女性をとりまく「女性活躍」「年相応」という呪縛。

ファッションやコスメに、一体何ができるのか。
栗原洋平

女性ファッション誌のキャッチコピーが「時代遅れな女性の描き方をしている」といって物議を醸すなど、女性にとって残念なニュースが相次いでいる。

「時代を写す鏡」として、日々移りゆく社会や流行、価値観を描き続けてきた「ファッション」や「コスメ」。女性のライフスタイルに寄り添ってきたこれらの業界は、女性の自由な生き方にどう貢献するのだろうかーー。

『ViVi』『GLAMOUROUS』『VOGUE GIRL』などの女性誌を手がけてきたファッション編集者・軍地彩弓氏と、俳優の三浦春馬さんを起用した「オルビス ディフェンセラ」のCMで注目を集めた、オルビス株式会社代表取締役社長・小林琢磨氏が語り合った。

女性に「頑張れ」を強いる社会はダイバーシティではない

軍地 今日、オルビスさんのオフィスに来て驚いたんですけど、皆さんすごくカジュアルな服装なんですね。小林さんも「社長」というくらいだから、スーツだと思い込んでいました。

小林 もちろんスーツを着るときもありますけど、たいていはこんな感じです(笑)。

軍地 それが素敵ですね。ファッションって「時代を映す鏡」だと思っていて、私は業界に入って三十数年が経ちますけど、駆け出しの頃は「OL」といえば制服があって、総合職でもスーツにパンプスという“標準形”がありました。いまは一人ひとりの服装も自由になって、多様になってきたとはいえ、男性はいまだにスーツが大半ですから、すごく珍しいなと。

以前はある種、明確な女性像がありましたが、ライフスタイルが多様になって、ファッションの幅も広がってきました。美容業界もそうした変化に合わせて、対応しているのでしょうか。

小林 確かに、女性像は少しずつ変わってきたかもしれません。ここ数年は「女性活躍」的な文脈が目立つようになってきました。女性が管理職を務めたり、働く領域が広がったりしてきたことは、喜ばしい流れだと思います。

ただ、全体的な傾向として、世の中の論調や広告などを見ていると、「女性活躍」とか「女性はもっと輝ける」って、ちょっと構えてしまう人も多いのではないかと思うんです。女性の多くはこれまでも、十分頑張ってきたじゃないですか。頑張ってきた人にさらに「頑張りましょう」「輝きましょう」と声をかける施策自体が定型化してしまって、むしろダイバーシティではないような気がするんです。

栗原洋平

軍地 日本はジェンダーギャップ指数110位ですし、女性がフラットに生きていける状況かというと、まだまだそうとは言いきれません。一方で「フェミニズム」というと肩ヒジ張らなければならないイメージもある。いい意味で肩の力を抜いて、もっと自由に生き方を選べるようになっていってほしいですね。

小林 女性の皆さんはより本質的なリベラルさを求めていますよね。ダイバーシティの時代に、「輝こう」とか「頑張れ」とかではなく、もっと寄り添うことができる言葉があると考えた時に、私たちはブランドメッセージとして「ここちを美しく。」を打ち出すことにしたんです。サイエンスの観点から考えれば、どんな高価な化粧品を使うより、ストレスフリーに「心地よくいられる」ほうが、肌にいい影響を及ぼすかもしれないじゃないですか。

軍地 確かに。

小林 オルビスは、一人ひとりと長く関係性を築き、ともに「いい歳の重ね方」ができるブランドとして寄り添うことができたらと考えています。美容業界ではどうしても、「歳を重ねること」がある種の“強迫観念”になってしまっていることも多い。そういった恐怖感で支配しようとするのは、健全なあり方ではないと思うんです。ですから、「エイジをアンチ」するのではなく、人が本来持つ強さ・美しさを最大限に引き出す「スマートエイジング」の価値を多くの方へ伝えていけたらと考えています。

「年相応」でなく「自分相応」のファッションを

軍地 私も最近よく「いかに歳を重ねるか」を考えているんですが、周りを見渡すと、やっぱり熱心にアンチエイジングに取り組んでいる人は多いんですよね。韓国へコスメ旅行に行ったり、“プチ整形”してみたり。美容医療の技術も進化していますし、それだけ関心が高いのも頷けます。

栗原洋平

軍地 一方で、白髪を染めないヘアスタイルが「グレイヘア」として注目されたり、樹木希林さんのようにすっぴんで過ごす美しさが共感されたり、少しずつ「年相応」も多面的になってきました。

きっと心地よくいられるあり方は人それぞれで、50代で「20代のような肌のハリを」と追い求めている人がいてもいいと思うんです。彼女にとってそれが「心地いい」かどうかが重要ということですね。

小林 そうなんですよね。僕自身、「スマートエイジング」と言っておきながら、心のどこかで「これ以上シワが増えてほしくない」という本音もあるんです(笑)。でも、シワができたからといって、「細胞に変化を加えてなんとかしよう」とまでは思わないし、かといって「刻まれたシワが美しい」とか高尚なことを言いたいわけでもない。それぞれが心地よくいられる状態で、年の取り方を選べればいい。

軍地 ファッションでも最近顕著なのが、歳を重ねた人たちの勢い。ニューヨークのとあるアイウェアブランドのファッションショーを観に行ったとき、フロントロウ(招待席の最前列)にはズラリとおしゃれなおばあちゃんたちが座っていたんです。その中には、アイリス・アプフェルという90代のファッショニスタもいました。彼女は大きなメガネがトレードマークで、とてもポップでアイコニックなスタイルを貫いているんです。

小林 確かに。海外のセレブは年齢なんてまったく関係ありませんよね。

軍地 かたや、日本ではある種「年相応」のファッションが規定されていて、以前ある行楽地に行ったとき、60〜70代の方々がみんな似たような帽子やアウターでリュックを背負っていて、まるで“制服”みたいでした。もっとカラフルなジャケットを着たり、派手なネックレスを身につけたりしてもいいじゃないですか。私が『ViVi』のお姉さん版として『GLAMOROUS』を創刊した一番のきっかけって、女性を取り巻くある種の規範を取り払いたかったからなんです。

当時、「30歳を越えたら結婚して、いい奥さん、いいお母さんにならなきゃ」みたいな空気感がありました。でも、30歳を越えてもTシャツにジーンズでいいじゃん。それがオシャレだしかっこいいよね、と言いたかったんです。

小林 『GLAMOROUS』は衝撃でしたね。本当に、新しい女性像を見せてくれて。

栗原洋平

軍地 なんというか、「年相応」でなく「自分相応」のものを見つけられるのが、一番幸せだと思うんです。

日本は本当に同調圧力が強くて、ママ友の中で目立つといけないから、派手な格好はできないとか、表参道ですら、インスタママたちはマクラーレンのベビーカーにモンクレールのダウンコート、MARNIのショッピングバックが大半……というように全部「記号化」されてしまう。そこから逸脱してもいいじゃないですか。ニューヨークに行くとすごく気が楽になるのは、いろんなスタイルが許容されているから。ハイブランドに身を包んだ人もいれば、ビックリするくらい無頓着な人もいる(笑)。それぞれ好きな格好をして、幅のある社会になっていくといいなと思います。

みんなとりあえず「スーツを着ていれば安心」なんて、気持ち悪くないですか?

小林 僕もそれが苦手なんです。堅苦しくて。

軍地 きっと、化粧品も同じなんですよね。選択肢が少しずつ増えてきて、その中で自分にとってのベストを見つけていく。ファッションでも化粧品でも、何か新しいものに触れたりトライしたりすることで、自分の好きなものを見つけていけたらいいですよね。

美しさの定義は、もっと多様でいい

軍地 ファッションと化粧品は、私たちの固定概念を崩す象徴的なものだと考えていて。例えば、以前MACの青いリップが流行ったみたいに、面白い時代になってきたなぁと思いました。

栗原洋平

小林 そうですね。昨年にはTHREEでもメンズのメイクライン「ファイブイズム バイ スリー」を発売して、時をほぼ同じくしてシャネルからもメンズラインが発売されました。まさにそういう時代になってきているんですよね。

軍地 「オルビス ディフェンセラ」(2019年1月発売の肌へのトクホ)のCMでも三浦春馬さんを起用されていますが、そういった時代背景も頭にあったんですか?

小林 「オルビス ディフェンセラ」のコンセプトが「ボーダーを超えていく」だったので、はじめから男性と女性どちらとも起用しようと考えていましたね。

軍地 最近、20代の子たちと話していると特に感じるのが、本当にジェンダーって曖昧になってきているということ。うっすらファンデーションする男性は、ゲイの人でもそうでなくても普通にいるし、女性がメイクしたりスカート履いたりするなら、「別に男がしてもいいよね」という感覚。美しさを求めるのが、女性だけのものでなくなってきているのは、とても素敵です。

それと同時に、「バリバリ働く」も男性だけのものではなく、女性のものであっていい。「性差がなくなればいい」というわけでなく、これまで世の中の規範や呪縛によって、できなかったことができるようになったり、チャンスが増えていったりすれば、それこそ「生産性は上がる」と思うんです。

小林 「選択の自由」は絶対に必要ですよね。生き方やあり方を選べる自由。これまで多くの化粧品メーカーが、「女性はキレイで居続けなければならない」「年に抗わなければならない」という強迫観念を作り出してきたけれど、それを変えていかなくてはならないと思っています。

(企画編集:水野綾子、文:大矢幸世+YOSCA、写真:栗原洋平)

プロフィール

小林琢磨(こばやし・たくま)

1977年生まれ。2002年にポーラ化粧品本舗(現ポーラ)へ入社し、2010年にグループの社内ベンチャーで立ち上げたDECENCIA(ディセンシア)社長へ就任。2017年1月にオルビスへ異動し、取締役 商品・通販事業担当に着任。翌年、2018年1月1日にオルビスの代表取締役社長に就任。ポーラ・オルビスホールディングス上席執行役員を兼務。

軍地彩弓(ぐんじ・さゆみ)

大学卒業と同時に『ViVi』編集部で、フリーライターとして活動。その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力。2008年に現コンデナスト・ジャパンに入社し、クリエイティブ・ディレクターとして『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。現在は雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルアドバイザーから、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)のファッション監修、情報番組「直撃LIVEグッディ!」のコメンテーターまで、幅広く活躍する。

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