PRESENTED BY SHISEIDO

写真の中の元気な私が励ましてくれた。29歳で妊娠・流産、希少がんを経験した私が、前を向いて歩ける理由

「がん」と言われた「そのあと」も、自分らしく生きるために
Masanori Sugiura

2人に1人ががんになると言われる時代。それでも、「あなたはがんです」とある日突然告げられたら。それも、あなたがまだ20代で、愛する人と授かった新しい命を失った直後だったらーー。

29歳で初めての妊娠・流産、そして絨毛がんという希少がんの発症。心の痛みを抱えながらも、いまがん患者らの心のサポートをする人がいる。彼女が前を向いて歩みだせた理由はなにか。

がん患者の外見変化などに応えたメイクアップ情報を発信し続けてきた資生堂「ライフクオリティ- ビューティーセンター」で、藤田さんにメイクを体験してもらいながら、闘病時の心境や現在の活動を聞いた。

■赤ちゃんの声を遠ざけながら、産婦人科でがん治療を受ける日々

藤田理代(ふじた・みちよ)さん:2014年に妊娠・流産を経験した後、絨毛がんという希少がんが発覚。半年ほどの抗がん剤治療を経て、寛解。現在は、本づくりを通じて経験や気持ちを表現する場として「記憶のアトリエ」をひらく傍ら、自らも作品を制作している
Masanori Sugiura
藤田理代(ふじた・みちよ)さん:2014年に妊娠・流産を経験した後、絨毛がんという希少がんが発覚。半年ほどの抗がん剤治療を経て、寛解。現在は、本づくりを通じて経験や気持ちを表現する場として「記憶のアトリエ」をひらく傍ら、自らも作品を制作している

―― がんが発覚するまで、どんな経緯があったのですか。

29歳の時、初めての妊娠が判明したんです。でも、喜んだのも束の間、すぐに子どもがうまく育っていないことがわかり、翌月に初期流産の手術を受けました。

そこで異常な細胞が見つかり、さらにひどい腹痛や大量出血にも見舞われて。しばらくは原因がわからず病名が4回も変わりましたが、最終的には「絨毛がん」という希少がんだと告知を受けました。

―― ご自分の病気を知った時、どう思われましたか。

最初は、自分のことを悲しむ余裕はなかったです。その頃は自分の流産だけでなく親族の死もあり、家族をこれ以上悲しませるわけにはいかないという思いでいっぱいでした。

藤田理代さん
Masanori Sugiura
藤田理代さん

でも、時間が経つごとにつらさが増してきました。身体面では、抗がん剤の副作用で吐き気に耐えては吐くの繰り返し。肌も敏感になり、これまで使っていた化粧水や化粧品なども痛みを感じ使えなくなりました。メイクが生活から消えてしまったのに、シミがすごく増えてしまって、鏡を見るのが嫌になりました。

何よりつらかったのが、産婦人科という妊婦さんや新生児に囲まれた環境でがん治療を受けることです。流産で失ってしまった“子どもとの未来”を目の当たりにしながら、「自分だけが生きるフィールドから外れてしまった」という思いに襲われて。目の前の光景や赤ちゃんの泣き声を遠ざけるため、ずっとイヤホンを付けて閉じこもっていました。

■写真の中の“元気な私”が励ましに

―― そこから変わるきっかけとなった出来事はありましたか。

藤田理代さん
Masanori Sugiura
藤田理代さん

一時退院した時に、プロカメラマンの友人に写真を撮ってもらったことが、一つの転機になりました。これから抗がん剤の副作用がもっとひどくなるかもしれないという時で、「遺影を撮っておきたい」という気持ちもあったんですけど、人の力を借りながら何かやってみようって。

そこで、久しぶりに私服を着て、メイクをして撮影に挑んだら、写真の中に以前と同じ“元気な私”がいたんです。照明などプロの技術があってのものですが、自分らしい姿を再確認できたことが励ましになりました。

写真撮影を通して「元気な私はまだ残っているんだな」と思えたことが、すごく励みになったと語る、藤田さん
Masanori Sugiura
写真撮影を通して「元気な私はまだ残っているんだな」と思えたことが、すごく励みになったと語る、藤田さん

「前向きになれる写真も」と、友人や夫にも声をかけて一緒に撮影してくれて。その写真に励まされて、みんなで撮った写真と一緒にがんの治療中であることを周囲に伝えました。

―― 元気なご自身の姿が、一つのきっかけになったんですね。今回、がん患者の外見変化をサポートしている資生堂の「ライフクオリティー ビューティーセンター」でメイクを体験されて、いかがでしたか。

オシャレにしてもらったという嬉しさもあるんですけど、なにより心に力をもらえました。「目に見えるものに触れながら、目に見えないものに触れてくれている」という感覚です。

ヘアメイクを受ける藤田さん。時間が経つにつれ、笑顔が増えていったのが印象的だった
Masanori Sugiura
ヘアメイクを受ける藤田さん。時間が経つにつれ、笑顔が増えていったのが印象的だった

いま、私はぱっと見ではがん経験者だとはわかりませんが、やっぱりシミといった外見上の悩みだけでなく、心の苦しみもあるんです。メイクって、がんそのものへの治療だけでは消しきれなかった痛みを和らげてくれるもの、この私で生きてゆくための自信を取り戻させてくれるものだと実感しました。

■患者が自分の思いを外に出せる場づくりを

―― 藤田さんご自身も、がんをはじめとした患者さんの痛みを和らげる活動をされていますね。

患者さんやご家族が、過去や現在の思いを本という作品にまとめていく「記憶のアトリエ」という移動アトリエを医療や福祉の専門職の方と続けています。「本に綴じる」という時間を通して、自分の思いを整理し、外に打ち明けるきっかけ作りをしていけたらなって。

藤田さんがひらく「記憶のアトリエ」で参加者が制作した手づくりの本。思い出の写真など、参加者が持ち込んだ大切な記憶を本に綴じてゆく
Michiyo Fujita
藤田さんがひらく「記憶のアトリエ」で参加者が制作した手づくりの本。思い出の写真など、参加者が持ち込んだ大切な記憶を本に綴じてゆく

私自身、がんの経験や今の気持ちを本に綴じて打ち明けることで、周囲と共有して前に進むことができました。だから、打ち明けづらい思いを抱えた方々の表現の手助けを通して、一人ひとりの「これから」を応援できればと思います。

***

■指先が荒れてメイクができない。そんな声に応えるために

今回藤田さんにメイクを体験してもらった資生堂「ライフクオリティー ビューティーセンター」は、病気や治療の副作用などによって肌のくすみや脱毛など、外見上の悩みを持つ人にメイクアップの方法を伝える活動を2006年から続けている。

藤田さんのメイクを手がける、資生堂「ライフクオリティー ビューティーセンター」の青木和香恵(あおき・わかえ)さん(左)、苅部裕己(かりべ・ひろみ)さん(右)。「今日は藤田さんのお悩みをカバーしつつ透明感、優しい雰囲気を生かすことを心がけました」(苅部さん)
Masanori Sugiura
藤田さんのメイクを手がける、資生堂「ライフクオリティー ビューティーセンター」の青木和香恵(あおき・わかえ)さん(左)、苅部裕己(かりべ・ひろみ)さん(右)。「今日は藤田さんのお悩みをカバーしつつ透明感、優しい雰囲気を生かすことを心がけました」(苅部さん)

同センターは、肌の青み・赤み・凹凸(傷あと・やけどあとなど)といった外見上の変化に対応したメイクアップ(資生堂 ライフクオリティー メイクアップ)のアドバイスや美容情報の研究もしている。特に近年相談が増えているのが、がん患者へのメイクアップだ。

それに応えるため、がん患者のメイクやスキンケア方法のアドバイスをまとめた「Beauty Book」は、2019年10月に刷新されたばかり。制作を担当した青木さんは「従来のがん患者さんのための冊子では、メイクアップを中心に案内していましたが、メイクだけでなく、ヘアケア、ハンドケアなどのお悩みにトータルで案内できるようにしたのが一番の変更点」と語る。

2019年10月に刷新された「Beauty Book」。メイクアドバイスは全国のパーフェクトカバー取り扱い店でも受けられる
Masanori Sugiura
2019年10月に刷新された「Beauty Book」。メイクアドバイスは全国のパーフェクトカバー取り扱い店でも受けられる

「『せっかくメイクの技術を教えてもらっても、指先が荒れていてうまくできない。肌が乾燥してファンデーションが自然につけられない』資生堂がサポートするがんサバイバーイベント『LAVENDER RING』のメイクアップ中に、そんな意見をいただいたのがきっかけでした。多くの悩みを持つ方に接する中で生まれた冊子だと思います」(苅部さん)

がんになっても、いきいきと笑顔で生きる人たちがいることを伝える「LAVENDER RING」の「MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」。がんサバイバーたちがプロのヘアメイクを受けた後、資生堂のフォトグラファーによる撮影。自分だけのポスターに
Kaori Isomura
がんになっても、いきいきと笑顔で生きる人たちがいることを伝える「LAVENDER RING」の「MAKEUP & PHOTOS WITH SMILES」。がんサバイバーたちがプロのヘアメイクを受けた後、資生堂のフォトグラファーによる撮影。自分だけのポスターに

■メイクは誰でも楽しめるもの。患者さんや家族を笑顔にしていきたい

資生堂ライフクオリティービューティーセンターの今後の取り組みについて、青木さんは「私たちが大切にしているのは、メイクを通して“その人らしさ”を取り戻していただくこと。メイクは誰でも楽しめるもの。ワクワクしていただけるような冊子をつくっていきたい」と語る。

同センターではこれから、男性向けの冊子や、流行や季節感をより取り入れた季刊誌を作成していく予定だ。

「私たちは外見のケアと同じくらい、心の変化も大切にしているんです。メイクアップによって、患者さんだけでなく、ご家族や周りの人も笑顔にしていけたら」(苅部さん)