「ほったらかし」で楽しめる家庭菜園システム。電気も不要、太陽熱を巧みに利用した、その仕組みとは。

IT業界で働きながらも、家庭菜園が趣味だった中島さんだからこそ生まれた発明
SoBiCを持つ中島さん
SoBiCを持つ中島さん
A-port

根強い人気がある、ガーデニングや家庭菜園。土とふれあい、緑を育てる暮らしに憧れる人は少なくないが、実際、世話をしてみると、なかなかうまくいかないと挫折する人も多いのではないだろうか。そんな悩みを解決してくれる、ほったらかしでも野菜が育つというシステムがある。ネイチャーダインが開発・販売している「SoBiC」だ。2016年の製品化以来、改良を繰り返してきたが、この4月に最新モデルを発売予定。それに伴い、認知度アップと普及を兼ねたクラウドファンディングに取り組んでいる。

電気も機械も使わない、シンプルな構造

植物を育てるポイントのひとつが、適正な水やりの量と頻度。しかし、これが素人にはなかなか難しい。水やりを忘れてしまったり、水をあげすぎて枯らしてしまったり。

そこで「水やりを自動でする」というのが、このSoBiCだ。自動野菜栽培システムと聞くと、高度で複雑なものをイメージするが、その仕組みはいたってシンプル。「ハイテク礼賛の今の時代にはまったく逆行しているのですが、電気も機械も使わず、太陽の熱を利用して、自動的に適正な水を植物に与えます」と同社代表取締役社長の中島啓一さん。

具体的に説明すると、太陽の日射熱で空気が膨張したり収縮したりするのを利用して水を循環させるというもの。日が差している間は膨張した空気で押し出された水が自然に土に染み込み、曇りの日や夜間は土の中の余分な水が吸い上げられてタンクに戻る。タンク内の水は、常に土の中でろ過されたものが循環するため、タンクに水がある間は交換も不要だ。

SoBiCのシステムのイメージ図
SoBiCのシステムのイメージ図
A-port

「電気を使わないので、コンセントがないベランダや庭でも簡単に設置できます。水も必要な分だけの最低限の量ですみます。例えばトマトの実1個を育てるのには、蒸発する分などを含めて50Lの水が必要と言われますが、SoBiCなら2L未満でOK。電気代や水道代もかからず、環境にもやさしい装置です。将来的には、天候不良による水不足対策や砂漠地帯での栽培にも応用していきたいですね」(中島さん)

6Lあるタンク内の水の交換は植物の種類や生育状況で異なる。「種を植えてから収穫まで、タンクの水を新たに補充する回数は、平均して3〜4回程度」(中島さん)という。

自分で育てることで安心して食べられる

これまで中島氏らがSoBiCで野菜を栽培したところ、通常の栽培方法の野菜に比べて、はるかに「よく育つ」というのも新たな発見だった。
「私は農業の専門家ではないので、正直に言ってその理由がはっきりわからないのです。必要な水を必要なタイミングで必要なだけ与えることで、自然の力が活性化し、それが生育のよさにつながっているようです」(中島さん)

SoBiCで育成した野菜の様子
SoBiCで育成した野菜の様子
A-port

ユーザーにとっては、ほったらかしのまま家庭菜園が楽しめることに加えて、無農薬の安心・安全な野菜が食べられるのもメリットだ。SoBiCの販売セットには、給水システム本体と、培養土と野菜の種子の入った野菜カプセルが入っている。

「徹底的に仕組みをシンプルにすることで使用中のトラブルを防ぐようにしています。購入には『生育保証』も。うまく育たなかったときは、成功するまで野菜カプセルを無償で提供します」(中島さん)

拡大する家庭菜園市場

このSoBiCの発案者でもある中島さんは、IT業界に長く身を置きながら、プライベートでは自身も家庭菜園が趣味だった。
「変化のスピードが激しいITにいたからこそ、これからの未来はITよりも農業だという思いを強く持つようになりました」
しかし、好きな家庭菜園もいつも失敗ばかりで、一度も収穫できたことがない。そんなときに、ふと思いついたのが、このSoBiCのアイデアだった。

インタビューに応える中島啓一さん
インタビューに応える中島啓一さん
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「家庭菜園市場だけでも国内で2000億円規模。今後、高齢化社会が進む中で、老後の趣味としてもますます市場の拡大が見込めます。電気もいらない、メンテナンスの必要な機械も不要で、何より水やりの手間がかからない。SoBiCは、そういう高齢者のニーズにも非常にマッチしています」(中島さん)

ネットでの直販や代理店、ホームセンターなどで販売し、手軽に家庭菜園を楽しみたい層に積極的にアプローチしていくという。
「細かいことが苦手な50代、60代の男性はもちろん、手を汚したくない若い女性にもぜひ使ってもらいたいですね」と中島さん。

新たな農業の手法としての活用も

将来的には、業務用としても販売していきたいと中島さんは語る。
「ベランダの家庭菜園だけにとどまらず、新しい農業の形としての可能性も広がっています。SoBiCは農地がなくても栽培ができるので、都心の空き地に野菜の栽培専用ビルを建ててもいいですし、耕作放棄地にSoBiCを並べてもいいでしょう。水不足や食糧危機にも役立つシステムだと確信しています」(中島さん)

難しい技術も電気も使わずに、太陽の熱と水という自然の力を最大限利用したSoBiC。手間いらずの家庭菜園の登場で、土いじりがもっと楽しくなりそうだ。
クラウドファンディングの支援受付は3/25まで。詳細はこちら

(工藤千秋)

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