英国家庭医の経験を活かし、日本人医師をサポートしたい

「自分のスキルと経験を活かして、日本の医療の国際化に貢献できればと思っています」
sasae
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イギリスで約10年間、家庭医(GP)として活躍してきた佐々江龍一郎先生。日本の医師免許も取得し、2017年に帰国、現在は都内の病院で総合診療医として勤務しています。日本でどのような活動をしていきたいと考えているのでしょうか――。

◆英国家庭医の経験を持ち、日本の病院へ

―昨年、海外から帰国されたと聞いていますが、どちらにいらしたのですか?

イギリスにいました。イギリスのノッティンガム大学医学部で医師免許を取得後、引き続きノッティンガムで2年間の初期研修を修了しました。その後、同じくイギリス国内のグリニッジという町の診療所に勤務し、昨年日本に帰国しました。

―イギリスの医学部も、日本と同様に難関ですよね?

日本は競争が激しいですよね。小学校受験に始まり、そこからずっと勉強して医学部に行くと思います。一方イギリスはある程度能力があり、ある程度高校時代に努力している人であれば、医学部への入学は可能です。むしろ、日本よりも卒業するのが大変ですね。入学後、10%~20%程度の人が卒業できませんね。

―何科志望だったのですか?

私は家庭医志望だったんです。というのも、初期研修時代に家庭医をローテーションした時、すごくいい先生に巡り会いました。その先生の影響で、家庭医になろうと思ったのです。

イギリスでは家庭医のトレーニングは3年間で、1年半は病院でローテーション、残りの1年半は地域のクリニックで臨床経験を積み、最終的に専門医試験を受験します。 基本的に家庭医は地域がベースなので、日本よりも地域のクリニックでの経験を重視している印象です。

その後はロンドン南西にあるグリニッジという町のクリニックで3年間、家庭医として勤務しました。この地にはナイジェリア人が多かったこともあり、熱帯病などの症例も経験しましたね。その後も、複数のクリニックで家庭医として勤務していました。

―なぜ日本に帰国したのですか?

家庭医は診療の範囲が広く、とても興味深い分野なのですが、その次の段階として何か冒険をしてみたかったんですよね。イギリスには24年間在住していましたが、次はどこに行こうかと考え、オーストラリアや日本など色々候補がありました。最終的には、かつてイーディングという日本人が多い地域で2年間勤務していた経験から、日本はとても興味深いと思い選びました。

◆日本人医師が海外で活躍できるように

―どのような点が興味深かったのですか?

日本という国を見てみると、これからますます外国人が流入してきて、医療の国際化を迎えます。他にも現在、重要視されているものの、家庭医療や総合診療の普及に苦労している状況もあります。このような状況にあるからこそ、自分のこれまでのスキルや経験を活かせるのではないかと思い、帰国を決意しました。

2年前に日本の医師国家試験を受験し、現在はNTT東日本関東病院の総合診療科に勤務しています。NTT東関東病院は東京の中核病院として国際化を進めており、地域的にも外国人が多いということで選びました。

―今後、どのようなことに取り組みたいと思っているのですか?

先程お話したように、自分のスキルと経験を活かして、日本の医療の国際化に貢献できればと思っています。

現在、国内の外国人人口は、増加の一途をたたどっています。しかし海外で、あるいは国内の外国人の方に対して、遜色なく活躍できる医療分野の人材は、他の諸外国と比較しても、まだまだ絶対数が少ないと思うんですね。私は、日本人はもともと非常に優秀だと思っているので、これはとてももったいない状況だと思うんです。

だからこそ、例えば日本の医学生や研修医に対して英語でのコミュニケーションや、時にはイギリスでの地域医療の現状や家庭医のあり方を教えていきたいと思っています。言葉の壁を越えられれば、日本人医師はかなり高水準の医療を提供できると考えています。例えば内視鏡手術などは、諸外国と比較して非常に高度な技術力を持っていると感じてます。ただやはり、医療は言葉のやり取り、コミュニケーションがベースです。そのため言葉の壁があるうちでは、海外では通用しないのが現状ではないでしょうか。その問題を解決するために、自分の強みを活かしたいですね。

あとは後々、私自身が経験したイギリスの家庭医や医療システムを踏まえて、既存とは違う観点で医療政策に関わっていくことができればと思っています。

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●医師プロフィール

佐々江龍一郎 総合診療医 NTT東日本関東病院総合診療科

2005年英国ノッティンガム大学医学部卒業。英国で家庭医療専門医の資格を取得し、キングスミル病院、ピルグリム病院、テームズミードヘルスセンター、ウエスト4家庭医療クリニック、ボイラー家庭医療クリニック、コナートスクエア家庭医療クリニックなど英国内の医療機関に所属し、約10年間家庭医(GP)として研鑽を積む。2016年に日本の医師免許を取得し昨年帰国、現在に至る。

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