スポーツ実況、できるの男性だけじゃない。過去に6割のテレビ局が女性アナを起用 128社に聞いてみた(調査)

「そこには、『男性が担当するもの』という思い込みや空気があるから、ともいえます」

「打ったぁーーー、大きい、大きい...」「ゴォーーール!!!」

小気味よい軽快な口調でプレーの臨場感を伝えながら、豊富な知識で聞く人の好奇心を掻き立て、 得点シーンは一気に熱を込める。

スポーツ観戦を一段と面白くしてくれるのが、実況アナウンサーの役目だ。これまで男性が中心だったスポーツ実況の舞台で、活躍する女性が徐々に増えている。

ハフポスト日本版は、全国の128の全地上波テレビ局を対象に、スポーツ実況を担当するアナウンサーがどれぐらいいるのかや、起用の傾向などについて調査した。

回答のあった59社のうち、61%が過去に女性アナウンサーをスポーツ実況に起用したことがあったほか、今と30年前とを比べると、起用数が増加していることが分かった。

一方で、「スポーツ実況=男性」という根強いイメージや、女性アナに求める役割などが影響し、希望する女性が伸び悩む状況につながっている実態も見えてきた。

女性アナのスポーツ実況、実態は? 128の全テレビ局に聞いた

アンケート調査を依頼したのは、全国にある128の全地上波テレビ局。アンケートでは主に、次のようなことを質問した。

・過去に女性アナがスポーツ実況を担当したことがあるか?

・平成元年と平成31年の男女アナの起用実績

・女性が少なかったり、登用しにくかったりするのか?その理由(匿名あり)

・女性を起用した理由(匿名あり)

128社のうち、メールの文面や電話での口頭も含めて59社から回答があった。

ferrantraite via Getty Images

過去に「起用あり」は61%

まず、これまでの女性アナのスポーツ実況への起用実績と、その理由などを尋ねたところ、次のような結果となった。

起用あり 36社(61%)

なし 19社(32%)

不明 4社 (6%)

起用人数が多かったり、時期が早かったりしたテレビ局を、寄せられたコメントを交えて紹介する。

青森放送は、所属する8人全ての女性アナが、高校バレーなどの実況を担当。毎年開かれる県民駅伝では、アナウンサー総出で各中継所の実況に当たっている。「昨年も、『高校バレーボール大会』の初実況を経験した女性アナもおり、今後やっていきたいアナがいればやらせたい」と、積極的に起用している。

甲子園や高校野球の県予選実況などで起用しているNHKは、「実況業務を志向する女性アナは、男性アナと同じよう育成している」という。

毎年実施しているスポーツ実況アナウンス研修にも、ほぼ毎回女性が参加しているが、「女性の場合、早い段階からスタジオでのキャスター業務に携わる機会が多いため、継続的に実況に取り組む環境を整えるのが難しい」と課題もあげる。

日本テレビは、駅伝や体操・新体操、ゴルフなど幅広い競技で実績がある。1983年から2009年まで開催された横浜国際女子駅伝では、当初から数々の女性アナを起用。朝日新聞(1993年2月27日夕刊)によると、小池裕美子アナ(当時)が1993年、女性として初めて日本のロードレースでセンター実況を務めた。

横浜国際女子駅伝
横浜国際女子駅伝
時事通信社

テレビ朝日も、1995年の東京国際女子マラソンで、全ての実況を女性アナだけで実施した。また、宮嶋泰子アナ(当時)は、1980年〜85年のシンクロナイズドスイミング日本選手権や数々の競技で実況を務め、今回の調査上で最も早い時期の女性スポーツ実況となる。

朝日放送テレビの関根友実アナ(当時)は1996年、女性として初めて甲子園実況を担当(朝日新聞1996年7月12日付朝刊)。テレビ新広島では、松本京子アナ(当時)が1990年、女性初のプロ野球のテレビ実況を務めた。

ある関東のテレビ局は、これまで幅広いスポーツ競技で女性アナを起用した理由ついて、「本人が志し、また会社がその役割を期待した女性がいたため」と説明し、長野朝日放送は「高校野球の女性アナ実況が全国的に増えた時期があり、チャレンジしたい女性アナは『登板』した」とコメント。

熊本放送は、県内開催の高校駅伝や女子駅伝でここ20年、在籍するほぼ全ての女性アナウンサー(現4人)が各中継所の実況に携わっているという。

甲子園球場
甲子園球場
時事通信社

過去に「起用なし」は32%

一方で、過去に一度も登用したことが「なし」と答えた19社(32%)に、その理由を尋ねると、 女性アナ実況そのものに否定的な回答をした社はほぼなかった。

ではなぜ、男女で起用の数に差が出てしまうのか。女性が少なかったり登用されにくかったり理由や背景について、次のような意見が寄せられた。

「これまでに希望する女性アナウンサーがいない、少ない」(毎日放送、北陸・甲信越や中国・四国のテレビ局)

「スポーツ実況の業務が少なく、男女問わず特別なスキルを必要とする実況アナを育成するに至らない」(北海道・東北)

「実況に向き不向きの声は男性にもあるが、(女性は)この競技にはマッチしないというのはあるかもしれない」(九州・沖縄)

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平成元年と平成31年で比べてみた

次に、平成元年(1989年)と平成31年(2019年)のそれぞれ時期で、スポーツ実況を担当した男女アナウンサーの有無について尋ねた。

対象としたスポーツは、「プロ野球」「高校野球」「サッカー」「バレーボール」「駅伝」「マラソン大会」。

平成元年と、平成31年における男女アナウンサーの起用状況は、それぞれ次の通り。

Huffpost Japan
Huffpost Japan

女性アナのスポーツ実況担当が「あり」と回答した社は、1989年ではゼロだったが、2019年は7 / 58社(12%)。少しづつであるが増えている。

しかし、2019年に男性アナを「起用した」のは41 / 59社(69%)あり、スポーツ実況は男性が中心という状況が続いている。

男性アナに限ると、どちらの年も大多数の社が起用しており、「なし」だったのはそれぞれ4社。回答全体に占める割合も各7、8%程度と、登用の傾向に大きな変化はなかった。

女性アナが担当した競技は、登用が多い順に、駅伝、高校野球、マラソン、バレーボールだった。

駅伝実況は、センターやメーンに加えて、中継車や各中継所にもアナウンサーを配置するため、起用する人数が多くなる傾向があった。中には、アナウンサー総出で実況に当たるテレビ局もあった。高校野球は、各県予選など実況する試合数が多いことが影響しているとみられる。

希望者、なぜ少ないのか

過去に女性アナを起用した社もゼロの社も、寄せられた理由として多かったのは、そもそも、スポーツ実況の希望者が少ないこと。ただ、コメントを紐解くと、女性が希望しづらいさまざまな背景や要因、環境が見えてくる。

・声質

まず、スポーツ実況への適性を判断する指標として、「声質」があげられることが多い。

「スポーツ実況では状況に応じて声の強弱や高低の変化で表現することで、ダイナミズムを伝えられる部分がある。その点で男性と比べ女性の方が声域の幅が狭く、不利であることは否めない」(関東のテレビ局)

「高音域のみの声質になると、いわゆる耳が痛くなるという状況に陥るため、(女性が)2、3時間の実況となると厳しいと言われる理由かと思われる」(中国・四国)

北海道・東北地方のテレビ局は、女性アナが高校野球実況をした際に「視聴者から『聞きにくい』『男性アナに変えてほしい』との意見が多数寄せられた」と明かす。

・他の分野での需要

また、男女アナウンサーで求められる役割の違いや、時間・人事的な事情も影響しているという。

朝日放送は、2019年にスポーツ実況を務める女性アナがいない背景について「他の番組での需要が高く、限られた人員をスポーツ実況に割けない」と説明する。

「実況の技術を習得する為には、ある程度長い期間に渡って実況に携わる必要がある。一般的に女性の場合、男性以上に多岐に渡る仕事に携わる場合も多く、長期間スポーツ実況の仕事に携われる環境に身を置くことは少ないのではないか」(関東)

・身近なロールモデルの不在

「学生時代からテレビのスポーツ中継に興味を持って視聴している女性アナ志望者が少ない。市場にも少ないので憧れの存在となる人物(女性実況アナ)がいないので、適任と思われる人材が生まれない」(北陸・甲信越)

・「スポーツ実況=男性」というイメージ

さらに、男性アナの実況に慣れ親しんだ視聴者の「意識」が、女性アナ起用・定着の障壁になっていると、ある東海地方のテレビ局は言う。

「依然として『スポーツ実況=男性アナ』のイメージが強い。視聴者の意識が変わらない限り、女性アナウンサーの起用は難しい」

別の東海地方のテレビ局は、スポーツ実況を経験した女性アナの話として、次のように明かす。

「実況での言葉遣いも男性より気をつけなければなりません。例えば『○○が○○した』という男性では当たり前の表現でも、女性の場合乱雑に聞こえたり丁寧さがないともとられてしまい、『○○が○○しました』と敬語にすればもたもたした流れのない実況になってしまう」

女性の希望者が少ない背景として、「そこには、『男性が担当するもの』という思い込みや空気があるから、ともいえます。スポーツ好きでスポーツ番組を担当したいという女性はいても『実況を是非!』という声を聞かないのは、少し寂しい気もします」と付け加えた。

もちろん、高すぎる音域が続くと、視聴者が聞きづらくなることもあるだろう。

それを考慮しても、「スポーツ実況=男性」という根強いイメージにより、女性の声というだけで違和感として受け取られてしまっている。さらに、それに追従する形なのか、テレビ局側も女性にスポーツ実況の役割を求めない傾向があり、スポーツ実況がまだまだ女性に身近な存在となっていない。

その結果、男性アナにとっては“当たり前”のスポーツ実況も、女性アナには挑戦するハードルが高くなり、「希望者が少ない」という状況につながっている。

海外のスポーツ実況事情は?

実況するヴィッキー・スパーク氏(中央)
実況するヴィッキー・スパーク氏(中央)
Getty Editorial

一方で、海外ではどうなのか。スポーツ実況を務める女性は、そこまで広く受け入れられているわけではなく、“声質”を理由に、否定的な見方をする人もいる。

テレグラフ紙によると、BBCのヴィッキー・スパーク氏は2018年、女性として初めて、イギリスでテレビ中継されたワールドカップ(ロシア大会)の実況を務めた。ところが、元プロサッカー選手のジェイソン・カンディ氏がテレビ番組で、スパーク氏の声が高すぎて聞きづらかったと苦言を呈し、サッカーの実況には男性の声の方が好ましいと訴えた。カンディ氏はその後に発言を謝罪した。

また、ロサンゼルスタイムズは2017年9月9日付の記事で、アメリカのプロフットボールリーグ(NFL)の試合で、30年ぶりに女性アナウンサーが実況することが決まったと伝えている。NFLの試合で実況を務める女性は当時で2人目という。

実況を担うベス・モウィンズさんは、同紙の取材に「このことがSNSに上がった時、ネガティブな反応がたくさんあった」と語っており、アメリカでも女性の実況に対する厳しい目があるようだ。

一方で、2018年には女性ペアによるNFLの試合実況と解説が実現。アメリカの男子メジャースポーツで初めてで、女性アナの活躍の一歩となった。

女性の社会進出を進めているサウジアラビアでは、女性実況アナが誕生したばかりだ。3月1日の女子サッカートーナメントで、サウジアラビア人として初めてスポーツ実況することが決まったと、地元紙のサウジ・ガゼッタが報じている。

ベス・モウィンズさん(左)
ベス・モウィンズさん(左)
Collegiate Images via Getty Images

「女性実況が増えれば、馴染んでくる」

日本では、女性アナウンサーのスポーツ実況は定着・増えていくのか。慎重なテレビ局もある中で、三重テレビは「頑張っていて、やる気のあるアナウンサーなら男女問わず登用したい」と前向きだ。

瀬戸内海放送も「新人のアナウンサーがスポーツ実況に関心を示しており、今後の訓練で実況できるレベルに達すれば挑戦してもらいたい」と検討しており、「今後は注目されているeSPORTSへの『ゲーム好きな女性』の実況起用なども考えられる」(九州・沖縄)と、実況スタイルや競技の多様化に期待する声もある。

広島ホームテレビも、実況担当者こそいないが「これまで番組のMCやリポーターなど歴代のスポーツ担当女性アナは、みんな真摯に学び取材し伝えてきました」と強調する

2018年夏の甲子園では、NHKの澤田彩香アナがラジオ実況し、好意的な反応が寄せられた。

関東のあるテレビ局に寄せられた声の中で、若い世代ほど「違和感・抵抗がない」という反応が多かったという。

「声の質で違和感を感じる視聴者がいるかもしれないが、女性実況が増えれば、なじんでくる」(東海)

聞き馴染みがないからと、チャレンジする前から向いていないと判断するのは、時期尚早だろう。

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