一人の南スーダン難民女性が亡くなったと一報が入った。自殺だった。
訪問調査の対象にも含まれていた彼女は、子ども5人を抱えるシングルマザーだった。紛争で夫と離別し、ただでさえ苦しい難民居住区での生活。現場スタッフ「過度なストレスが溜まっていたのだろう」。2、3日前にはマラリアも患っていた。首を吊って亡くなったという。
活動地域であるウガンダ北部のパギリニヤ難民居住区には、昨年7月~10月に避難してきた南スーダン難民が生活している。現在では新たな難民の受け入れをほとんどしておらず、南スーダンとの国境沿いにある居住区に比べると状況は安定している。ビジネスや生活再建が進んでいる難民も多い。
今年2月に調査を行っていた時とあわせれば、これまで20回以上は居住区に足を運んだ。顔なじみのスタッフも増え、雨季が始まったウガンダでは家庭菜園を始めた難民も多い。南スーダン難民危機は「世界で最も急速に深刻化」と報道されるが、現場にいると彼らの精一杯生きる姿から勇気をもらっていた。
彼女が自殺をしたのは、そんな矢先の出来事だった。紛争から逃れ、安全な地へと避難することができたのに。まだ幼い子どもたちを遺して先に逝くことを決めた彼女は、最期何を思ったのだろう。人道支援に携わる者として、すべての命を救うことができない歯がゆさを感じる。遺体の写真を見たが、首にはロープの跡がくっきりと残っていた。
南スーダンでは、石油権益を巡り紛争が続いている側面がある。先進国をはじめ、一部の権力者たちが勝手な都合で始めた紛争で犠牲になるのは、いつも弱い立場に置かれた人たち。日本に暮らす僕たちの生活も、この国の石油を基にして「豊かさ」を築いてきた。僕らはいつまで彼らを踏み台にすれば気が済むのだろう。
自衛隊が派遣されていた頃は、保守もリベラルも南スーダンのことを度々取り上げていたが、撤退した後はこの国の紛争や難民について、日本ではほとんど話題にも上がらない。自衛隊がいなくなった今、南スーダンの紛争は「どこか遠くの世界の出来事」に過ぎなくなってしまったのだろうか。
本当の苦しみは、なかなか表には現れない。そのことを痛感した出来事だった。現地に入っている国際機関やNGOが定期的に訪問調査をしていても、すべての状況を把握することはできない。100万人を超えた難民を前にして、無力感に苛まれる時がある。難民ひとり一人の声なき声へと、耳を傾けたい。
(2017年8月18日 原貫太オフィシャルブログより転載)
記事執筆者:原貫太
オフィシャルブログ:http://www.kantahara.com/
Twitter:http://twitter.com/kantahara
Facebook:http://www.facebook.com/kanta0422
instagram:https://www.instagram.com/kantahara0422/
最新情報を発信中。ぜひフォローをお願いします!
以下の記事もぜひご覧ください!
原貫太の「アフリカでの挑戦」を描いた処女作『世界を無視しない大人になるために 僕がアフリカで見た「本当の」国際支援』。第一章までをこちらで全文無料公開中。購入は こちら