ビジネスが作る未来
2019年10月07日 12時49分 JST | 更新 2019年10月07日 14時02分 JST

モード誌『SPUR』が渋谷で生理ナプキン7400枚を配布 「男性にこそ見てほしい」

「時代はいつもあなたから変わる」という言葉に込めた思いとは? 五十嵐真奈編集長に聞いた。

モード誌の『SPUR』が2019年9月、創刊30周年を迎えた。

周年企画として10月7日、渋谷のファッションビル「MAGNET by SHIBUYA109」に、生理用ナプキン7400枚のサンプル付き広告を掲出した。

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SPURの30周年広告

広告の中で笑うのは「コンプレックスはアートなり。」をコンセプトに掲げる4人組バンドのCHAIだ。職場で女性が、その性別ゆえにぶち当たるといわれる「ガラスの天井」。それを思いっ切りつき破っていくシーンを描いたという。

モードを牽引してきた『SPUR』はなぜ今、生理用品を配るのか。

「ガラスの天井」をつき破る4人の姿を通して、読者に、社会に問いたい思いとはなんだったのか。

五十嵐真奈編集長にねらいを聞いた。

(文:石川香苗子/編集:南 麻理江)

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インタビューに答えた五十嵐真奈編集長

いつだって「ご機嫌な大人」でいられる?

――SPUR30周年を彩るキャンペーンのテーマに「生理」を選んだのはなぜですか?

私は2017年に編集長に就任した時から、『機嫌の良いハイモード』という言葉で『SPUR』のあり方を提案してきました。

でも、女性はいつだって「ご機嫌」ではいられないということに、ある時気づいたんです。

きっかけは、『SPUR』読者へのアンケート調査でした。

生理休暇を取ったことがある人は22%にとどまり、多くの方が生理休暇を自由に取れない、男性の上司に言いづらい、そもそも福利厚生に「生理休暇」がないという窮屈さを抱えてきました。

これは誌面に登場してくれているモデルも同じ。彼女たちの中にはひどい生理痛の時は歩けない、仕事ができない、中には七転八倒するという女性までいます。実際、私たちも生理中のモデルさんたちに無理をお願いするような撮影もありました。

そんな状況で、とうてい“ご機嫌”にはなれませんよね。毎日、笑顔で絶好調では過ごせない事情があるのなら、もはやそれを包み隠さず伝えた方がいい。絶好調じゃない自分のことも愛して、包み隠さず伝えられる環境をつくりたい。そう考えるようになりました。

そのためには当事者だけでなく、周りの理解も不可欠。

思い切って、SPURの読者ではない多くの方々に向けて、渋谷の街中に堂々と生理用品を掲出することで、色んな方たちに、自分と他者の身体について考えるきっかけを提供したいと考えました。

 

インタビューに答えた五十嵐真奈編集長

――男女問わず多くの人々が通る渋谷の街中に、生理用品を掲出することに抵抗はありませんでしたか?

「抵抗」という言葉が正しいかわかりませんが、色んな方の色んな反応を想定して議論を重ねました。

私たち日本人は生理に関する教育が、年代や教育機関によってまちまち。

今回の企画は、むしろ男性や生理を体験しないバイオリズムの方にこそ見ていただきたい、という思いがありました。 

だからあえて、人通りの多い渋谷の街中に堂々と提示し、男性も女性も生理に関する知識を身につけたり語る土壌をつくるきっかけとしたい、と思っていたのです。

しかしながら、おっしゃる通りやっぱりまだまだ生理はセンシティブな話題ではあります。

広告というのは、雑誌と違って自分で「選んで」買うものはなく、なかば強制的に見せられてしまうものでもあります。

今回の企画は、いたずらに驚かせたり、困惑させることが目的ではありません。閉経した方や、そもそも生理がない体質の方、あるいは生理についてなんて考えたくもない方もいるでしょう。

そこで、広告の前に「生理用品のピールオフ企画です」という立て看板を置き、どうしても見たくない方に見ない“選択肢”をもっていただく工夫もしました。広告コピーで「生理」という言葉を使うかどうかも、かなり議論を交わしましたが、言葉を使わずして表現する道を選びました。 

eriko kaji
インタビューに答えた五十嵐真奈編集長

生理用品は「恥ずかしい」を、超えていきたい

――広告に登場する、CHAIの4人の表情も印象的ですね。何かから解放されているようです。

CHAIさんは代表作「N.E.O(ネオ)」で「コンプレックスは、アートなり。」と宣言し、「そのままがずっと  誰よりもかわいい」と歌っています。歌を通じて、新しい価値観や生き方を前向きに、積極的に発信している彼女たちには偽りがない。

心から思っていることを「ありのままに」歌っていますよね。

今回のキャンペーンでは、絶好調じゃない自分のことも愛そう、というメッセージを伝えたいと思っていたので、躍動感をもってそれを表現してくれるCHAIさんにオファーさせていただきました。

彼女たちが上に向かってジャンプしているポーズは、「ガラスの天井」を突き破るイメージです。今を生きる女性たちを覆っている、生きづらさという名の「ガラスの天井」を、CHAIの皆さんに打ち壊して欲しいと思いました。

下の方のレインボーカラーは、どんな色もあなたの色、そしてあなたの色が存在することが素晴らしいという意味を込めました。そして、カラフルな社会への願いも。

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掲出された広告

――実際、生理用ナプキンのサンプルを取っていく人はいるんでしょうか?やっぱりどこか、少し恥ずかしいような気もしますが…。

その「恥ずかしい」の壁こそ、まさに超えていかなければならないものだと思っています。

「生理用品が見えているのは恥ずかしい」「お店で生理用品を買うと、茶色い紙袋に入れてくれる」……果たしてそれは本当に正しいのでしょうか。むしろその方が恥ずかしい、という場面もあるかもしれません。

そんな風に、生理は何かと恥ずかしいものだ、という考えを覆したいと思いました。

生理用品を隠したいという人がいれば、もちろんその気持ちは尊重したいです。

でもいつか、ポーチの中に入れて隠さなきゃいけないようなものではなくなってほしいし、男性がいる場所でナプキンがあっても見て見ぬ振りにならないような世の中もよいのでは、と。むしろお守りのような存在であってもいいのではないかと思うんです。

そういう意味でも今回のパッケージは男性にも手に取りやすいものにしたつもりです。生理のない方が周りの人のバイオリズムに思いを馳せるだけでも、目の前の相手に優しくなるのではないでしょうか。

それに最近は、各地で自然災害が増えていて、災害避難時の生理用品の重要性も叫ばれています。そんな時、周りの人に手渡せるアイテムとしても有効なデザインにしたい、と考えました。

eriko kaji
配布する生理用ナプキン

努力したい、変わりたい。そんな向上心も「ありのまま」

――今回の広告のメインコピーは「JUST BE YOURSELF.」です。価値観が多様化する時代に「ありのままでいいよ」というメッセージは、以前に比べて色んなところで聞かれるようになりましたが、五十嵐編集長の考える「ありのまま」でいる女性とは、一体どういうものでしょうか?

「ありのまま」という言葉は難しいですよね。私が思うのは「ありのまま」というのは「努力しなくてもいい」ということではなく、むしろこの言葉の中には「努力する姿」や変化や進化も含まれているということ。

もし、変化したいと思っているのであれば、変化したいという「ありのまま」の気持ちに素直になって欲しいですし、努力しているのなら、その前向きな努力を隠さず、「ありのまま」に見せて欲しい。それが素敵な大人としてのあり方なのではないでしょうか 

これまでの日本では、隠れた努力こそ美しいという考え方が横行してきました。しかしこれからは違います。努力している様子さえもオープンにしてしまうことが、下の世代への勇気になったり、肯定感を高めてあげることに繋がっていくでしょう。

私たちは「JUST BE YOURSELF.」というメインコピーの下に「時代はいつもあなたから変わる」というサブコピーをつけました。

つらいならつらい、ということをそのまま受け入れる。

なりたい職業や理想の人物像があるなら、そうなりたいと堂々と宣言し、努力する。

変わりたいのなら、その前向きでひたむきな欲望を抑えたり隠したりする必要はありません。

やりたいことを素直に表現することや、向上心さえも「JUST BE YOURSELF.」の1つです。

eriko kaji
インタビューに答えた五十嵐真奈編集長

――雑誌は、読者に新しい価値観を提案するメディアですが、近頃は売り上げ部数の減少などシビアな現実もありますよね。お金を払って買った読者向けのコンテンツが、SNSなどにシェアされて“炎上”するなどの事例もあります。今後、SPURは読者にどんな価値を提供するメディアでありたいとお考えですか? 

メディアの使命とは、知識を提供し、「知識を身につければ、自分でものを考えられる」ということをさりげなく諭すこと。

煽ることでも押し付けることでもないと、私は思います。

煽って誘導したり、頭ごなしにこちらの意見を押し付けたりしたところで人の意識や思いはえられません。

変革は知識によるボトムアップから。そう信じて、私たち自身が知性を身につけなければなりません。

読者に「ありのままであろう」「変化を恐れるな」とメッセージを打ち出している以上、私たちも言ったことを体現することが、雑誌としての一つの使命です。

これからは激動の時代です。2020年、東京の街が溢れんばかりの人でいっぱいになった時、たくさんの出会いやクラッシュが起こります。私たちメディアも、新しいことに一つ一つチャレンジして、変化の中で生き残ってはいかなければなりませんね。

インタビューに答えた五十嵐真奈編集長

◇「 #表現のこれから 」を考えます◇

「伝える」が、バズるに負けている。ネットが広まって20年。丁寧な意見より、大量に拡散される「バズ」が力を持ちすぎている。 

あいちトリエンナーレ2019の「電凸」も、文化庁の補助金のとりやめも、気軽なリツイートのように、あっけなく行われた。

「伝える」は誰かを傷つけ、「ヘイト」にもなり得る。どうすれば表現はより自由になるのか。

ハフポスト日本版では、「#表現のこれから」で読者の方と考えていきたいです。

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