続を決めたら、翌月にキャプテンに指名されたんです。ケガをしたボロボロの選手なのに。

中竹竜二さん
中竹竜二さん
HUFFPOST JAPAN

――なぜ皆さんは中竹さんをキャプテンに指名したと思いますか?

思い当たるとすれば、何かとチームで問題が起きて話し合いが必要な時に皆を召集したり、殴り合いのケンカを仲裁したりといった世話役をよくしていたということですね。私がキャプテンになることで、誰もが気を遣わずに本気でラグビーできる。そんな存在だったのだと思います。

――いわゆるメンバーを盛り上げるフォロワーシップ型のリーダーですね。しかし、それだけではない気がします。

それで言うと、「戦うべき時には前に出る」という行動はやっていましたね。例えば、私が2年生の時、チームの雰囲気が悪化して結果が出ない時期があったんですね。監督の練習のつけ方やキャプテンの振る舞いに皆が不満を募らせているのは明らかなのに、誰も怖くて言えない。企業でもよくある話ですよね。私はレギュラーでもない下級生でしたが、「正直に進言できるのは自分しかいない」と、その役を買って出たんです。どうせ練習をいくら頑張っても次の試合に出られる身分ではないのだから、チームのためにできる貢献は、皆の意見を代弁することだと考えた。そういった姿勢が、いつのまにか信頼につながっていたのかもしれません。

今年理事を拝命した日本ラグビーフットボール協会に対しても、現場のコーチには自主性を尊重する一方で、上層部へは「こうするべきです」と伝えてきました。「忖度せず正論をぶつける中竹はいつかクビになるんじゃないかとヒヤヒヤしていたけれど、理事になってくれてうれしい」と全国のコーチ陣が喜んでくれました。

――日ごろはフォロワーシップ型のリーダーが、いざという時に前に出ると強く印象に残りますよね。中竹さんは何度か当社のマネジャー研修にも入ってくださって、僕自身もリーダーとしての在り方に非常に影響を受けましたが、特に学んだのは“待つ”姿勢です。

山崎さんはすごく変わりましたよね。目線がぐっと下がって、メンバー人ひとりに向き合う時間も圧倒的に増えている。私が、「彼は最近どう?」と社員の方の様子を聞いても、わーっと情報が出てきます。情熱の熱量は5年前と同じですが、「とにかく会社をよくしなきゃ」というドライブから、「愛を持ってメンバーのために頑張ることが結果につながる」というアプローチへと変わったように感じます。

優勝を決め、記念撮影する早大フィフティーン。左端は中竹竜二監督(東京・国立競技場)
優勝を決め、記念撮影する早大フィフティーン。左端は中竹竜二監督(東京・国立競技場)
時事通信社

――たしかに組織運営は「愛」という言葉に尽きるのかもしれない、と最近考えるようになりました。中竹さんはかつて「日本一オーラのない監督」を自称していましたが、実際はすごく求心力のあるリーダーだと感じています。どうしたらそのような両面を持てるのでしょうか。

(マザーハウス代表取締役社長の)山口絵理子さんの「サードウェイ」の考え方に近いなと感じています。つまり、二項対立ではなく、両者の中間に立つ妥協点でもなく、視座を上げて両者の掛け合わせの答えを探っていくこと。組織づくりも、トップダウンかボトムアップかではなく、どちらの良い面も組み合わせられるアプローチを考えるほうが、いい結果を生むはず。

私のリーダー像も「強みを活かそう」だけでなく、「弱さを認めよう」とセットです。部下の前で失敗を語ったり、不安を口にする。そういうふうに他人に弱みを見せることは、誰でも怖いし、恥ずかしいですよね。だからこそ、弱みをさらけ出せるリーダーは、勇敢だと周囲に認められるようになる。劣性を認めることは、強さの出発点になるんです。

リーダーが弱さをさらけ出すことの重要性は、人材育成の研究分野でも実証されてきています。「オーセンティック・リーダー」、ありのままの自分をさらけ出すリーダーという言葉が登場してきたのも同じ流れです。

それに、弱さは新たな強さを引き出すこともあります。私は子どもの頃から識字障害に悩まされてきたのですが、ある時、人よりも映像の識別や記憶に長けていることに気づきました。ラグビーの試合を振り返る時に、30枚ほどあるプレイ中の写真がいつどのシーンなのかを、メモを見ることなく正確に説明できることに驚かれたのです。弱さを認識した途端、それを補うほどの能力を備える力も、人間は備えているのだと思うと、心強く思えませんか。

中竹竜二さん
中竹竜二さん
HUFFPOST JAPAN

――勇気づけられる話ですね。スポーツとビジネスの関係でいうと、ゲーム運びのシナリオライティングも、ビジネスに活かせる部分がかなりあるように感じます。

ゲームシナリオについては、私はかなり緻密に作るほうです。早稲田大ラグビー部の監督として2連覇を成し遂げた時も、現場の練習や試合中の判断は選手たちに任せつつ、重要な試合の前には必ずシナリオを書いていました。「今回のゲームにはこういう前提と背景があり、こんなふうにゲームは始まる。こういう流れで、最後はこんな勝ち方をする」と。それを全部、選手の前で読み上げていました。当時、重視していたことがもう一つ。“カルチャー”です。

――チームの雰囲気やルールという意味でしょうか。

そうです。そしてチームの空気や不文律をつくるのは、具体的な行動です。例えば、点が入った時に選手がどのように喜び合うのか、ミスした時にどんな声掛けがあるか、試合以外の日にどんな挨拶をするのか。そういった行動一つひとつが、チームのカルチャーをつくり、結果にも影響する。

――その点で僕が中竹さんから真似て実践しているのは「拍手」の習慣です。社内の会議でメンバーが意見を発表したら、まず拍手をする。

いいですね。自分の意見を言う時って、誰もが少し不安になりますよね。その不安に勝って発言してくれたことへの感謝とリスペクトを第一に示す。その意見が正しいのか、間違っているのかという議論は、このステップを踏んだ後に始めるといいと思います。

山崎大祐さん
山崎大祐さん
HUFFPOST JAPAN

――関連して、「プロセスか、結果か」という議論も永遠のテーマですよね。スポーツもビジネスも、これまではどちらかというと結果重視の評価基準だったのではないでしょうか?

スポーツ分野でいうと、よく勝つ組織の監督は結果にはとらわれず、プロセスしか見ていないケースが多いと思います。逆に結果ばかり見ている人は、勝てない。一時的に勝てたとしても、勝ち続けることはできないんです。しかしながら、プロセスをよく観察して常勝へとつなげる指導法は、まだ広がっていません。それは指導者が充分に学んでこなかったからであり、だからこそ今は「指導者が学ぶ場づくり」が、私のミッションだと思っています。

――最後に、中竹さんが今のポジションの先にどんな道を描いているのか、教えてください。

特に「これがしたい」という目標は決めていません。これまでもそうでしたが、社会にとって必要な役割として求められ、それが自分にしかできないと思える使命であれば、引き受けると思います。子どもの頃から、無理やり夢や目標を書かせられるのが嫌いで、いつも“受け身”で役割を引き受けてきたんです。そんな受け身な人間でも、世の中の役に立てている姿を見せられて、誰かの励みになるとしたら、嬉しく思います。

中竹竜二さん(左)、山崎大祐さん(右)今回のインタビューは、二人が手に持つ『サードウェイ』の出版を記念して行われた
中竹竜二さん(左)、山崎大祐さん(右)今回のインタビューは、二人が手に持つ『サードウェイ』の出版を記念して行われた
HUFFPOST JAPAN

山口絵理子さんの著書名「Thirdway(第3の道)」というメッセージは、ハフポスト日本版が大切にしてきた理念と大変よく似ています。

これまで私たちは様々な人、企業、団体、世の中の出来事を取材してきました。多くの場合、そこには「対立」や「迷い」がありました。両方の立場や、いくつかの可能性を取材しつつ、どちらかに偏るわけでもなく、中途半端に妥協するわけでもなく、本気になって「新しい答え(道)」を探す。時には取材先の方と一緒に考えてきました。

ハフポストは「#私のThirdWay」という企画で、第3の道を歩もうとしている人や企業を取材します。ときどき本の抜粋を紹介したり、読者から寄せられた感想を掲載したりします。

注目記事