新型コロナが収束したら、どんな世界で生きていきたい?

「人生にとって何が本当に大切か」を改めて考える機会となっている今だからこそ、未来の社会について考えたい。
水の都ヴェネツィアは封鎖によって水路の水が澄んできたといわれる
水の都ヴェネツィアは封鎖によって水路の水が澄んできたといわれる
サステナブル・ブランド ジャパン

新型コロナウイルス感染症の拡大を食い止めた後、どんな世界で暮らしていきたいか。2008年のリーマン・ショックから経済を立て直すとき、私たちはサステナブルな社会を築く方に転換できたがそうはしなかった。二酸化炭素の排出量は増え、森林伐採は続いた。不安な日々が続くが、多くの人が人生にとって何が本当に大切かを改めて考える機会となっているいまこそ、未来の社会について考えたい。(翻訳=梅原洋陽)

私たちの不安は頂点に達しているだろう。しかし、新型コロナウイルスによるロックダウンはほんの少し、ポジティブなことをもたらしている。例えば、ソーシャルメディアはかつてないほど、親切で、人々を束ねる場所となっている。家で仕事をすることで、大切な人と過ごせる時間が増え、深く考え、読書をし、脳に休憩する時間を与えることができている。多くの人が、人生にとって何が本当に大切かを改めて考える機会となっているだろう。

世界規模で拡大している感染症と人間が引き起こす地球の破壊は明確な関連がある。エボラ出血熱やジカウイルス感染症などのウイルスの発生と森林破壊は無関係ではない。現在起きているパンデミックは、自然環境にとっては人間による破壊をほんのつかの間止める応急処置のようなものだ。

イタリア・ヴェネツィアの水は最近まで濁っていたが、現在は透き通っており、現地の人たちは「自然が人間のリセットボタンを押したんだろう」と言っている。言うまでもなく、イタリアの大都市の空気もきれいになっている。欧州の地球観測衛星Sentinel-5Pによると、3月初旬に同国がロックダウンに入ってから、二酸化窒素は40%減少した。

ウイルスの発信源である中国では、国内の数千の工場の生産性が落ちたために電力需要が減少、温室効果ガスも劇的に減少した(工場が閉鎖したことで、業種によっては40%も生産量が落ちたところもある)。これは2月の中国の二酸化多酸素排出量が4分の1以上減少していることからも分かるだろう。旧正月の直後、例年であればとても忙しい、汚染のひどい時期にこのようになった。昨年の同じ時期、中国は約800メトリックトンもの二酸化炭素を排出している。

IEA(国際エネルギー機関)の分析によると、新型コロナウイルス感染症の大流行により世界の石油需要は9月までに0.5%減少すると予測されており、2020年の地球の二酸化炭素の排出量は引き下がるだろう。

もちろん、多くの企業は通常営業に戻ることを強く望んでいるため、長続きはしないだろう。しかし、私たちはこのパンデミックのもう一つの側面として、世界がどのようになれるかをじっくり考えることができている。「新しい現実(ニュー・ノーマル)」の定義はこれからなされていくのである。大混乱はイノベーションや再生するための機会となりうる。

これこそが、さまざまな環境学者や活動家、指導者がいま伝えているメッセージだ。

国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長もそのひとりだ。経済が速くもとに戻ることを望んでいるが、新型コロナウイルスの拡大が終息した後は、化石燃料ではなくクリーン・エネルギーが優先されることを期待している。

「ある意味、これは世界にとって経済を立て直す歴史的なチャンスです。そして、環境汚染を招く投資を減らし、電力を転換するチャンスでもあります」

二酸化炭素の排出量をゼロにするモビリティ・システムの実現を目指している欧州のNGO 「Transport & Environment」は欧州の各国政府に、通常営業が再開したら、航空会社がより低炭素の燃料を使い始められるよう財政的支援を行うことを求めている。

世界各地でさまざまな動きが起きている。ニュージーランドの学生が率いる団体「ジェネレーション・ゼロ(Generation Zero)」はスマート・トランスポーテーションや住みやすいまちづくりを通して二酸化炭素の排出量削減を目指している。このパンデミックを乗り越え、政府がウィン・ウィンのシナリオを作り出せると信じているようだ。

この状況は旅行業界や経済成長にとって大きなブレーキとなっているが、政府にとっては「脱炭素の道を選ぶチャンスかもしれません。従来のやり方にしがみつくことは、ゼロ・カーボン経済にシフトするために支援を求めている企業にとって悪影響です」とジェネレーション・ゼロのデューイ・サカヤン氏は言う。

しかしながら、活動家たちは彼らの要求が簡単に受け入れられるとはまったく思っていない。米国では、さまざまな業界がトランプ政権の総額1兆ドル(約107兆円)の大型財政支援を巡り競い合っている。そしてその多くは航空業界に使われるだろう。

この状況の慰めになりそうなこととしては、政府や中央銀行は、必要だと強く求められれば巨額の財政支援を打ち出せることが分かった点だろう。多くの国がかつてない規模の救済措置を行っている。これは気候危機に対抗するために似たような政策が展開される前例となるだろう。

しかしながら、こうしたことは過去にもあった。2008年に世界金融危機から立ち直った際に、よりサステナブルな方針に切り替えるチャンスはあった。しかし、通常に戻るという流れの方が、現状を変える勢いよりも強かった。二酸化炭素の排出量は増え、森林伐採は続くことになった。窮地に追い込まれた場所では、経済成長のために環境を保護する法律が廃止された。

CEOたちが家で子どもと過ごし、投資家は家のダイニングテーブルでパソコンを開き、政治家は将来のことを考える。そうしたことに、かつてないほどの時間を費やすことができている。長期的で、持続可能な決断が重要視される時が来たのではないだろうか。

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