2020年01月30日 13時58分 JST | 更新 2020年02月03日 13時39分 JST

女は産まなきゃ、男は稼がなきゃ…。見えない「檻」から抜け出し、自分らしく生きるヒントとは。

性別で決まる人生なんてない

「子育ては母親がするもの」「男は家族を養わないと」

上に挙げた台詞を見て、あまりの古めかしさに「昭和?」と思った人も多いだろう。しかし実際は言葉の通り、夫が長時間労働、妻がワンオペ育児といった家庭は少なくない。

「夫」「妻」「母親」「独身」などと名付けられた見えない檻から、どうすれば抜け出せるのだろうか―。

事実婚で子どもを育てるイラストレーターの水谷さるころさんと、不妊や出産にまつわる女性の選択をリアルに描く作家の甘糟りり子さんに、自分らしく生きるヒントをたずねた。

Masanori Sugiura
甘糟りり子さん(左)  水谷さるころさん(右)

事実婚は「遅い反抗期」、親の価値観から抜け出したい

──水谷さんが、事実婚を選択したのはなぜでしょう。

水谷 私は離婚経験があるのですが、1度目は親の望む「結婚」の型にはまりすぎた、という反省があるんです。両親は保守的な考えが当たり前の世代で、妻は家事を、夫が仕事をするのが幸せな家庭だと考えていました

私は無自覚に親の影響を強く受けていて、30歳までに結婚しなければと焦りました。相手に頼むように普通に結婚式をして婚姻届を出して、「結婚」しました。なので「私が望んだのだから、頑張らなきゃ」と、すべての家事を引き受けてしまいました。婚姻中に仕事が減っても経済的に頼ることもできず、逆に仕事が立て込んでいても家事のサポートは頼めず、辛くなって3年半で結婚は終わりました。2度目は事実婚にすると決めたのは、親の価値観から抜け出そうとする、遅い反抗期のようなのも一因としてあったと思います 

Masanori Sugiura

──甘糟さんが社会に出た時、結婚への圧力はもっと強かったのでは?

甘糟 約30年前、大学を卒業して1年だけアパレル会社で働きました。入社するとまず、女子だけが「〇〇さんは砂糖控えめのコーヒー、△△さんは日本茶」と、お茶出しのため全員の飲み物を覚えさせられたんですよ。未婚の女性は24歳で「クリスマスイブ」、25歳を過ぎると「売れ残り」と揶揄された時代です。

でも私の両親は、結婚しろとは一切言いませんでした。編集者だった父は子供の人生は子供のものという考えの人でした。私は30歳を過ぎても、仕事が充実していたし遊ぶのも楽しくて、結婚を考える暇もなく今に至りました。

離婚は失敗ではなく、その後人生のための一つの選択ですよね。水谷さんたちのような、事実婚も増えていくでしょう。これからの家族の形は「結婚する」「しない」と白黒つけるのではなく「グレー」であってもいい。親子という関係も、血縁だけで決められるのではなく、養子縁組やシングルで子どもを持つなど、多様な姿が普通に受け入れられるようになってほしいです。

「女は産まなきゃ」前提なくなれば楽になる

──LIFULL(東京)がTwitterで行なった社会に対して感じた「違和感」をツイートするキャンペーン「#しなきゃなんてない」には、世間に「役割」を押し付けられることへの疑問が、多数寄せられました。

例えば、エッセイストの犬山紙子さんは「母親は自己犠牲しなきゃいけないなんて、ない」とつぶやきました。「女は子ども産まなきゃなんてない」という投稿もありました。

甘糟 以前「産まなくても、産めなくても」という小説を書いた時、非正規労働で経済的に子どもを持つ余裕のない女性や、不妊治療中の女性が感じている「母親になりたいけどなれない」というプレッシャーは、非常に深刻だと感じました。

Masanori Sugiura

水谷 私は不妊治療中に「もし子どもができなくても楽しく生きよう」と思うようにしました。あるべき人生を決めてしまうと、そこから外れた時が苦しい。「望んでいるのに手に入らない」と思っている人の中にはつらさのあまり、「自分が欲しいものを持っている人」に不満や反発をぶつけてしまうこともあるのかもしれません。

甘糟 「子どもを産むことが女性の一番の幸せ」という前提がなくなれば、もっと楽に生きられると思います。また自分がつらい思いをしていても、立場の違う人を思いやり、受け入れる気持ちは必要ではないでしょうか。

「結婚=悠々自適」と思われ仕事が4割減 今は夫が炊事、妻が掃除を分担

──投稿には「夫が家計を支え続ける、なんてない」といったつぶやきもありました。

水谷 私は最初の結婚後、仕事が4割ぐらい減りました。「男が稼ぐ」という保守的な価値観を持つ人が「もうあくせく働かないんだろう」と思い込み、安いギャラを提示されたり、支払いが遅れたりすることもありました。

ある男性クライアントはポロッと「結婚したんだから、いいじゃないですか」と口にしました。彼自身、結婚したら男が稼ぐモノという価値観に縛られていたんだと思います。

Masanori Sugiura

──男性自身も、「稼ぐ」という鎖に縛られ、生きづらさを感じていると思いますか。

水谷 家計を担うことで経済的な「強者」でいなければ、という考えが男性にあるなら、まさに男性社会が生み出した「強い=男らしい」という規範にはまり込んでいるのだと思います。強弱のパワーゲームに囚われず「主夫をやります」「育休を取ります」と、軽やかに規範から抜け出せる人がもっと出てくるといいのですが…。

男らしさなんていらないよ、と言える男性が、実は本当の意味で「強さ」を持っていると感じます。そんな男性が増えるほど、女性の側も解放されるのではないでしょうか。

甘糟 最近、私の周りは女性が仕事、男性が家事を担うパートナーシップが増え、時代の変化を感じます。単に男女の役割を逆転させるのではなく、水谷さんのように仕事も家事も2人でするのが一番摩擦が少なそうですね。

──今、水谷さんとパートナーはどのように家事を分担していますか。

水谷 炊事は夫の役目です。私は食に対する関心がなく、特に離婚後は、何を食べるか考えるのも嫌で、カップラーメンばかり食べていました。当時付き合っていた今の夫が、私の食生活に驚いて鍋を作ってくれるようになり、その延長線で分担が決まりました。一方、私は家が汚いと仕事に集中できないので、掃除を担当しています。

思い悩まずハッピーな道へ 「好き」に誠実に生きる

──タレントのフィフィさんは、LIFULLのハッシュタグキャンペーンで外国人であることも自分を形作っているとして「周りと違っちゃいけない、なんてない」と投稿しました。自分らしく生きるためのアドバイスをお願いします。

水谷 私はかつて、自ら作った「結婚はかくあるべき」という檻に入ってしまいました。親や世間の評価軸で判断せず、自分がハッピーだと思う方へ向かうことで、そこから抜け出せたと思います。

自分を従来の「結婚の型」に無理してはめこむのではなく、結婚の形やライフスタイルのほうを自分に合わせてみてください。

Masanori Sugiura

甘糟 私は特に強い意思も持たず、楽しそうで心地の良い道を選んで生きてきたにすぎません。他人と自分を比べなかったことが「自分らしさ」につながったと思います。

何かを決める時や始める時、「好き」という気持ちに従うことも大事です。本当に好きなのか、それとも世間に流され、好きだと思わされているのかを見極めることが肝心。「好き」にまつわる苦労も引き受けることが、成長につながります。

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LIFULLは、ビジネスを通じてあらゆる人が自分の生きたいLIFEを実現できる社会を目指し、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいる。

「 LIFULL HOME’S ACTION FOR ALL」もその一つだ。

外国人やシングルマザーら、住まいを確保しづらい人々に住宅情報を提供するサービス「FRIENDLY DOOR」や、物件の問い合わせが寄付につながる「えらんでエール」などを展開し、社会課題に真摯に向き合っている。

今回の「#しなきゃなんてない 」投稿キャンペーンも、集まったリアルな声を元に社会課題を抽出し、解決に向けた事業活動や取り組みを推進していくという。

性別や年齢、肩書や立場による「しなきゃ」から解放され、誰もが自分らしく生きる社会へ。たった140字の小さなつぶやきたちが、未来を変える力になるかもしれない。

(取材・文:有馬知子 編集:川越麻未)