アートとカルチャー
2019年10月18日 16時46分 JST | 更新 2019年10月19日 09時41分 JST

園子温監督が描く「悲喜劇」の裏側。猟奇殺人事件にインスパイアされた『愛なき森で叫べ』が配信に

Netflixの『愛なき森で叫べ』は、実際の事件から着想を得ているが、オファーが来た時は「すごく気が重かった」という。

HuffPost Japan
園子温監督

『冷たい熱帯夜』『愛のむきだし』などで知られる園子温監督のNetflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』が10月11日に配信された。

実際に日本で起きた猟奇殺人事件からインスパイアされた作品で、椎名桔平演じる詐欺師・村田丈が、周囲の人間を洗脳し、殺人事件の加害者へと変貌させていく歪んだ人間模様を描いている。

園子温監督に制作背景を聞いた。

「愛なき森で叫べ」より

バイオレンス描写が特徴的な園監督初のNetflix参加作品とあって、配信前から注目が集まっていた本作。もともとはドラマシリーズとして撮影していたが、1本の映画作品としてフォーマットを凝縮させることが決まったという。

「セリフ以外のところもノリがよければやってみようよ、と多少のアドリブを入れながら撮影が進んでいったので、非常に楽しかったです。椎名さんとはオフに偶然旅行先で出会って。今度何かやろう、という話になった直後にこの企画が出てきて、椎名さんに合っているなと思ってオファーを決めました」

椎名桔平が演じる村田は、軽妙な話術で人の心を掌握し、シン(満島真之介)、妙子(日南響子)、美津子(鎌滝えり)など周囲の人物を”搾取”のターゲットにし、次々と支配していく。その影響は美津子の家族にも広がり、美津子の父親・茂(でんでん)、母親・アズミ(真飛聖)までも村田のマインドコントロールに常軌を失い、事件に巻き込まれていく。

「愛なき森で叫べ」より

 

「日本はいつも恐る恐るやっているな」

 園監督はこれまでも、『冷たい熱帯魚』や『恋の罪』で実際に日本で起きた殺人事件をモチーフに、監督独自の解釈を加えてフィクションの映画作品へと昇華させてきた。『愛なき森で叫べ』は、日本中を震撼させた凄惨な事件から着想を得ているが、映像化のオファーがあった時は「すごく気が重かった」と園監督は振り返る。

「実録物が好きか嫌いか、というところではなくて、その事件の犯人にはポエジー(詩想)がないと思ったんですよ。理解不能で、めちゃくちゃだし支離滅裂で、卑怯だとも思った。人が死んでいくだけで、何も掘り下げられない。だからすごく気が重かったんです」

実在する人物や、現実に起きた事件を元に作品をつくるときは、遺族や被害者など、関係者への「配慮」も少なからず求められてくる。園監督は、「事件を忠実に再現するときは、(遺族など関係者への配慮は)気にしなくてはいけないと思っています」と話す。  

「日本は狭い国だから、全国民が”隣近所”で、村みたいな文化があると感じますね。だからこうした題材に取り組むとき、日本はいつも恐る恐るやっているなとも思います」 

「ただ、今回は事件そのものを描くことには興味がなくて。事件にインスパイアされたというかたちで、ファンタジーの要素を盛り込んで、オリジナル作品として描いています。だから、それほど気をつけなくてはいけない、という意識はなかったです」

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園子温監督

園監督が言うように、『愛なき森で叫べ』は監督独自のアイデアが散りばめられ、完全なオリジナルストーリーとして仕上がっていた。

本作は、村田という残虐で非道なキャラクターが家族を崩壊させていく「悲劇」を確かに描いているが、クライマックスにはとんだ「どんでん返し」が描かれる。予想外の展開にはどこか胸のすくような痛快さがあり、これが「悲喜劇」であることを認識させる。鍵を握るのは、村田に精神的にも肉体的にも支配されていくヒロイン・美津子の存在だ。

美津子

「美津子のキャラクターは撮影中にどんどん変わっていきました。実は、もっと従順に恋をする女性という設定だったんです。でも、撮っているうちに、女ってそんなにか弱くないな、と。もっとたくましいし、嘘もつく。表と裏を使い分けている部分もあると思うから、それをちゃんと台本に入れていきたいな、と思ったんですよね」 

園監督はそう話す。多彩なキャラクターが織りなす愛憎劇と、その登場人物に息を吹き込んだ役者たちの怪演をぜひ目撃してほしい。

Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』

2019年10月11日(金)全世界独占配信

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