2020年05月18日 08時59分 JST | 更新 2020年05月22日 16時28分 JST

アメリカ・インディアナ州で、法律を変えたのはビジネスの力だった。社会を変えていく、ある企業の「本気」の取り組みとは

「私たちの声が、社会を変える力になる」。ビジネスの場から始まる取り組みが、大きなインパクトに

VioletaStoimenova via Getty Images

ここ数年、日本でも多くの企業がサービスや商品の質だけでなく、「より良い社会にするためにはどうしたらいいか」ということを真剣に考え、行動してきた。

多様なバックグラウンドを持つ、全ての従業員のパフォーマンスを最大限引き出せる環境を整えることは、企業の生産性にも大きく関わる。また、消費者の意識も変わり、サービスや商品を購入する際の選択、また、就職先の選択にも大きく影響しているようだ。

社会全体においても大きな課題である、ダイバーシティやサステナビリティの実現。ビジネスの場からスタートする取り組みで、社会をどう変えることができるのだろう?

LGBTQや障がいのある人、さらに人間だけでなく、動物も生きやすい社会を目指して。社員一丸となって取り組む、ある企業の“リーダー”たちに話を聞いた。

 

全ての人間も、動物も、「平等」な社会のために

顧客情報管理システム(CRM)大手のSalesforce(セールスフォース)。同社には「Equality(イクオリティ)グループ」と呼ばれる社内コミュニティが存在する。アメリカの本社にある12のうち、日本では4つのグループが社員によって運営されている。

Abilityforce:障がいのある人、障がいのある家族を持つ従業員、その支援者をつなぐ。能力の違いを尊重し、全ての従業員が自身の能力や才能を存分に発揮できる社内環境や設備の実現を目指す。
Earthforce:人間も動物も、誰もがクリーンなエネルギー、空気、水を平等に利用できる未来、サステナビリティの実現に向けて活動する。社内外に向けて、環境に優しい行動を呼びかける。
Outforce:LGBTQへの理解を深め、性的指向や性自認に対する平等の実現に向けて活動する。全ての従業員が自分らしく生き生きと働けるよう、他者を尊重するオープンな文化の育成に取り組む。
Women’s Network:職場や社会での男女平等実現を目指して活動する。女性の地位向上、支援をはじめ、性別に関わらず全ての人が働きやすく、平等な職場環境と社会に向けた取り組みを行う。

こうした社員グループが誕生した背景には、同社創業者のマーク・ベニオフが「ビジネスこそが世界を変えるプラットフォーム」と考え、企業として、社内、そして社会における「平等(=Equality)」の実現を大切にしている姿勢がある。

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2019年4月の東京レインボープライド に参加した「Outforce」のメンバーたち

同社日本法人でEqualityグループが発足したのは、2017年。多様性に富んだ職場づくり、あらゆる人が平等に生きることができる社会の促進に取り組む役職である「チーフ・イクオリティ・オフィサー」のトニー・プロフェットが本社から来日したことがきっかけだった。そこから、メンバーの募集や取り組みの方針など全ての運営が社員に委ねられ、今日までその規模を広げながら活動してきた。

企業がダイバーシティやサステナビリティの実現に向けた取り組みをするにあたり、制度ばかりが先行してしまい、社員のパワーが伴わないという声も少なくない中、同社のEqualityグループは、ERG(Employee Resource Group=社員が主体となって活動する社内グループ)のモデルケースにもなっているという。

障がい、環境、LGBTQ、男女の平等──。さまざまな側面の「平等」とビジネスを掛け合わせることで、社内にはどんな変化が生まれ、社会にどんなインパクトを与えることができるのか? 「ビジネスが作る未来」について、4つのグループのリーダーに話を聞いた。

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(写真左から、本文中では敬称略)
小川絢也さん Outforceリーダー。ゲイの当事者として、LGBTQへの関心や理解を深める活動を行う
岡本由美子さん Earthforceリーダー。動物の平等、「未来」への平等に向けて、自発的な環境活動につながる取り組みを行う
吉田真理恵さん Women’s Networkリーダー。男性も女性も働きやすい職場に向け、アメリカ本社や他社と協力して活動する
大田麻衣さん Abilityforceリーダー。障がいを持つ当事者として、オープンに話ができる職場づくりを目指している

小川 当社日本法人でEqualityグループが発足したきっかけこそ会社がリードしてくれましたが、ERGとして、その運営や方針は当初から全て私たち社員に任せられていました。
大田 実際、私が入社した2017年の年末当時は、発起人が声をかけたAllyはいたものの、イベントなどの活動はほとんどやっていませんでした。私が障がいを持つ当事者ということもあり、会社から「リーダーやってみない?」と声をかけられたのですが、良い意味で丸投げでしたね(笑)。メンバーを集めるのも、グループでどんな活動をするのかも、全て自分たちで。他の地域のリーダーにも色々聞きながら、どんな活動をするか考えていきました。

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「Women'sNetwork」のコアメンバー。男性社員の参加を増やしていくことも、目標の一つと話す。

小川 その活動を社内に広げてくれるのが、「エグゼクティブ・スポンサー」。役員レベルの社員が、各グループをサポートしています。グループごとに様々な側面の「平等」を目指していますが、そうした職場をつくるためにも、まずは社員の理解を深めることが第一。例えばOutforceであれば、私が当事者であることをカミングアウトした背景を話す社内イベントを開いています。

当初は、日本法人で最初にカミングアウトした私を「英雄」のように扱う空気だったんです(笑)。でも、継続的に社内でアンケートをとってみると、今ではLGBTQの存在も「当たり前」と感じる社員がすごく増えている。そうした変化がうれしいですし、当事者に寄り添う存在であるAlly(アライ)も増えて、今ではOutforceメンバーは400人超になりました。

吉田 アライを増やすというのは、どのグループにも共通して言えることですよね。社会課題を理解し、寄り添う存在であるアライを増やすことで、社内だけでなく、家庭だったり、地域だったり、社員が関わるいろいろなコミュニティーにも変化が生じると思います。

Women’s Networkは、女性の活躍をはじめ、誰もが働きやすい職場、社会を目指しています。パパやママ、病気を克服して復職した人...お互いの環境を理解し合う社内イベント、他の企業と連携することで社会に「気づき」を与えられるような活動もしています。企業が協力し合うことで、社会へのインパクトも大きくなるんじゃないかな。

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「Abilityforce」のメンバー。写真中央は、盲導犬であり、Salesforce社員の一員として活動したワカちゃん。

企業だからこそ与えられる「インパクト」

岡本 Earthforceは、月間3万本消費していたペットボトルを社内で廃止したんです。プラスチック製のカップや食器も、紙製や木製など、再生可能なものに変えました。ある日を境にプラスチック製の提供物がなくなったので、その本気度に社員もびっくりしたようですが、納品をしていたメーカーさんが「他の会社も、環境に配慮した製品へのニーズがあるかも」と気づくきっかけにもなったんです。

そのほかにも、畜産業や肉食が環境に与える影響についての理解を深めるために、社内イベントでは、プラントベース(動物性の原材料を使わない)ランチを再生容器で提供しています。

一つの企業からペットボトルやプラスチック製の食器をなくすことは、量的にもインパクトがありますが、こうして社外に向けた「気づき」も与えられる。その「気づき」が「行動」に移っていけば、社会は大きく変わっていくと思います。

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ゴミ拾いのボランティア活動をする「Earthforce」メンバー。こうした場で社員同士が関わることで、業務の円滑化にもつながっているそう。

大田 エグゼクティブ・スポンサーや会社のバックアップもあり、Equalityグループが会社を作る一端を担えているというのも大きいかもしれません。グループの思いや活動を、会社の制度に取り入れてもらえることも。Abilityforceの働きかけで製品やオフィス、社員のアクセシビリティ(利用しやすさ)を担当する部署が新設されたり、全社会議では必ず字幕が入るようになったことも一例です。

私たちの声が会社を変えていて、それが社会を変えていく力に繋がるんだと実感できることが、ERGの活動力になっていると思います。

小川 ビジネスの場から変えられることって、本当にたくさんある。私が当社に入社するきっかけにもなった、ビジネスで社会を変えた出来事があるんです。

アメリカのインディアナ州で、信教の自由を理由に事業者が同性愛者へのサービス提供を拒否することを求めた法案が2015年に可決された際、当社の創業者マーク・ベニオフが「可決するのであれば、この州のビジネスから撤退します」と宣言したんです。アップルやウォルマートなど他の企業も賛同し、結果的に同州での法案採決が中止されることになりました。

ビジネスボイコットって、すごく大きな決断だと思います。社会の平等を実現するために本気で取り組んでいるという姿勢を企業が見せることで、社会って変えられるんだなと。感動しましたね。

岡本 当社は長年続けてきたボランティア活動の中で、NPOやNGOとの繋がりがたくさんあるのも強み。そうした社外コミュニティのパワーやノウハウも借りながら、ビジネスといろいろなものを掛け合わせて社会を変えられる方法ってまだまだたくさんありますよね。

吉田 安心感のある組織でこそ、従業員がパフォーマンスを最大化できる。平等を大切にすることは、その安心感を作る上で大前提だと思います。その上で、社員向けに「気づき」や理解を深める草の根的な活動で“Equality Ally”を増やすこと、そして、企業として社会を変える本気の姿勢を見せていくこと。この両軸があってこそ、ビジネスから社会を変えることができるんじゃないかなと思います。

大田 メガネをかけていることを障害と思わないように、Equalityグループとして声を上げなくても、一人ひとりがお互いのAllyでいることが当たり前であるようにしていきたいです。

Julie Fukuhara
オンライン取材に参加した4人。着用しているのは、それぞれが所属するグループのオリジナルTシャツ。