【佐藤優】肝に銘じてください。起業は失敗する人がほとんどです。

【佐藤優のお悩み相談室】 21歳の私には、大企業は魅力的ではなく、自分の力で起業したいと思っています。絶対に成功したいです。
佐藤優さん
佐藤優さん

「知の巨人」と呼ばれる佐藤優さんに、モヤモヤした気持ちや悩みをぶつけ、解決の糸口となるアドバイスをうかがいます。ある一つの事象を通じてものごとの底脈をのぞきます。佐藤さん独自のインテリジェンス視点で、考えるヒントを見つけたいと思います。

Q 日本の産業は、自動車、サービス、IT分野どれをとっても、世界をあっと言わせるような強さを持っていません。アメリカのGAFAなどの影に隠れ、ある意味「氷河期」はなお続いています。大企業自体にも輝きがない上に、大企業に入っても、終身雇用制度が崩れている今、メリットも見出せません。やはり自ら起業してやっていく力をつけて、起業するしかないと思っています。絶対に成功したいです。佐藤さん、アドバイスお願いします。 (21歳、都内の男子大学生)

●佐藤さんの答え●
起業すること自体はとても良いことです。ただし、肝に銘じて欲しいのは、起業は、失敗する人がほとんどだということです。

アメリカで起業する人が多くいるような印象が強いのは、絶対的に職の数が少ないからです。起業家になるしかないのです。

アメリカでは、学卒は、無給や低い給与のインターンから始めて、正式な職を得る。希望を100%かなえられていない仕事から始めたり、大学もしくは大学院を卒業して直ちに起業して、大きな会社ややりたい仕事にステップアップするため転職を重ねるという形が常套です。

「成功」しているのは、全体の0.1%に過ぎません。99.9%は失敗しているという意識を持った方が現実に近いです。起業というのはそういうものです。
自分が1000人に1人に入るのだという意識を持ってください。やれるのなら、やってみたらいいと思います。「起業は素晴らしい」というイメージだけに流されてはいけません。現実を意識した上で飛び込んでいかれると良いと思います。

分かりやすく捉えるために、もういちど学生時代に親しみのある偏差値をみてみたら良いかと思います。
大まかにいうと、偏差値73で100人に1人。偏差値80で1000人に3人。1000人に1人の成功といえば言わずもがなですね。それくらいのレベルの成功を狙うという決心をした上で挑戦して下さい。

ユヴァル・ノア・ハラリの「21レッスンズ」を見てみましょう。
1920年に農業の機械化で解雇された農場労働者は、トラクター製造工場で新しい仕事が見つけられた。1980年に、工場がオートメーションし、失業した工場労働者は、レジ打ちになった。
そのような転職が可能だったのは、ある一定程度の訓練しか必要なかったからです。しかし、これからはそうはならない。ロボットに仕事を奪われたレジ打ちの人が、ドローン操縦士にはなれないのです。非常に高度なスキルが必要になるからです。タリバンのアジトと結婚式を間違えて攻撃しては一大事だからです。この本によると、おそらく、大量の「無用者」が生まれることになる。

馬車の時代の御者のようなモデルなわけです。荷馬車の御者はタクシーの運転手になっていったが、今からの時代多くの人は、「我々自身は馬」という運命をたどるのかもしれない、とこの本では指摘しています。

若い人が起業と言って想像するのは、イノベーションの起業ですが、イノベーションの企業ではなく、迫られて起業をするーーそういう選択肢はあるのかもしれません。

厳しい見通しばかり話していますが、もう少し続けます。

組織から離れ自分で仕事を自ら作るという点でいうと、韓国の「起承転チキン」が思い浮かびます。
ジャーナリストのキム・キョンチョル(金 敬哲)さんが「韓国 行き過ぎた資本主義 『無限競争社会』の苦悩」(金 敬哲 著/講談社現代新書)の中で、このように表現していました。
企業を定年で辞めて、フライドチキン屋を起業する50歳代の男性を指し示す言葉が「起承転チキン」です。
2015年のソウル市の調査で、ソウル市民の平均的な退職年齢は男性53歳、女性48歳ですが、退職後の再就職率は53.3%で、平均寿命82.6歳までどう生きていくか迫られるといいます。
そこで、韓国人に人気のフライドチキンの店を開く。これからそういう起業が起きてくるのかもしれません。

キム・キョンチョルさんによると、韓国では、2014年から18年までに年平均約6800のチキン店が開業し、約8600が廃業したという調査結果もあるといいます。厳しい現実があるのは事実です。
いずれ日本もこうなるのではないかと思っています。

■内在するものを引き出そう

大学卒業後、一定期間でも企業に就職し、組織の論理を体得することは重要です。組織は人の能力を引き上げる力がありますから。
それでも、卒業すぐに起業したいと、イノベーションの起業にあこがれているあなた。課題は向こうからやってくるものです。耳をそばだて、感覚を研ぎ澄ませてみましょう。

ヤフーの宮坂学さんモデルを考えてみましょう。大学時代には、バイトに明け暮れていたそうですが、ベンチャー企業の就職を経て、当時のMACを一人一台使わせてもらえることにひかれ、設立まもないヤフーに転職しました。
そこで孫さんとの関係ができて、知られている通りの活躍をされています。
彼の場合、ある意味追い込まれてベンチャーに入っていますよね。

このように、ベンチャーやスタートアップで活躍できるのは、アンテナを持っている人だと言えます。アンテナというのは勘とでもいいますか、生まれながらに備わっているものです。訓練で伸ばすのは無理なものだと思います。ですが、勘といわれていますが、パターン認識なので、感覚を研ぎ澄ませてみてください。

別の言い方をすると、起業して成功している人は自分の中に内在しているものに気づくことに成功しているように思います。
自分が作家として内在しているものに気づいて引っ張りだすことができる人は成功する。自分が起業家として内在するものに気づいて、引っ張りだすことがだすことができた人は成功する。

そもそも内在するものがない場合は引っ張りだせない。
潜在的な可能性があっても、厳しい言い方ですが、引っ張りにくい構造になっていると成功は無理ですね。

■「まだ実力出してない」「いまのわたしは仮の姿」と言っていないか
また、人を押しのけてでも自分は成功したいんだ、と息巻いている人がいますが、実際にやる人は本当に少ないですよね。「やってみなはれ」ができていない。そういう人に、なんで結果でいないんだ、とシビアにきいてみたらいい。
そういう人に限って、「まだ実力出していない」「この場所はわたしのいる場所ではない」「いまのわたしは仮の姿だ」などという。

人間はそんなに強くない。競争の中で人のものを奪ってやるのは難しい。
自分が逃げを自覚するためには、一回そういう競争社会に身をおいてみるのもいいかもしれない。

元に戻りますが、起業というのは、その才能を持っている人が自分の中にあるものを言語化して、引き出すことに成功した場合で、成功できるのは極めてレアケースです。ほとんどの場合、追い込まれてそうなっているのだと思います。人は追い込まれると、生き残るために、その人が持つあらゆる力を用いるようになります。

堀江貴文さんの場合、東大の文IIIに入り宗教学を専攻しています。東大の中の競争の中では、自分の場所は限定的だ。だから、別のことをやろうと思ったのかもしれない。そういう意味では、彼も起業に追い込まれたのかもしれないともいえます。

ディー・エヌ・エーの南場智子さんの場合、新卒でマッキンゼーに入りました。マッキンゼーでは徹夜で働けるからというのが理由でした。当時は男女雇用機会均等法があっても女性を平等に扱ってくれないところが多い中、外資系のマッキンゼーでは自分の限界に挑むことができるからと飛び込んだ。そして、マッキンゼーであるところで先が見えちゃって、自分で小さい会社を作った。
それがディー・エヌ・エーでした。自分で選んだともいえるが、自分の中にもっているものをみて、トップのコンサルになるということを実現せず起業するに至った。起業する人は、とことんやってその上で「捨て身で」でてきている。

どれにしようかな、起業にしようかな、と起業を「選んで」成功した人は、私が見る限りいない感じですね。なんらかに追い込まれて、起業しています。
「儲かりそうだから」、プライドとの折り合いで「こんな人生いやだから」と起業にかけてみるというのではだめです。

ホリエモンは特異な才能があるわけです。100万人に1人しかいないような人をロールモデルにしても、自分がそこにいく確率はひくい。夢をみるだけになっちゃう。特殊な才能は自分にあるかもしれないし、ないかもしれない。それをつかめるのは1000人に1人だと、自分のベーシックの能力を見極めた上で、起業の夢を追いかけてみてください。
(編集・構成 ハフポスト日本版・井上未雪)