17のゴールだけでは見えてこないSDGsの本質。企業はどう見つけるのか?

SDGsは多くの企業で意識されているが、実はSDGsの最も重要な哲学が表現されているのはその前文と宣言にある。

多くの企業がSDGsで設定されている17のゴールを目指しているが、ゴールを見ているだけではSDGsの本質は見えず、また本来の企業戦略を見失ってしまう恐れがある。SDGsを超えて本質的な企業の存在価値を見つけるにはどうすればいいのか。第4回サステナブル・ブランド国際会議2020横浜の2日目にこの難問に挑戦するセッションが開かれた。SDGsに明確な目標が定められていない介護や人事に取り組むベネッセスタイルケアやOne HR(東京・江東)も参加し、活発な論議を行った。(環境ライター 箕輪弥生)

17のゴールだけを見ていてもSDGsの本質は見えてこない

2030年までに全世界で解決するべき問題を、 17の目標と169のターゲットに落とし込んだSDGsは多くの企業で意識されているが、実はSDGsの最も重要な哲学が表現されているのはその前文と宣言にある。

セッションの進行役を務めたSDGパートナーズの田瀬和夫CEOはこう冒頭で話した。前文にある有名な言葉「誰一人取り残さない」は、2000年代を通じて広がってしまった格差を解消し、社会的弱者が排除されない「すべての人が参画できる社会」への決意を示している。

そして、最も重要なキーワードは同じく前文に出てくる「in larger freedom(一層大きな自由)」だと田瀬CEOは言う。つまりこれは、多様な選択肢から生き方を「選ぶ」ことのできる社会、すべての人が自分らしく生きられることを意味しており、この考え方はルーズベルト大統領のニューデール政策から綿々と続いてきた国連システムを根底から支えてきた概念だという。

このほかに、「well-being(よく生きる)」や「将来の世代のニーズに応える」も前文と宣言にある重要なキーワードとしてあげた。“世代を超えて、すべての人が、自分らしく、良く生きられる”というSDGsのビジョンを理解することが何よりも重要であり、それは17のゴールだけを見ていてもわからないと説明する。

つまり、企業はSDGsの概念を理解した上で、それを超えたところにあるものを目指すべきであり、そこに本当の企業の存在意義(パーパス)があると田瀬CEOは説く。

「超高齢社会への対応」を18番目のゴールに設定―ベネッセスタイルケア

田瀬CEOによるSDGsの解説に続いて、実際にSDGsを超えたゴールを設定した企業や組織が実例を紹介した。

日本が直面する大きな課題である「少子高齢化」は実は17のゴールには含まれていない。介護事業をスタートして25年、運営する老人ホーム数は約330拠点という日本でも最大の介護ビジネスを行うベネッセスタイルケアは、18番目のゴールとして「超高齢社会への対応」を独自に設定する。

介護は専門性の高い職種でありながら、一般の人にその認識が低い。各種のマスコミ等でも「外国人労働者に単純労働である介護への門戸を国が開いた」などと表現する場合がある。

ベネッセスタイルケアの滝山真也社長は「介護は単純労働ではなく、専門性が必要とされる難しい仕事だ」と語気を強める。そのため、同社は介護の仕事の専門性を言語化し、人材育成を体制化することに力を注いだ。

たとえばある老人ホームである人の認知症ケアで困っていたとする。それを3時間話しただけで今まで見たことのない笑顔を引き出したスタッフの介護技術を言語化し、その人のノウハウを社内に広げて人材育成に生かしていく。またこういった「神業ともいえる専門性」を専門資格制度で認定し、報酬にも反映していく。

またこれまで25年の事業で蓄積してきた介護技術や知見を「介護アンテナ」というサイトでまとめて、外部に無償で提供する仕組みをスタートした。今後はサイトに介護技術を紹介する動画や災害時の対応情報なども追加していく意向だ。滝山社長は「介護の仕事の価値を高め、社会に還元することが売り上げにもつながっていく」と説明する。

ベネッセとはラテン語で「well-being」の意味を持つ造語であり、「よく生きる」ことがグループ全体の存在意義となっている。その中で、ベネッセスタイルケアが目標とする「その方らしさに、深く寄りそう」ことはSDGsを超えた意味を持つゴールなのではと考えさせられた。

サステナブルな令和型人事を提案―One HR

続いて登壇したのは、企業の人事や人事事業者を中心に約1000名が活動する若手の有志団体「One HR」の西村英丈共同代表だ。

One HRは、持続可能な個人や組織をつくるために、これからの時代の人事機能(Human Resources)に必要な「HR’s SDGs」を昨年発表した。HR’s SDGsで掲げる6つのゴールは以下だ。

1.働く責任 働く自由 2.違いを力に 3.本音で語れる場づくり 4.志と志を重ねて 5.育つために育てる 6.はたらくを楽しく

働く個人の目標と、企業の存在意義や社会的課題への取り組みが一致してこそゴールが達成できると西村共同代表は話す。それには、組織視点であるアプローチ(人材発掘、評価報酬、人材配置)と、働き手の個人視点であるアプローチ(安心安全、つながり、承認欲求、自己実現、自己超越)がリンクすることが重要だと説明する。

つまり「企業のビジネスプランを達成する上で本人へ与えられた役割」と「個人の承認欲求や評価」をいかにリンクさせるかが、令和型人事部モデルの核となるというわけだ。そして、そのどちらにも「well-being(よく生きる)」が共通の概念として根底に流れている。

最後に田瀬CEOは、「一人ひとりが自分らしく生きるためにはどうしていけばいいか、企業も従業員も考えること。その上で、どういう社会を引き継いでいくか、その企業がどんな役割を果たしていくかを考えていくことでSDGsを超えたゴールが見えてくるのでは」と締めくくった。

SDGsを考える上で、まずは前文や宣言を改めて読み解いてみることから始めるのがいいのかもしれない。

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