自分を信じていれば、他人を疑う必要なんてない。石山アンジュさんに聞く「シェアライフ」の極意

どうすれば「信頼」される人になれるのか。大切な人とつながるヒントを聞きました。
Eriko Kaji

「ピンポイントでの人脈を大切にしよう」と提唱する『内向的な人のための スタンフォード流 ピンポイント人脈術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。著者である「ハフポスト日本版」の竹下隆一郎編集長は、内向的な性格の持ち主だという。

対照的なのが、『シェアライフ』(クロスメディア・パブリッシング)の著者・石山アンジュさん。“シェア”という概念と行動を通じて、広く人とつながっていくことの意義を訴えかける石山さんは、現在もシェアハウスに約60人と住む、非常に“開かれた”人だ。

インターネットやSNSの普及でつながりやすくなった現代。仕事もプライベートの境目も薄くなってきている。私たちは、どうやって本当に大切な人とつながっていけばいいのか。

個人の時代のつながりかたについて語った前編に続いて、人と人とをつなぐ「信頼」について、石山さんと竹下編集長が議論を交わした。

拡張家族は、結婚しない人たちの新たな受け皿

Eriko Kaji

――一人ひとりがつながり、人間関係を構築するにあたって外せない“信頼”について、おふたりはどう思いますか?

石山:信頼される人、信頼できる人になるにはどうしたらいいのか。これはずっと探求しているテーマですね。

竹下:私は家族を誰よりも信頼しています。それも両親というよりか、妻と子どものこと。私がいちから作り上げた家族に対する信頼度が高いんです。私も妻もいろんな創意工夫を経て、いまのような安全地帯を築き上げました。

妻も働いているので、仕事と家庭をどう両立させるのか悩んだり、転勤があったので子どもには何度か転校をさせてしまったりして。そういう経験を踏まえて、すごく家族単位で動いてきた意識が強いんです。チームのようなイメージですね。

石山:私がシェアハウスで“拡張家族”と暮らしている理由は、そこに近いかもしれません。心理的な安全地帯があり、なにかあったときに手を差し伸べてくれるような関係性を求めたときに、家族的な受け皿が欲しかったんです。

でも、いますぐに結婚できるわけではないし、自己実現したい欲求もあった。家族は欲しいけれど、すぐには結婚できない。そう悩んでいる若い世代の女性は多いと思います。

だから、家族が担保してくれる心理的な安全を、拡張家族や趣味嗜好で合うコミュニティを作ることで、うまく代替しているんです。

Eriko Kaji

――『シェアライフ』のなかに、子どもを持てないLGBTQの方も、拡張家族と暮らすことで子育てに参加できるというエピソードがありました。現在は法的に家庭を築けない人にとっても、拡張家族は希望になりそうです。

石山:血縁家族だけが家族ではないですし、それにとらわれないかたちというものは、誰かの救いになると思います。

例えばLGBTの方だって、法的には結婚できないけれども家族を持ちたいという思う方もいると思います。いまはその受け皿が少ないからこそ、これからたくさん作っていくべきですし、オルタナティブな選択肢を増やしていく必要があると思います。

竹下:私もたまたま相手が女性でしたけど、そうでなかったとしてもいずれは家族を作っていたと思うんです。不思議なチーム感があって、とても安心できるんですよね。そこの工夫や結束の仕方は増やしていきたいですね。

石山:昔はお見合い結婚が一般的で、機能的な家族が優先されていましたが、時代が変わって性愛でのつながりが普通になりました。でも、それも変わるかもしれない。

竹下:今後は性愛でのつながりからも離れて、思想や共感のつながりを持つ家族が増えていくかもしれませんね。男女でもいいし同性でもいいし、30人規模でもいいし。そういうかたちの関係性はもっと増えてほしいです。

幸せな姿を見せることで、既存の価値観を変えていく

Eriko Kaji

――新しい家族のかたちが増えている一方で、それに反対する声はなくならないですね。

竹下:既存モデルと違うものが生まれたとき、それを見て、自分の価値観を否定されてしまったと感じてしまう人たちは少なくないんだと思います。

やはり、血縁による結束力は根強いじゃないですか。それを人類はどこまで否定していいのかを考えなければいけない。

石山:これまでの価値観を変えるには、オルナタティブな選択肢を作っていくしかないと思います。ただし、権利を主張した瞬間に対立が生まれてしまうので、伝え方を工夫する必要がある。

拡張家族って幸せなんだよ、性愛以外の愛もあるんだよって、イデオロギーではなく当事者が新しい生き方を選択し幸せだと感じている姿は、誰にも否定できないかたちで“共感の接点”を作っていくことがカギになると思うんです。

拡張家族を気持ち悪がる人に対して、どれだけ幸せそうに暮らしているのかを見せられるかどうか。

受け入れてもらう、信頼してもらうためには、他人には見せたくないような弱みもさらけ出すことが大事。それを発信することで、同じ側面を持つ人が共感してくれたり、支援してくれたりしますから。その声が増えていくことで、既存の価値観も少しずつ変わっていくと思います。

Eriko Kaji

――竹下編集長は、さらけ出せますか?

竹下:どうでしょう……。私って閉じているように見えますか?

石山:コミュニケーションの手段はさまざまですから。それこそ、書いて伝えるのも開き方のひとつですよね。

竹下:なるほど。だとすれば、記事を書いたりテレビに出演したりして、世間に対して伝えるということはやっていますね。

ただ、やはり、プライベートでの人間関係は若干閉じていて。開いたときに拒否されるのが怖い部分もあるんです。

石山:信頼の対義って、リスクなんです。

「世のなか、用心するに越したことはない」という人と、「世のなかのほとんどのことは信頼できる」という人がいます。そのどちらを選択するのか。

私が提唱するシェアライフというのは、「用心するものを最小限に抑えて、世のなかを信頼して、意志を持って開いていくほうが幸せだよ」という考え方。もちろん、難しいことですよ。だからこそ、小さなお互い様を積み重ねて、信頼の幅を広げていくようにしています。

自分自身を信じていれば、他人を疑う必要なんてない

Eriko Kaji

――石山さんは人を信頼することが怖くないということですか?

石山:そうですね。先日、フィジーに行ってきたんです。フィジーは主観に基づく幸福度調査で第1位の国なんですが、世界で最もシェアが根付く国とも言われているんですね。

カギなんてかかっていないし、隣の家に干してあるTシャツを、他人が勝手に着て出かけたりするようなお国柄で。私も知らない人の家に飛び込んで、お友達になりたいですって言ったら、すんなり入れてくれて驚きました。ご飯までごちそうになったんですよ。

そこで、「見ず知らずの外国人なんて銃を持っているかもしれないのに、どうして入れてくれたの?」って聞いてみたら、「あなたを信頼してるからだよ」って。

そのお父さんが言っていたのが、「信頼とは自分を信じること。自分自身を信じていたら、他人を疑う必要なんてない」という言葉。これは自分の捉え方次第、責任の持ち方次第ということなんですけど、とても素敵な考え方だと思いました。

竹下:私も基本的には人を信用していますけど、そこまではできていないですね……。

Eriko Kaji

石山:私もまだそこまでできていないですが、拡張家族を実践するなかで、人を不用意に疑わないというスキルを築いていきたいですし、人類の根本にある良心を信じていきたいと思っています。

竹下:ひとつお聞きしたいんですけど、私みたいな内向的な人でも、石山さんの提案するシェアライフに馴染むことってできるんですかね?

石山:それは受け入れ側によるところが大きいかもしれません。やはり、心理的な安全地帯でしか人は自分をさらけ出せないので、普段から内向的な人がいきなり知らない人だらけのコミュニティに入っても戸惑いますよね。

ただし、「Cift」では“他人を絶対に否定しない”という共通認識があるんです。そういうコミュニティであれば、内向的な人でも“なにを言っても否定されない”という安心感のもとに生活できると思います。そこから人とつながることをはじめてみるのもいいんじゃないですか?

竹下:私、「はじめまして」は得意なんです。でも、時間が経つとだんだん閉じていくので、それをどう乗り越えるかが課題ですね。

石山:内向的な人って、最初が一番閉じているはずなのに、竹下さんは不思議!

竹下:そこは記者のスキルなのかも……。でも、石山さんのお話を聞いていて、仮にいま家族がいなかったとしたら、ぜひ「Cift」に入れてもらいたいと思いました!

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Eriko Kaji

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石山アンジュ
内閣官房シェアリングエコノミー伝道師 / 一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長 / 一般社団法人Public Meets Innovation代表理事

1989年生まれ。「シェア(共有)」の概念に親しみながら育つ。2012年国際基督教大学(ICU)卒。新卒で(株)リクルート入社、その後(株)クラウドワークス経営企画室を経て現職。 シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事。総務省地域情報化アドバイザー、厚生労働省「シェアリングエコノミーが雇用・労働に与える影響に関する研究会」構成委員、経済産業省「シェアリングエコノミーにおける経済活動の統計調査による把握に関する研究会」委員なども務める。2018年米国メディア「Shareable」にて世界のスーパーシェアラー日本代表に選出。ほか NewsPicks「WEEKLY OCHIAI」レギュラーMC、拡張家族Cift メンバーなど、幅広く活動。著書「シェアライフ-新しい社会の新しい生き方(クロスメディア・パブリッシング)」がある。

(取材・構成:五十嵐大 写真:加治枝里子 編集:笹川かおり)

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