下町のハンガーメーカー、元は材木商。時代にあわせて商売替え、次の狙いは「消臭」。

鉄製のカード型消臭剤「澄板」にかける思い。

東京・墨田区に「東京ハンガー」という名の老舗のハンガーメーカーがある。元々は江戸時代から続く材木商で、現社長の祖父の代に材木を利用した衣紋掛けを造るようになり、商売替えしたという。近年はアパレル業界の苦境に悩まされてきたが、2年前に消臭・抗菌のハンガーを商品化。さらにその技術を生かして、今度は手軽なカードタイプの消臭商品を開発した。より多くの人に手にとってもらおうと、クラウドファンディングにも取り組んでいる。

東京ハンガーが「衣紋掛け」をつくるようになったのは昭和30年代のことだ。

「その頃は近所に呉服店なども多く、衣紋掛けの需要が多かった。当時流行っていたフラフープにヒントを得て、日本で初めてプラスチックハンガーを製造したのも我が社です。パイプハンガーは大当たりしたんですが、実用特許をとっていなかったので、結局、儲からなくなってしまって…」

現社長の櫻井勝氏はこう話す。

櫻井勝さん
A-PORT
櫻井勝さん

■高度成長に合わせてハンガー需要も急増

しかし、時代は高度成長期へと続いていく。サラリーマンのニーズに応えるように、町には背広をつくるテーラーがどんどん増えていった。東京ハンガーでは、空気成形のブローハンガーを開発し、町のテーラーに卸すようになっていく。さらに大手アパレルメーカーから、在庫管理や店頭のディスプレイに使うオリジナルハンガーの受注も次から次へと舞い込んできた。

「服のラインが崩れないようなハンガーを、ということで多くの注文を受けました。売り場用に、ウッド調の見栄えのするデザインのハンガーのニーズも多くありましたね。特に一流ブランドになるほど、ハンガーへのこだわりも細部に渡り、そのリクエストに細かく応えることで信頼を得てきました」

高度成長期から90年代初頭までは、黙っていてもハンガーが売れる。そんな時代だったと、懐かしそうに櫻井社長は振り返る。

しかし、バブルが崩壊。アパレルの生産拠点も次々に海外に移転。同時に、消費者の志向にも変化が訪れた。

「安い服をたくさん買う消費者が多くなりましたね。クローゼットがいっぱいになるので、必然的に薄くて滑らない、値段の安いハンガーが人気です。ただ、洋服というものは、肩のラインが一番重要。そこさえ型崩れしないように維持できれば、何年でも服のコンディションを保てます。ハンガーは洋服を吊るすためだけでなく、コンディションを維持するツールなのですが、そういう感覚が今は薄れてしまいましたね」

ハンガー
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ハンガー

■ハンガー以外の活路を模索し、消臭商品を開発

アパレル産業の不振の影響もあり、ハンガーの売上も厳しい状況が続くようになった。ちょうどその頃、4代目として先代の兄から事業を引き継いだのが現社長の櫻井氏だ。「取り巻く環境が厳しいことはわかっていたが、家業を絶やしたくないと、火中の栗を拾う覚悟だった」と、櫻井社長は、当時の心境を思い出すように語る。

これまでのようにメーカーからハンガーの受注を受けるだけでは、生き残れない──。

経営をなんとか立て直したいという思いから、精力的に新規事業のアイデアを模索。そこで最初に手がけたのが、2年前に発売した、消臭抗菌効果のあるハンガー「澄」だ。

ナノレベルで抗菌・消臭・防カビ効果のある特殊塗料を吹き付けることで、ハンガーにかけた衣類の汗のニオイが気にならなくなる。また、今年になって、同じ特殊塗料を使った鉄製のカード型消臭剤「澄板」を商品化。A-portでクラウドファンディングを利用したプロジェクトもスタートした。集めた資金は、消臭効果などのエビデンスをとるために活用するという。

「例えば靴の中にこもったイヤなニオイも、この澄板を入れておけば解消します。汗に特化した消臭効果があるので、スポーツバックなどに入れておくのも効果的ですし、靴箱に置くだけでもいい。ニオイが気になるオートバイのヘルメットや革ジャンなどにも使えます」

通常のスプレータイプや据え置き型の消臭剤に比べて、効果が長続きするのも特徴。消臭・防カビ効果は2年、抗菌効果10年続くという。

澄板
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澄板

■2020年、東京オリンピックを地元企業として応援

「開発にあたっては、持ち運びに便利な名刺サイズにこだわりました。スーツのポケットに入れて、出先で靴を脱がなくてはいけないときにそっと入れておくこともできます。持ち歩くことで、普段から汗のニオイが気になるという方も、いつでもどこでもニオイ対策ができます」

ここからさらに新たな「ニオイ」をキーワードにした商品を開発していきたいと櫻井社長は意気込む。今は汗への消臭効果だけだが、タバコ、ペットなど気になるニオイの原因はほかにもある。そういった商品への応用、開発を今後は検討していくつもりだ。

また、2020年、墨田区は東京オリンピックのボクシング大会の会場でもある。「地元企業として、ぜひボクシングを応援していきたい。ボクシングのグローブは汗のニオイが気になるアイテムです。これからボクシングジムなどに働きかけて、選手のみなさんにも使っていただきたいと思っています」

櫻井勝さん
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櫻井勝さん

クラウドファンディングは7月22日まで。詳しくはこちら

(工藤千秋)