"筆談ホステス"斉藤りえさんと考える「美しいコミュニケーション」

外見はいくらでも「カワイイはつくれる」時代。だけど、本当はどんな場でも自分らしく会話を楽しめる、確固たるコミュニケーション力が欲しい。"コミュニケーション美人"があなたの周りにもいるのでは?

化粧にいつもより5分多く時間をかけてみたり、好印象を狙ったファッションをしてみたり...外見はいくらでも「カワイイはつくれる」時代。だけど、本当は大きな目よりもスリムな体よりも、どんな場でも自分らしく会話を楽しめる、確固たるコミュニケーション力が欲しい。いるだけで場が明るくなって、話しているだけで落ち着ける。そんな"コミュニケーション美人"があなたの周りにもいるのでは?

今回お話を伺ったのは、"筆談ホステス"として知られ、先月東京都北区議会議員選挙で当選を果たした斉藤りえさん。耳が聞こえなくても銀座でNo.1ホステスになり、自らの口で街頭演説ができなくても選挙に当選するなど、コミュニケーションが必要とされる場で常に結果を出し、ステップアップし続けている。相手に心を開かせる何かがある。そんな彼女がコミュニケーションで大事にしていることとは、一体どんなことだろうか。

01、相手の顔を見て、まずは自分から話しかける。

斉藤さんは会話中、決して相手の顔から目を離さない。話していることを理解しようと、必死に口の動きを見ているのだ。真っすぐな瞳には、同性でもドキッとしてしまうほど。その姿勢からは、「ちゃんと話を聞いてくれている」という安心感を得ることができる。

選挙活動中、斉藤さんはとにかく相手のいる場所へ、一人一人のもとへと駆け寄って行った。だがそんな斉藤さんも、幼い頃は自分から話しかけることはできなかったという。「小さい頃は、『他人が自分のことをどう思っているのだろう』とか『自分のことを悪く言っている人がいるんじゃないか』といったことをすごく気にして、初対面の方に自分から話しかけるといったことは、まったくできませんでした。しかし、身近な友達が手助けしてくれるうちに、少しずつ積極的になりました」。私たちはつい、話の「内容」ばかりに気をとられてしまうが、肝心なのは自分から話しかける勇気なのかもしれない。「すてきなネクタイですね」でもなんでもいい。相手と目線を合わせて、先手を取ること。これだけで相手は心を開く準備ができるのだ。

02、"相手中心"に考える。

斉藤さんはコミュニケーションをするうえで、相手によって言葉を使いわけることを意識しているそうだ。「ほんの少し言葉を変えるだけで、受け取る印象はまったく違うものになってきます。年齢や性別に応じて、その人がわかる言葉で話すことが大事だと思います。自分が伝えることも大事なのですが、伝えたことが"伝わる"ためには、まず相手のことを理解しなければいけません。そのためにも、よく聞き、よく考えることから始めます」。言葉を口にする前に、「目の前にいる人は、この言葉をどう受け取るのか?」と立ち止まって考える。斉藤さんのコミュニケーションは、とにかく"相手中心"なのだ。

03、手書きだからこそ、伝わることもある。

取材は基本、ゆっくりとした会話で、伝わりにくいときは筆談で答えてくださった。斉藤さんいわく、「筆談だからこそ伝わるものもある」そうだ。「手書きの文字には、その人の性格や感情を込めることができます。書くことで、ちょっとしたニュアンスを伝えられることもあると思います。たとえば『お誕生日おめでとう』と書くとします。そのとき、とめはねを丁寧に書くことで、誕生日を祝う誠実さがより伝わるだろうし、字体に丸みを持たせることで気持ちの優しさ、柔らかさを表現できると思うのです」。

社内の男性陣も、「字がきれいな女性はグッとくる。迷いのないハネやハライはたまらないね(笑)」などと話していた。今の時代、メールやLINEのおかげですぐにやり取りができるようになり、「手書きで人に何かを伝えるなんて年賀状くらい...」という人も少なくないのでは? ときには自分の字で思いを伝えてみるのも、いいかもしれない。

これまで、斉藤さんがコミュニケーションをするうえでのポイントをまとめてきたが、すべては「一番好きな言葉」と言って教えてくれた、この言葉に集約されるだろう。

「"心"を受けると書いて、"愛"」

顔を見て、しっかりと話を聞くこと。相手によって言葉遣いを変えること。これらはコミュニケーションにおける、表面上のテクニックではない。「相手の心を受け止めることこそ愛である」という斉藤さんの心持ちが、自然と人付き合いの場で形となっているのだ。

そんな彼女にも、お手本にしている人がいる。「ホステス時代にお世話になった、銀座のママが目標です。気持ち良く話せて、自然と心を開くことができるんです」。コミュニケーションに苦手意識がある人は、身近にいるコミュニケーション美人をまねることから始めてみるのもいいかもしれない。

◆斉藤りえ

1984年青森県生まれ。1歳10カ月のときに聴覚障害者となるも「人と関わるのが好き」との思いから、さまざまな接客業に就く。東京・銀座のクラブでの勤務時に、筆談を用いた独自の接客で話題となり、ナンバーワンホステスに。自身の半生を描いた『筆談ホステス』がベストセラーとなり、ドラマ化もされた。2015年4月、在住する東京都北区議会選挙に出馬。6630票を獲得しトップ当選、5月下旬から政治家として議会に臨む。

【DIGITAL BOARD / 取材、文:中川 司、佐藤 文子、青山 大樹】

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