快眠のために、ためなくてはいけないもの

規則正しい生活だけでは快眠はかなえられません。

快眠には規則正しい生活を送ることが、とても大切です。

しかし、規則正しい生活だけでは快眠はかなえられません。

今回は、医師の坪田聡先生に、規則正しい生活に加えて快眠に欠かせない「睡眠物質」について伺いました。

睡眠物質をためて毎日の眠りが改善されれば、睡眠負債の返済にもなります。

睡眠不足解消は経済的にもメリット大。

「規則正しい生活をしているのに、良く眠れない...」という方は、睡眠物質がたまりにくい生活習慣があるかもしれません。

睡眠物質のメカニズムをうまく利用して、快眠につなげましょう!

■眠気は「睡眠物質」と「体内時計」で決まる

徹夜明けの朝は、睡眠不足がかなりたまっているので眠いはずですが、なぜだかハイな気分になって、あまり眠気を感じないことがありませんか?

それは、眠気を決める要因に、「睡眠物質」と「体内時計」の2つがあるからです。

●睡眠物質とは?

長い時間、運動を続けていると、筋肉に疲労物質がたまって、力が十分に発揮できなくなります。

脳でも同じようなことが起こり、脳が働く時間(=目覚めている時間)と脳の仕事量に比例して、睡眠物質がたまってきます。

現在、睡眠物質としては、アデノシンやプロスタグランジン、サイトカイン、神経ペプチドなど数十種類のものが知られています。

睡眠物質が増えすぎると脳が壊れてしまうので、睡眠物質の生産を止め、さらにこれを分解するために、脳の働きを止めて眠ります。

このメカニズムを、「恒常性維持機構(ホメオスタシス)」と呼びます。

徹夜明けの日に深く長く眠るのは、主にこのメカニズムによるものです。

●体内時計とは?

真っ暗な実験室で生活していても、人間はかなり規則正しく眠ったり目覚めたりします。

これは、身体に組み込まれている体内時計のリズムに従って、生きているからです。

体内時計には脳にある中枢時計と、体中のあちこちにある末梢(まっしょう)時計があります。

私たちの中枢時計の1日は24時間より少し長い周期をもっています。

体内時計の周期に従って、夜に眠くなり朝には自然と目覚めるリズムを、「概日(がいじつ)リズム」といいます。概日とは「およそ1日」の意味です。徹夜明けの朝でも眠気が軽くなるのは、この概日リズムによるものです。

■日本は睡眠物質研究のトップランナー

日本睡眠学会によると、睡眠物質とは、「睡眠欲求の高い状態で脳内あるいは体液内に出現して、睡眠を引き起こしたり維持させたりする物質」のことです。

この睡眠物質を世界で初めて見つけたのは、日本人でした。

1909年に愛知医科大学(今の名古屋大学医学部)の石森國臣博士が、眠らせないでおいたイヌの脳脊髄液を他のイヌに注入すると眠ってしまうことを見つけたのです。

つまり、脳の中に睡眠物質があることを証明したのです。

現在でも日本は睡眠物質の研究において、世界をリードしている国の一つとなっています。

睡眠物質の一つである「アデノシン」は、細胞のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)が分解されてできます。

つまり、起きている間の活動でエネルギー源が減ってくると眠くなるのです。

そして、眠っている間にアデノシンが再利用されてアデノシン三リン酸が再び作られ、目覚めてからの活動のエネルギー源として準備されます。

「ウリジン」や「酸化型グルタチオン」も、日本人研究者が発見した睡眠物質です。

ウリジンは脳の働きを抑える神経を活発にさせる作用のほかに、傷んだ神経の機能回復や新生、不要な情報の消去などにも貢献しています。

また、酸化型グルタチオンは脳を目覚めさせる神経系を抑える働きとともに、脳の活動によって生じた活性酸素などの細胞毒を解毒して、脳細胞を守ってくれる働きもあります。

■睡眠物質をたっぷりためればグッスリ!睡眠物質をためる方法

起きていると増えて、眠ると減るのが睡眠物質です。

代表的な睡眠物質であるアデノシンは、細胞のエネルギー源の燃えカスとも言えます。

日中、一生懸命に頭を使うと、夜にはアデノシンが脳にたくさんたまって熟睡できます。

●運動する

身体を動かすことも快眠につながります。

筋肉の動きは脳でコントロールされています。身体をたくさん動かすと脳の活動も活発になり、睡眠物質が多く作られます。

よく運動した人と安静にしていた人の睡眠中の脳を比べると、運動した人は深く眠り、安静にしていた人は眠りが浅いことが分かっています。

夕方以降に眠くなったら、積極的に身体を動かしましょう。

運動すると、目を覚ます交感神経やセロトニン神経が活発になって、眠気を減らしてくれます。

40度以上の熱めのシャワーを浴びることもお勧めです。

●正しい昼寝をする

意外なことに、正しい方法で昼寝をすると、睡眠物質がたまりやすくなります。

睡眠物質以外に眠気を作り出すのが「体内時計」。体内時計による眠気のピークは、1日に2回あります。

ピークで一番大きなものは、午前2~4時に、2番目に大きなピークは、午後2~4時に来ます。

この午後のピークの頃には、眠気のために活動量が減ってしまい、睡眠物質の量が増えにくくなります。

そのタイミングに合わせて、午後3時までの間に20分ほどの昼寝をすると、午後の眠気が減って脳や身体の活動量が増えます。

その結果、昼寝をしないときよりも、睡眠物質が多く作られるのです。

つまり、適切な方法で眠気を減らせば、身体が効率的に活動できるようになり、睡眠物質が効率よく増やせる、ということなのですね。

ただし、遅い時刻の仮眠は厳禁。

午後3時以降に仮眠をとると、睡眠物質が減ってしまい、夜に寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりします。正しいパワーナップで、仕事のパフォーマンスを上げつつ睡眠物質を増やしましょう。

●カフェインをとる

コーヒーや紅茶、緑茶などを飲むと、眠気が減ります。

これはカフェインが、睡眠物質・アデノシンの働きをブロックするからです。

睡眠物質の効果を最大限に利用するためには、寝つく前の3時間はカフェインを控えるのが賢明。

カフェインは、コーヒー・緑茶などだけではなく、ココアやチョコレート、栄養ドリンクなどにも含まれていますから、注意してください。

さいごに

快眠のためには

  • 日中の活動量を増やし
  • 正しく昼寝をし
  • 夜になったらカフェインを控えて
  • 睡眠物質をたくさんためること

が大切です。規則正しい生活はもちろん大事ですが、快眠のためには睡眠物質をうまく活用することが近道。

あなたも今日から、軽い運動と短時間の昼寝、夜はカフェインレスの飲料で、快眠習慣を身につけてみませんか?