アートとカルチャー
2021年03月15日 16時56分 JST | 更新 2021年03月15日 22時31分 JST

35人の14歳の日常を記録した映画『14歳の栞』、上映エリア続々拡大中。思春期のリアルを撮った監督の覚悟

「自分の14歳の記憶が吹き出した」「リアルすぎる」「初めて見るタイプの映画」など反響が相次いでいる。

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映画『14歳の栞』より

とある中学校の「2年6組」、35人。彼らが過ごした約50日間を記録した映画『14歳の栞』が、上映開始直後からSNSなどで好評を博し、上映館を続々と増やしている。

3月5日に東京・渋谷の1館ではじまった上映が、15日時点で22都市22館で上映されることが決まっている。

特定の劇的な主人公も、ストーリーを誘導するナレーションもない。

35人全員に同じように密着し、ひとりひとりの日常を記録した映画は「自分の14歳の記憶が吹き出した」「リアルすぎる」「初めて見るタイプの映画」など反響を呼んでいる。

 

構想から上映まで2年4ヵ月。35人の14歳のリアルを、ただひたすら映し出す。製作陣はSNS上の誹謗中傷などの問題とも向き合った。

監督の竹林亮さんと企画・プロデュースを務めた栗林和明さんは、どんな覚悟をもって挑んだのか。

(※企画の成り立ちやねらいを聞いたもので、内容に関するネタバレを含む記事ではありません)

ハフポスト日本版
企画・プロデュースを務めた栗林和明さん(左)と竹林亮監督

 

劇的な主人公はいない。一人一人の日常を「等しく見せていく」

映画『14歳の栞』のプロジェクトが立ち上がったのは、2018年11月。

主題歌にもなっているクリープハイプの「栞」を、より長く愛される曲にしたいと、ユニバーサルミュージックに栗林さんが相談を受けたことがきっかけだった。

曲の中にでてくる「簡単なあらすじなんかにまとまってたまるか 途中から読んでも意味不明な2人の話」という一節に、過去に体験した“曖昧な感情や関係”が蘇ってきたという栗林さん。

誰しも経験しているであろうこの曖昧さが最も渦巻いていたのっていつだろう? チームのメンバーで議論する中で、「中学2年の3学期」というピンポイントなキーワードが浮かんだという。

子どもと大人の間。先輩でもあり後輩でもある。受験もチラついてくるけれど、恋愛や部活も大変で不安定。揺らぎや切なさを一気に背負っている…… 

「歌のフレーズをモチーフに、中2の3学期、クラス全員の日常を切り取ったドキュメンタリー映画を作りたい」というアイデアが固まった。


劇的な主人公がいるのではない、一人一人を「等しく見せていく」クラスの物語をつくるプロジェクトがはじまった。

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映画『14歳の栞』より

アイデアを形にしていく監督は誰に引き受けてもらうべきか?

栗林さんの頭に思い浮かんだのは竹林亮監督「一択だった」という。

竹林監督が娘の保育園卒園の際に謝恩会で流したという10分ほどの卒園記念ムービーを見せてもらった時の記憶が即決させた。

園児全員に「お母さんお父さんのどこが好き?」と尋ね、その答えをまとめたインタビュー動画。みんなに同じ質問をしても「一人一人、親に対して見ているポイントが全然違って面白い」(竹林監督)。

指示をするのでも演出するのでもなく、被写体から真実を見つけ、引き出してしまう竹林監督となら、『14歳の栞』が作れるかもしれない、と思った。

「生身の人間を撮影して、こういうドキュメンタリー的なものを作るのは、ものすごく恐ろしいこと。誰かの人生に悪影響を与えるかもしれない、という恐怖が常につきまといます。ドキュメンタリーなんだから映っているものが真実だろうと一言に言っても、“誰が引き出した真実なのか”はとても重要です。(被写体への)愛がある人とじゃないと怖くて一緒に作れない。竹林さんしかいないと思いました」(栗林プロデューサー)

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栗林和明プロデューサー

撮影は「覚悟の連続」。しかしいつしか…

こうして『14歳の栞』の制作がはじまった。

竹林監督がもっとも苦労したのは、生徒たちと信頼関係を積み上げ、彼らの真実を引き出していくこと。

中学校という場所に、10人ほどの大人が異質な存在として入っていく。

「振る舞いを少しでも間違えると嫌われるだろうと思ったし、とはいえ踏み込まなければ彼らの本当の姿を撮ることはできない。覚悟の連続でした」(竹林監督)

撮影スタッフは朝から晩まで学校でカメラを回し、毎日彼らと同じ給食も食べた。

登下校、授業や部活、私生活まで密着を続けるうちに「ある時、共同作業という感覚が芽生えた」と監督は振り返る。

「いつの頃からか『カメラを見ないであげよう』『今撮影してるから話しかけるのやめとこう』などの気遣いが感じられるようになって…。ありのままを撮っているものなんだけど、そこにはどこか『見せられる姿を見せる』という態度もあって。それが撮る側と撮られる側の共同作業のようでした」(竹林監督)

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映画『14歳の栞』より

無関係な人への「想像力」を

どんどんと撮れ高が増えていく中で、「本当に面白い映画になるのだろうか」「映画として成立するのだろうか」という不安も日増しに大きくなった。 

しかし、竹林監督にあるターニングポイントが訪れる。撮影から東京に戻っていた時、駅の雑踏で、ふとこう思ったのだという。

「連日35人に密着してじっくりと話を聞いていたので、東京に戻っている時にも、道ゆく人たちに対して、あの人はどういう中学生だったんだろう? と思いをはせるスイッチが備わってしまったことに気づいたんです」

「このスイッチがすごく大事だと思っていて。普段、人って自分に関係がない人には『無関係』のラベルを貼って仕分けて考えないようにしてると思うんです。でも、僕が35人に密着したことで、たまたますれ違った全く知らない人にまで想像力を働かせたように、この映画をみてくださった方が、これまで無関係だと思っていたような人に想像力を働かせたり、興味をわかせたりするだけでも、それは価値があることだと思う。それだけでも持ち帰っていただけたら嬉しいですね」(竹林監督)

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竹林亮監督

彼らの人生は続く。「どうか見守って、応援してほしい」

35人の素顔を追いかけた『14歳の栞』。リアルだからこそほとばしってくる共感と裏腹に、制作陣が向き合わなくてはならないリスクもある。

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映画『14歳の栞』より

映画では、本編の終わりや、上映時に配布する学級便り風の「14歳の栞便り」、SNSなどで、以下のように呼びかけている。

この映画に登場する生徒たちは、これからもそれぞれの人生を歩んでいきます。SNS等を通じての、個人に対するプライバシーの侵害や、ネガティブな感想、誹謗中傷を発信することはご遠慮ください。どうかご協力をお願い致します。 

人の“生身“の姿を映像で伝えることには、リスクも伴う。最近では、リアリティショーなどに出演した人に対するSNSでの誹謗中傷が深刻な問題となっている。

制作チームでは、こうした呼びかけに加えて、あらゆる事態を想定した対策集を作成し、ひとつひとつ個別の対応を行なっているようだ。

2人は「どうか彼らを見守って欲しい」「彼らの人生を応援して欲しい」と呼びかける。

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映画『14歳の栞』より

「関係者を傷つけてしまわないかということについては、ずっと緊張感と責任感を感じています。僕たちももちろん万全の対策をとっていきます。同時に、見てくださった方たちにも一緒になって、彼らを守り、応援する側に回って欲しいなと思います」(栗林プロデューサー)

「彼らや家族、周りの人たちが傷ついたりすることなく全国でこの映画が無事に上映される、という日がきて欲しい。等身大の彼らを見守ることができる社会になって欲しいという期待もあります。どうか想像力をみんなで持ちたいですね」(竹林監督)

  *

将来への漠然とした不安、揺れる人間関係、本当の自分って・・・・?

子どもと大人の間にいる14歳の悩みは、まるで私たちが現在進行形で抱えているそれだった。

通り過ぎたつもりの青春を垣間見られるかと思いきや、すっかり大人になっている自分を映しとる鏡のような映画『14歳の栞』。ぜひ注目してほしい。

映画『14歳の栞』の情報はこちらから⇒https://14-shiori.com/