父を知ろうと本を読み、歴史が好きになった。『関ヶ原』で“裏切り者"演じた東出昌大が語る

『関ヶ原』に出演した東出昌大さん。大の歴史好きで、読書家だ。
インタビューに応じてくれた東出昌大さん。
インタビューに応じてくれた東出昌大さん。
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「徳川家康っていう、嫌な男がいるんですけど・・・その嫌な男に、石田三成という正義の心を持った若い武将が、ギャフンと言わせようとするストーリーです」

歴史をあまり好きではない若者に、関ヶ原の戦いを真っ正面から描いた映画『関ヶ原』の魅力をどう伝えるか?

この質問に、物語の鍵を握る人物・小早川秀秋を演じた東出昌大さんは、上のように答えた。

8月26日から全国で公開される映画『関ヶ原』。『クライマーズ・ハイ』や『日本のいちばん長い日』を手がけた原田眞人監督が、25年にわたって試行錯誤を重ね、司馬遼太郎の原作小説を映画化した。

同作では、これまで語られてきた関ヶ原の戦いが、原田監督による新しい解釈のもと描かれている。従来"裏切り者"の代表格だった武将・小早川秀秋も、それまでのイメージが覆されるような人物像で描かれた。

大の歴史好きでもあり、自身を「懐古主義的なところがある」とも語る小早川役の東出昌大さんに、同作にかけた思いを聞いた。

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1600年9月15日、美濃国不破郡(現在の岐阜県不破郡)であった関ヶ原の戦いは、徳川家康の率いる東軍が豊臣秀吉の家臣だった石田三成を中心とした西軍と争い、勝利した天下分け目の決戦。この3年後に徳川家康は江戸幕府を開いた。

映画『関ヶ原』は岡田准一さん演じる石田三成を"正義を信じ、愛を貫く純粋すぎる"武将として主人公に置き、その対極として、圧倒的な存在感を放つ徳川家康(役所広司さん)を天下取りの野望に燃える豪快な武将として描いている。どの戦国武将も、キャラクターに富み、非常に魅力的だ。

©2017「関ヶ原」製作委員会

撮影はロケーションにこだわり、多くのシーンが国の重要文化財を含む歴史的建造物で撮影された。東本願寺・大寝殿での撮影は映画作品として初めて許可が降りたという。

東出さんは、「撮影現場は本当に緊張感がありました」と振り返った。

「撮影初日に現場に行って、原田眞人監督に『おはようございます』と言ったら、返事がなくて。他の出演者やスタッフが声をかけても返さないんです。

『おはようございます』と挨拶して、『これから始めよう』ということではなく、『現場にいるのだからもうここはすでに戦場だ』ということなのではないかと。それ以降は、ホテルを出る前から始まっているんだという気持ちで現場に臨みました」

東出さんが演じた小早川は、三成の要請を受けて西軍として参戦するも、合戦の最中に三成を裏切り、東軍が勝利するきっかけを作った人物として知られている。

©2017「関ヶ原」製作委員会

司馬遼太郎の原作をはじめ、多くの歴史書で小早川は、"優柔不断"で"臆病"な武将として伝えられてきた。しかし原田監督は、長きにわたる構想の結果、小早川を「義を貫こうとする」武将として描いた。

「クランクイン前日、原田監督と食事をしている時に、半ば冗談のように『全国の小早川さんが胸を張れるような小早川になってほしい』と言われました。なよなよしていて、蒼白で、どっちつかずの小早川秀秋ではなく、武士に成りきれなくてもしっかりとした気概を持ち、背筋を精一杯伸ばしている。そんなお芝居を心がけました」(東出さん)

原田監督は、小早川の人物像について、「調べれば調べるほど、関ヶ原に於ける最年少武将19歳の秀秋の決断は裏切りではなく、年月をかけた豊臣の権威への『復讐』に違いないと思うに至った」とつづっている(※)。新しい小早川秀秋像を打ち出すため、関ヶ原の戦い以前の"不遇の時代"にフォーカスを当てた。

(※)プレス資料 原田眞人監督「なぜ、今関ヶ原か?」より

©2017「関ヶ原」製作委員会

特に、合戦が終わり、小早川と三成が対面するラストシーンが印象的だ。原作では東軍に寝返った小早川を三成が激しく叱責するが、映画ではまったく異なる描き方をしている。

原田監督の解釈のもと生まれた"新しい"石田三成と小早川秀秋が、まさしく役者に乗り移っているのではないかと思うほど、そのシーンは鬼気迫るものがあった。

「小早川秀秋は、生まれたときから権力構造に翻弄されてきた人物です。自分の不遇とばかり戦っていたんですが、石田三成の言う"義"や"正義"というものに突き動かされ、最後のシーンに至ったのかなと思います。本当に原田監督の手腕だと感じますが、ただ思い悩んでいる青年というわけではなく、小早川秀秋の葛藤と、その先にある希望を描いてくださったと思います」(東出さん)

©2017「関ヶ原」製作委員会

歴史上の人物を、これまで語られたことがなかった文脈で描くということは、プレッシャーが伴うものでもある。原作と違うじゃないか、という声もあるかもしれない。

しかし東出さんは、「それも含めていろいろな歴史の楽しみ方のひとつだと思っています」と話す。

「例えば、司馬遼太郎先生が書いたものを、新しい発見をもとに、司馬史観は独創的だからと切り捨てるという考え方もある。『坂の上の雲』の中で、悪い印象で描かれているロシアのバルチック艦隊の司令長官ロジェストヴェンスキーは、最近の研究で『実はいい人だった』みたいな発見があったり。それすらも歴史ファンとしては楽しいんです。

歴史は何かを学ぶとか、これが正解というだけではなく、人間のドラマをそこに見つけて、そして目をキラキラさせることができる。僕はそういった意味でも歴史が好きなので、いろいろな見方で、賛も否も含めて楽しんでいただければなと思います」

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東出さん自身も大の歴史・戦国武将好きだ。特に、秀吉から「100万の軍勢を与えて軍配をとらせてみたい」と言わしめたとされる大谷吉継が最も好きだという。大谷は同作『関ヶ原』にも登場している。歴史好きになったきっかけは、10代の頃から熱中した読書だ。

「19歳の時に父が大病を患って、5年10年先も生きられないかもしれないとなった時に、父のことを何も知らないなと思って。そこから父の書棚にある本を読み始めたのが、歴史好きになったきっかけです」

紙の本が好きなため、電子書籍ではなくどうしても本で読みたい、とこだわる一面ものぞかせた。驚いたことに、最近携帯をスマホからガラケーに変えたという。

「スマホもタブレットもそうですけど、依存してしまうじゃないですか。ベッドの上でも電車の中でも暗い車内にいても、ずっと見てしまいますよね。それよりも、日が昇って沈んだら寝る、みたいな、そういう生活に憧れているというか。懐古主義的なところがあるんだと思います」

近年はスマホが普及し、特に若者の間で、本離れが進んでいると言われて久しい。本を読むことの魅力を伝えるとしたら、どう表現するかと聞くと、「文庫本を持って歩いていたら、ちょっとかっこよく見えるんじゃない?とか。そんなとっかかりから入ってもらえたら、楽しいんじゃないかな」と微笑んだ。

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映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年)の出演を機にモデルから役者に転身。以降、数多くのドラマや映画作品などで活躍している東出さんだが、出演する作品によってさまざまな顔をみせ続けている。

2016年11月に公開された映画『聖の青春』では、現役のプロ棋士・羽生善治三冠を演じた。黒ぶち眼鏡をかけ和服を着て、静閑な姿を披露したかと思えば、2017年4月から6月に放送されたドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS)では一転し、不倫を続ける妻を盲目的に愛するストーカー気質の夫を怪演した。

短いスパンでまったくキャラクターの異なる人物を演じるにあたり、役作りはどのように行っているのか。

「クランクインする前にその監督が手がけたそれまでの作品を必ず観るようにしています。この監督の作品ならこういう役なのかな、こういう映画になるのかなと予想や期待をして、現場に入ります。

自分ひとりでああしようこうしようというよりも、監督の世界に没入しようとするのが、まず一番最初のステップだと思っているので。あまり自分で演じ分けを意識したり、作品同士を比較したりせず、監督の材料になるということをやれば、自然にその役に近づいていくんだと思います」

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『聖の青春』では、羽生善治三冠と故・村山聖九段との対局シーンの撮影中に、初めて頭の中が真っ白になる経験をしたという。勝利目前まで迫った村山九段が、信じられないような落手を指してしまった、というシーンだった。

芝居をする上での「不自由さ」を一切感じなくなった瞬間だったと東出さんは振り返ったが、それは、その落手を目前にした時の羽生三冠の衝撃が、時を超えて東出さんに乗り移った瞬間だったのかもしれない。

監督が演出したいイメージを忠実に再現するという使命感を持ちながら、役と真摯に向き合う心持ちを語ってくれた東出さん。『関ヶ原』でも、優柔不断な"裏切り者"としての小早川秀秋ではなく、覚悟を持った一人の武将・小早川秀秋を熱演した。

歴史も映画も、どう解釈するかは、人それぞれだ。歴史好きの人も、歴史は少し苦手という人も、原田監督や役者陣の熱量が込められた『関ヶ原』のなかに、「人間のドラマ」を見つけてほしい。

東出昌大さん『関ヶ原』インタビュー

■作品情報

『関ヶ原』

8月26日(土)より全国ロードショー

監督/脚本:原田眞人

出演:岡田准一 有村架純 平岳大 東出昌大 / 役所広司

原作:司馬遼太郎「関ケ原」(新潮文庫刊)

配給:東宝=アスミック・エース

ⓒ2017「関ヶ原」製作委員会

■東出昌大さんプロフィール

1988年生まれ。埼玉県出身。2012年『桐島、部活やめるってよ』(吉田大八監督)で俳優デビュー。14年『クローズEXPLODE』(豊田利晃監督)で映画初主演。主な映画出演作は、『寄生獣』(14/山崎貴監督)、『アオハライド』(14/三木孝浩監督)、『GONIN サーガ』(15/石井隆監督)、『デスノート Light up the NEW world』(16/佐藤信介監督)など。『聖の青春』(16/森義隆監督)では第40回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、第26回日本批評家大賞助演男優賞などを受賞。公開待機作に『散歩する侵略者』(17/黒沢清監督)、『菊とギロチン-女相撲とアナキストたち-』(18/瀬々敬久監督)がある。

■ヘアメイク・スタイリスト

ヘアメイク: HIROKI(W)

スタイリスト:檜垣健太郎(little friends)

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