持続可能な社会を構築するための防災・減災システムとは?

SDGsでは環境や人権がクローズアップされることが多いが、防災・減災の社会システムも重要なテーマの一つだ。
左からファシリテーターの江戸氏、パネリストの山本氏、田村氏、吉田氏、石川氏
左からファシリテーターの江戸氏、パネリストの山本氏、田村氏、吉田氏、石川氏
サステナブル・ブランド ジャパン

SDGsでは環境や人権がクローズアップされることが多いが、持続可能な社会を構築するには防災・減災も重要なテーマの一つである。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では初めて「持続可能な防災・減災システム」をテーマにセッションが行われた。まだ記憶に新しい2018年7月の西日本豪雨を題材に、ファシリテーターの県立広島大学の江戸克栄教授を中心にマーケティングと防災を結び付け、新しい社会システムの構築に向けた取り組みについて話し合った。(岩崎 唱)

ファシリテーター:
江戸 克栄(県立広島大学大学院 経営管理研究科 ビジネス・リーダーシップ専攻長 教授)
パネリスト:
山本 洋子(中国新聞社メディア開発室 兼 編集局経済部記者)
吉田 千穂(富士通 地域社会ネットワークビジネス推進部マネージャー)
田村 雅史(あいおいニッセイ同和損害保険 商品企画部 企画グループ担当次長)
石川 淳哉(ソーシャル・グッド・プロデューサー)

率先して早期避難ができる人の育成が必要

ファシリテーターの江戸克栄氏は、一昨年の西日本豪雨による広島の災害を目にして防災・減災とマーケティングを融合させた防災マーケティングの必要性を感じ、これによって新しい社会システム構築をめざしたいと述べた。続いてパネリストからさまざまな取り組みが報告された。

最初に中国新聞の山本洋子氏から過去に広島で起こった土砂災害の事例報告がなされた。広島ではこの5年間で2度の大きな土砂災害に見舞われている。広島は気候が温暖で台風被害も少ないが、土砂災害警戒区域の数は全国最多。1999年の「6.29豪雨災害」を契機に「土砂災害防止法」が制定され、2014年8月の「広島土砂災害」では「土砂災害防止法」が改正され「土砂災害警戒避難ガイドライン」が制定されたにもかかわらず2016年7月の「西日本豪雨災害」では、警戒区域の住民が逃げ遅れ、広島県内で138人の犠牲者が出た。

このことから住民を避難させるのは難しく、「避難したくない」という気持ちを軽減させる必要がある。同時に、早期避難の率先避難者を育成する必要があると述べた。また、住民が避難行動をとるには高いハードルがあり、避難所の環境や場所など住民がどんな情報やサービスを求めているか多様なアプローチが必要であると訴えた。

ICTを活用し防災・減災を支援

続いて、富士通の吉田千穂氏が防災・減災へのICT活用の取り組みを紹介した。2016年の台風15号の被害を振り返ると、避難準備という言葉が一般に周知されておらず、逃げ遅れる方が多数いた。また後の調査で防災行政無線が大雨のため聞き取れない地域もあった。このことから災害時に誰でも必要な情報がきちんと手に入れられるよう、多様な手段で情報提供を行う必要があると感じた。2019年の台風15号、19号では想定外の大きさで被害が広範囲におよび、市区町村では避難情報の発令判断に苦慮した。

こうした災害に対するICT活用の事例として、愛知県ではクラウド上に「市町村防災支援システム」を構築し、担当者がスマホ、タブレットから写真や位置情報を付けて現地から被害報告できるようにして業務軽減化を図り、住民への対応を早める取り組みをしている。また「防災ダッシュボード」機能を用意し、天気・気象情報を時系列で表示し、今後の予測も1画面で確認できるようにしている。さらに愛知県の各市町村の危険度を一覧表示し、自治体の避難情報発令の判断(意思決定)を支援している。

また東北大学、東京大学、川崎市、富士通の産学官連携による「津波被害軽減に向けた共同プロジェクト」では、人工運河が多い川崎臨海部における津波の複雑な挙動を予測し、人の行動モデルをシミュレーションすることで津波発生時の避難経路などの事前対策に活用している。また、沖合に津波の観測点からのリアルタイムなデータをもとに津波波形を高精度に予測し、リアルタイムに津波浸水エリアなどをシミュレーションすることで防災・減災に役立てることができていると報告した。

損害保険の面から早期避難を促す

あいおいニッセイ同和損害保険の田村雅史氏は、持続可能な防災・減災の社会システムの構築をめざし、損害保険を活用した取り組みを紹介した。近年、損害保険業界では風水害等による保険金支払いが大きく増加しているが、同社は昨年、迅速な保険金支払いの取り組みを実施した。

同社が属するMS&ADインシュアランスグループホールディングスは、2030年までにレジリエントでサステナブルな社会の実現を目指しており、そのためのビジネスモデルとして「リスクを見つけ伝える」「リスクの発現を防ぐ・影響を小さくする」「経済的な負担を小さくする」という取り組みを実践している。自動車保険では、すでにドライブレコーダを利用してリアルタイムで情報を集め、安全運転をしていると保険料が割引になるテレマティクス自動車保険を導入している。顧客に対し安全運転サポートを行い、万一事故が起きた場合は、夜間・休日でも迅速な事故対応ができる。

自動車保険が事故後の保険から事故を起こさない保険と変わってきているように、損害保険も災害に遭ったあとの保険から、防災・減災になる保険が必要だと指摘した。自動車のテレマティクス保険のシステムを防災・減災の分野にも応用し、早期避難を促すような新しい避難保険の商品化をめざし、いま県立広島大学と共同研究を開始していると説明した。

みんなが助け合うことができる世の中に

ソーシャル・グッド・プロデューサーの石川淳哉氏は、西日本豪雨のときに岡山県真備町では、事前に公開されていたハザードマップと被災した地域がほぼ一致していたことを取り上げた。災害が起こることがわかっていたにもかかわらず51人もの人が水害で亡くなり、避難しなければいけない人が避難していないという問題があることを提起した。

また、石川氏自身も昨年の台風19号で自宅が被災し避難することになったと自身の体験を語った。後日、周囲の人の声を聞いたところ、多くの人が避難していなかったことがわかった。理由はさまざまだが、ペットを飼っている人からは、ペットと一緒に入れる避難所がわからないので自宅にいたという声が多かったという。

課題の解決には自治会の働き、インターネットを使ったソサエティの構築など多彩な対策を考慮する必要がある。また、台風と地震では同じ災害でも分けて考える必要もあると主張する。ケネディ大統領が「人間を月に送る」という大きな目標を掲げたことにより宇宙開発が進んだように、誰もが共感できるように大きな石(目標)を遠くへ投げることが求められている。その上でみんなが助け合うことができる世の中をつくっていかなければと話した。

最後にファシリテーターの江戸克栄氏が、防災関連では自助、公助、共助といわれるが、自助にも公助にも限界がある。防災マーケティングをやっていると、民間企業の力が必要になってくる。新しい社会の仕組みを考えないといけない。持続可能な防災・減災の社会システムは、これからのテーマ。引き続き、皆さんと考えていきたいと述べた。

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