咬合崩壊4スマホ病の影響「インプラントを入れてもらいたいと思っている患者さんはいない。」歯科医師、平沼一良

「"スマホ病"といって7~8年前からかみ締め癖が増えてきていますね」

「"スマホ病"といって7~8年前からかみ締め癖が増えてきていますね。

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これらの症状を持つ方々の首のレントゲン画像上を見ると、頚椎のカーブに負担がかかっている部位があることが判ります。整形外科的には大丈夫だというレベルでも、苦しいのです。そういった微細なレベルで調整できなくては、患者さんは救えません。我々も職人仕事ですから、せっかくなら高いレベルで良くしたいと考えています。多くの歯科医がもっとカイロプラクティックの先生と組まなくてはいけません。お話ししたように、仮歯の段階で骨格調整をするとアゴの位置が随分と改善します。」

「歯科医が手を付けられない骨格的な要素を担うカイロプラクターと歯科医のタイアップは絶対に必要ですね。とっくにそんな時代が来ているはずなのですが...。そこからやらないと、いつも歯を噛み締める悪癖が生じていきます。常に上下の歯を合わせて噛んでいる状態で、歯への負担が取れない安静空隙(あんせいくうげき)がないから休めず、常に歯根膜が炎症し続けていて負担が取れない人が大勢います。」

「例えば、4番目を抜いて歯並びを整えると、みんな首が悪くなります。きれいな歯並びでちゃんと噛んでいても、実は首が詰まっていることがあります。たとえ歯医者さんから"問題ないですよ"と言われても、患者さんは違和感を持っていることがあります。すると、"歯科へ行っても仕方がない"と患者さんは実感しまいます。

下顎が後ろに移動しているケースなども。矯正してきれいな歯並びでも、実は首とか詰まっているわけです。歯科医師は歯しかみていないから、かみ合わせは合っているし良い状態だから"問題ありません"で済まされてしまうのですね。でも、患者さんは苦しい。だから、例えばカイロプラクティックに行きます。カイロプラクターにしてみると、そういう患者さんが多く来院するから"歯医者さんは首を詰めて具合を悪くしているが、何をやっているんだろう?"と、感じるわけです。もちろん、歯医者さんは具合を悪くしているつもりはないのですが...。」

「私は、これらの経験を経て、"歯を抜いて治療することには限界があるのではないか..."と実感するようになりました。もちろん、止むを得ず抜かなくてはならないケースもありますが、今はなるべく抜かずに本人の歯を保つように心がけています。今の主な矯正を私の目から見ると...。抜かなくても済むような場合でも、歯を抜いて矯正をしてしまっていたりします。

歯列矯正では、歯が詰まっている場合に歯科医師が"綺麗に並ばない"と思うと、抜歯してしまう場合が多いです。そういうことを見聞きしてきて、どうしても「骨格を診ないとダメ」と思うようになりました。今でも、その場で最初に患者さんに首のストレッチを施してから噛み合わせをみるようにしています。歯科ユニットのヘッドレストはそら豆型をしていますが、わざわざ特注で頭が平らに固定できるヘッドレストを作って交換したのです。

「ただ、さすがに私が骨格調整までしていると、歯科治療の時間がなくなってしまいます。ちゃんとかみ合わせについて理解しているカイロプラクターと、骨格のことまで理解している歯科医が組まないと、患者さんが不幸になる。問題は、歯科医がかみ合わせの治療を必要と考えているかどうかですね。最近は、歯科医は色んな治療に走る場合があります。インプラントに熱心な歯科医も多いですね...。インプラントも結果的にはかみ合わせにつながりますが、インプラントを入れてもらいたいと思っている患者さんはいないんですよ。

入れ歯ではうまく噛めないから、患者さんは"噛めるようにしてもらいたい"一心です。高い治療費がかかっても、手術をしてでも、インプラント治療を受け入れるわけです。ところが、インプラントを入れたけれど、ぜんぜん噛めるようにならないケースがあるのです。かみ合わせは歯科医にとっては絶対に重要です。でも、その大前提が抜けてしまい、ただ詰めたりかぶせたりしてしまうのです。でも、それが原因でアゴがずれてしまったりしてしまうケースがいっぱいあります。

当院ではそれらの失敗したケースを受け入れ、治療を全部やり直します。もともと固い材料を取り扱っているため、噛み合わせの調整にはすごく時間や手間がかかります。私がやっても30分かかる場合もあります。本当に難しい分野なので、根気が要りますね。それでも、インプラントも植え直してちゃんと噛めるようにして差し上げると、患者さんご本人はもちろん、前の院で失敗したから心配だからと、同伴で来院するご家族も穏やかな顔になっていきます。」

骨格バランスの重要性を訴え、より良い治療法を考え模索し続ける歯科医師、平沼一良は今日も患者やその家族の心と向き合っている。

(敬称略)〔このシリーズ終わり〕

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