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2019年08月10日 09時04分 JST

「SFの世界のような異質感」 宇宙怪獣っぽい記念碑は、共産主義の夢の跡だった

旧ユーゴスラビアの「スポメニック」の魅力を、写真集『旧共産遺産』を出した星野藍さんに聞いた。

星野藍さん提供
クロアチアにある「モスラヴィナの革命記念碑」(『旧共産遺産』より)

子供の頃、特撮番組の『ウルトラマン』が大好きだった。巨大ヒーローというよりは、登場する怪獣や宇宙人の造形が不思議でたまらなかった。もちろん恐竜そっくりな姿の怪獣も出るのだが、『ウルトラマン』第17話「無限へのパスポート」に登場するブルトンという怪獣は、まるで、巨大なホヤかフジツボのような不思議な姿をしていた。

怪獣図鑑を読んでいて「こいつはどうやってウルトラマンと戦うんだろう?」と疑問に思ったものだ。

そんなブルトンを彷彿とさせる建物が、旧ユーゴスラビアのマケドニアにある。第二次大戦に参戦したパルチザンなどを記念した「イリンデン」だ。ブルトンの登場回が1966年。イリンデンが出来たのは1974年だから、何らかの影響を受けたのだろうか……。

星野藍さん提供
マケドニアにある「イリンデン」(『旧共産遺産』より)

旧ユーゴスラビアには他にもこうした戦争記念碑「スポメニック」が各地にあり、印象的な姿をしているものも多い。

こうした「スポメニック」を中心にバルカン半島の記念碑や廃墟を撮影した写真集『旧共産遺産』が6月20日、東京キララ社から発売された。撮影した写真家の星野藍さんに、なぜスポメニックに魅せられたのかをインタビューした。

 

■「SFの世界に入ったような異質感」

――旧ユーゴスラビアという日本では馴染みが薄い地域をめぐったきっかけは何でしょうか?

原発事故があったウクライナのチェルノブイリに2013年に行って撮影したことがきっかけで、旧ソ連の廃墟に興味持ち、写真を撮るようになりました。調べていくと同じく共産圏だった旧ユーゴスラビアにも特殊な形をした、ウルトラマンの怪獣みたいなモニュメントがたくさんあると知って、これは死ぬ前に回っておこうかなと思って行ってみたんです。

 

――実際にスポメニックを近くで見て、どう感じましたか?

SFの世界に自分が入り込んでしまったような異質感、異物感を覚えましたね。建物の中に入ったときの高揚感というよりかは、『2001年宇宙の旅』に登場したモノリスのように、異質な存在と向き合って対峙しているような感覚を覚えました。

 

――こうした特殊な造形の記念碑が、なぜ旧ユーゴ圏にこれほどあるのでしょう?

建前としては、「戦争の悲惨さ」や「平和の尊さを伝えるため」というものですが、やっぱり旧ユーゴスラビア政府が、当時のプロパガンダ的な存在として政治的な思想を人々に広めるための会場スペースとして作った側面が大きいと思います。

 

――記念碑の前でイベントや演説会をする政治的な舞台装置として作った?

そう思います。当時はそういった舞台装置を作ることに、政府がお金を出すのが割と当たり前で、だからこそ作れたんでしょうね。

 

――こういったスポメニックを現在の政府は、どう管理している印象でしたか?

地域によりますね。クロアチアの「石の花」は近くに博物館みたいなのがあって、その博物館から歩いてこの公園全体を散歩できるようになっています。管理して大切にしているところもあれば、同じクロアチアの「モスラヴィナの革命記念碑」は、放置されているのに近い印象を受けました。草はきれいに刈られてますが、そこまで管理されていないようです。

一方、マケドニアにあるスポメニック「イリンデン」は、しっかり管理されていました。色も塗り直されて、中入るときはインフォメーションセンターがあるので、その人に言って鍵を開けてもらいました。

星野藍さん提供
クロアチアの「石の花」(『旧共産遺産』より)

――「イリンデン」ですが、ウルトラマンに登場する怪獣「ブルトン」にそっくりですね。ウルトラマンの初回放送が1966年、イリンデンの完成が1974年ですが、何か影響を受けたのか。それとも偶然でしょうか?

それは、謎ですよね。ウルトラマンの怪獣は(ダダという名の怪人を始めとして)「ダダイズム」というアートの運動の影響を受けた名前やデザインが多いですよね。ダダイズムの影響を受けた建築物やモニュメントがもしかしたら当時、世界的に流行していたのかもしれません。

 

 ――割とカジュアルなスポットなんですね。地元の人はこういうスポメニックが今、世界的に人気になってるってことは知ってるんですかね?

どうなんでしょうね。世界的というか、一部のマニアが食いついてるという状況だとは思いますが、国際的に話題になってるという意識は、地元にはあまり無さそうでした。

廃墟もそうなんですけど、地元の人たちは「昔から何かあるね」ぐらいにしか思ってないけど、外部の人たちがこう、魅力を持って訪れるようになってる。「何であんなところに?」と疑問に感じる人が、周辺住民には多いかもしれないです。

 

■共産主義の理想が「失われたからこそ美しい」モニュメントたち

星野藍さん提供
ボスニアの人民解放戦争戦没者記念碑(『旧共産遺産』より)

――今回の写真集はスポメニックだけでなく工場の廃墟なども扱っていますが、スポメニックだけの写真集にしようとは思いませんでしたか?

いや、すごく迷ったんですけど、そのバルカン半島各国にある廃墟もすごく魅力的だったので「あっ、交ぜたい」って思いました(笑)。それらも含めて旧共産圏の遺産っていうので打ちだしたら面白いかなと企画したんです。

 

――ただ、書名では「旧共産遺産」という表現になっているので、廃墟とは前面に押し出さなかったんですね。

はい、スポメニックは別に廃墟とは違うかなと思いました。観光地になっているところも多かったので、「廃墟」と打ち出してしまうのは乱暴かと思ったんです。今も人が訪れてピクニックしたりとかって、観光地にもなってるところも多いので、遺産という言葉の方が適切だと思いました。

 

――共産主義社会って、ユートピアを目指す社会ですね。こういった奇妙なモニュメントもユートピアを実現するための表現だったように思います。旧ユーゴ圏で共産主義が残っている国は無いですが、幻のユートピアになったからこそ、モニュメントに味があるのでしょうか?

そうですね。「失われたからこそ美しい」と感じますね。人間って多分、永遠にあるものに対しては、そこまで価値観を見出せないんじゃないかと思うんです。「いつもあるよね」という日常になってしまう。失われるからこそ価値があるみたいな「儚さ」を覚えて、胸が締め付けられるような感じがしました。

 

■星野藍さんのプロフィール

ほしの・あい。写真家、書道家、グラフィック&UIデザイナーなど。福島県出身。従姉の死、軍艦島に渡ったことをきっかけに廃墟を被写体とし撮影を始める。旧共産圏、ソビエト、未承認国家に強く惹かれ、近年縦横無尽に徘徊する。著書は『チェルノブイリ/福島〜福島出身の廃墟写真家が鎮魂の旅に出た』(八角文化会館)、『幽幻廃墟』(三才ブックス)など。

東京キララ社
『旧共産遺産』の書影