なぜヤフーだけは批判されないのか? 論客やインフルエンサーが問題を"スルー"する理由

ニューズウィーク日本版の特集「進撃のYahoo!」。多くの反響があったが、日頃は差別や排外主義の問題について熱心に語る論客や記者が、この問題について押し黙ったのは意外だった。
Newsweek「進撃のYahoo!」
Newsweek「進撃のYahoo!」

ニューズウィーク日本版特集『進撃のYahoo!』で、月間150億PVを誇る日本最大のニュースサイト、ヤフーを特集したところ、多くの反響があった。

改めて見えてきたのは、ネット社会における「マスコミ叩き」の蚊帳の外で、もっとも恩恵を受けて続けているヤフーの姿だった。

ヤフーは「社会的責任」をどう考えているのか。

ヤフーは原則として自ら取材することなく、提携先の媒体社からニュースの配信を受ける「メディア」だ。

トップページのもっとも目立つところに位置するヤフートピックス(通称「ヤフトピ」)は、各配信元メディアのアクセス数を大きく左右するだけでなく、社会的に大きな影響力を持つ。ヤフーの編集者の決定一つでどのニュースが世の中に拡散していくかが決まっていくともいえる。

私が特集で解き明かしたい問題は2つあった。

第一に、ヤフーには、ニュースに対してどのような価値観を持った編集者が存在していて、相応のコストをかけて作られている配信元の記事を読んでいるのかということ。

第二に、これほど影響力のあるメディアとして自社の「社会的責任」をどう考えているのか。より具体的には、高まる排外主義的言説に対してどう立ち向かおうとしているのか、ということだった。

こうした問題意識のもと、多方面に取材した記事は思いの外少ない。かつて毎日新聞、(ヤフーも出資して立ち上がった)バズフィード・ジャパンに記者として所属していた私が書く意味があると思った理由だ。

ヤフー社への直接取材の内容はニューズウィークの特集を読んでいただくとして、本稿ではヤフーの「社会的責任」と、ヤフーに「得」をさせている人々の存在について、気になった点を書いておきたい。

ヤフー・LINE/質問に答える川辺ZHD社長ら
ヤフー・LINE/質問に答える川辺ZHD社長ら

ヤフコメの”功罪”

ヤフーには、ニュースについて一般ユーザーが感想を書き込めるコメント機能(ヤフコメ)が付いている。ヤフコメの実証研究の中では、特に書き込みが多くなるのは韓国関連のニュースであることが示唆されている。(木村忠正『ハイブリッド・エスノグラフィー』新曜社)

その中身はどのようなものか。日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を巡るニュースのコメント欄を見ていこう。

「良い機会なので断交すべきだと思います」「今こそ断韓」「韓国には、資源も、研究力も、消費力も技術力も、道徳まで無いからな」「(韓国人は)凄いアホ」

このような書き込みが上位に並んでいる。ヤフコメはただのコメントではない。これも実証されているが、6割程度の人がヤフーニュースとセットで読んでいる「コンテンツ」だ。

ヤフーは「分断の温床」か

大阪大学准教授の辻大介(社会学)の研究によれば、インターネットへの接触と排外意識―そして反排外意識―の高まりには明確な因果関係が認められる。

インターネットへの接触が増えれば増えるほど、排外意識(反排外意識)が高まり、分断が促されるというのだ。

日本最大のニュースサイトであるヤフーは排外主義、分断の温床になっているのではないかという問題意識には、ある程度の根拠がある。

「マスコミ」がやれば問題になるのに……

2019年9月、小学館の「週刊ポスト」が「断韓」という言葉を表紙に使って批判されたのは記憶に新しいが、新聞社や出版社が使ったら当然のように批判を浴びる言葉が、月間150億PVを誇るニュースサイトのコメント欄の上位に公然と残り続けている。

つまり、ヤフーは巨大な影響力があるにも関わらず、こうしたコメントを残し、多くのユーザーがニュースとセットで受容する環境を作り上げている。

日本にはびこる排外主義的言説を後押しする方向に、その力を行使しているのではないか。これで、巨大メディアの社会的責任を果たしているとは言えないだろう。

こうした問題意識で書いた特集について、ウェブメディア業界からも心ある記者たち(ハフポスト日本版の編集者も含む)が、賛同の声を上げてくれた。ヤフーについて、日頃から問題があると思っていても、記事を配信していることもあり、声を上げることが難しいことは私もよくわかる。それだけに、彼らの声には励まされる思いだった。

ヤフージャパンのロゴ
ヤフージャパンのロゴ

ヤフー問題をスルーする人々

意外だったのは、日頃は差別や排外主義の問題について熱心に語る論客や記者、ネット上のインフルエンサーの多くが、この問題について押し黙ったということだった。

具体的に言えば、週刊ポストに抗議の声をあげ、『新潮45』休刊につながるような記事なり、言説なりを生み出してきた人々だ。

日頃あれだけ立派なことを口々に語っている人々が、結局のところ叩きやすいターゲットを徹底して叩いているだけで、より大きな対象には一切言及しないというのは、なかなか興味深い現象だった。

なぜそうなるのか。

先にも書いたように、ヤフーとビジネス上の取引をしており、お世話になっているヤフーに声を上げるのは憚られるというのはよくわかる。単純に無関心、もしくは構造を知らないー知ろうとしないーということもあるだろう。

だが、おそらく問題はそこだけではないだろう。

より大きいと私が考えているのは、彼らもまたネットの空気と共鳴することによって、その拡散力を調達していることにある。

「マスコミ」を叩けば、いくらでも広がる

ネット上に渦巻いている空気――。ネットには韓国、中国だけではなくもう一ついつまでも強く叩ける対象がある。マスコミだ。政治的な右派か左派かを問わず「反マスコミ」は根深く残っている。

小学館や新潮社という「マスコミ」が発行元になっている媒体を叩けば、「反マスコミ」と共鳴して声は広がる。マスコミは叩きやすい存在なので、論客たちの声はネットの空気ときれいに結びつき、シェアされ、広がっていく。

マスコミを叩けば、いくらでも広がり、媒体そのものを潰すこともできる「怒り」はヤフーには向かわない。

なぜなら、「反マスコミ」という空気にとってのマスコミとは、かつての4大マスメディア(テレビ、新聞、出版、ラジオ)を指すからだ。ネット上のマスコミは、認識がアップデートされず、時間が止まっている。

スルーされ続ける排外主義的言説

「マスコミ」の定義において、時が止まっているのは論客や記者たちも同じなのだろう。

たとえば中国人技能実習生が逮捕されたニュース。ヤフコメ上位は「技能実習生は金目当てだから簡単に犯罪に手を染める」「金が底をつけば犯罪する」というものだ。

私はこれを排外主義的言説と呼ぶが、ヤフーの位置付けでは、コメントは「オリジナルコンテンツ」なのだ。

同じ論理を新聞や出版社が展開すれば、まず徹底的な抗議が論客から起きるだろう。しかし、ヤフーだけはスルーされたままコメントは残り続ける。日頃から差別的言説に敏感な人たちが抗議の声をあげないからだ。

誰が恩恵を受けているのか?

結果、「反マスコミ」の恩恵を最も受けているのは、日本最大のネットメディアにして、巨大マスメディアでもあるヤフーだ。

彼らは「反マスコミ」の批判対象にはならず、日本の排外主義(そして反排外主義)を強め、分極化を促す存在として残り続けていくのではないか。巨大プラットフォーマーは、批判されないことで社会的責任を回避し、問題だけが温存されていく。

私は、ヤフーをニュースの百貨店だと捉えている。私は一製造者として、百貨店に自分のブランドを納品する。

当然ながら、商品がちゃんとした店舗で販売されているか、バイヤーたちが商品を取り扱うに値する真っ当な人々かをチェックする。その結果、改善すべき点があれば取引先として当然ながら声をあげる。

声を上げれば損を被ることもあるだろう。だが、自分の商品がいい加減に扱われるよりはよっぽどマシである。

注目記事