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2019年12月16日 06時04分 JST

本当に立ち直ったのはHIV感染から5年目のこと。人目をはばからずにわんわん泣いた。 医療現場で体験した差別や偏見

咳が止まらず、夜には発熱。病院を受診すると結核と診断された。だが、それがエイズの発症だとは想像もしなかった。

Kazuhiro Sekine
取材に応じる佐藤郁夫さん=東京

エイズは、発症の原因となるウイルス(HIV)を薬で抑え込むことができる時代になった。

適切な治療によって長生きもでき、ほかの人に感染することもない。セックスや妊娠、出産も可能だ。

東京に住む佐藤郁夫さん(60)はHIV陽性者であると同時に、NPO法人「ぷれいす東京」(東京)の理事として、ほかの陽性者の支援している。

病気について気持ちを吹っ切ることができたのは感染発覚から5年後のこと。号泣したある出来事がきっかけだったという。

■「ぷれいす東京」理事、佐藤郁夫さん

体に変調をきたしたのは1997年の4月ごろです。半年ほど咳が止まらず、夜になると37~38度の熱が出る。でも昼間はけろっとして体も動くし、仕事もできる。当時38歳でした。

心配した友人が病院に行くよう言ってくれて、それで近くの病院を受診しました。その結果、結核だということがわかったのです。

驚きましたけど、正直、病名がわかってほっとしました。そりゃ結核は大変だけど、治療法はあるわけなので。それで入院して治療することになったのですが、そのとき、看護師からHIVの検査を勧められました。「患者の皆さんにお願いしてます」と言われました。

後になってわかったのですが、私の結核はHIVの感染で引き起こされるエイズの発症だったんです。入院の時に自分がゲイであることも伝えていたので、それもあって病院としてはHIVの感染を疑ったのだと思います。

1週間後、ナースステーションに呼ばれて「HIVに感染しています」と告げられました。ショックで頭の中が真っ白になりました。

ただ、エイズを発症しているとは言われなかったんですね。そのとき、結核とエイズの関係をよく分かっていたら、エイズを発症したと思って、もっとショックを受けていたでしょうね。今振り返ってみて、改めて相当ギリギリだったのだなと思います。

告知された日ぐらいはふさぎ込んでいましたけど、その後は「前に進むしかない」と吹っ切れた感じでした。以前自己探究のセミナーを受けたことがあって、どんな人生であっても受け入れようという心構えができていたのです。

そのとき付き合っていたパートナーの男性とセックスフレンドに感染の事実を伝え、検査をするようにお願いしました。結果は2人とも陰性でした。

妹2人にも伝えました。僕の体のことを心配してくれ、治療に関する情報も教えてくれもしました。

治療はまずは結核を治すことから始まりました。僕の場合、結核とHIVの治療薬は相性が悪いようで、同時に両方服用できませんでした。結局、HIVの治療薬を飲み始めたのは判明から5年後のことです。

感染したのは、発覚の5、6年前だと思います。ちょうどそのころ付き合っていたパートナーとの関係がうまくいってなくて、満たされない気持ちを、ほかの男性たちとのセックスで紛らわそうとしていました。

どこで誰から移されたのかはわかりません。でもそのときは「自分は絶対HIVに感染しない」という根拠のない自信がありました(笑)。

わんわん泣いた

発覚から5年ぐらいたったとき、HIV陽性者のためのスピーカー研修がありました。それに参加して、ほかの人の話を聞いて色々と自分のことを考え、自分が話すことになったら、わんわん泣いてしまったんです。

感染のことだけじゃなく、ゲイであることを周囲に知られた時のつらさや、長男としてのプレッシャーなど、一気に色んな苦しい思いが込み上げてきて。「ああ、やっぱり僕は感染したくなかったんだ」と、はっきり自覚しました。

それまで自分は立ち直った気になっていましたが、本当の立ち直りはこの時だったと思います。

今でもエイズやHIV感染に対する差別や偏見を感じることはあります。例えば私は腎臓が悪くて人工透析をしているのですが、感染していることでなかなか受け入れの病院が見つかりませんでした。

適切な治療をしていればほかの人に感染することはないレベルまで医療が進歩しているのにもかかわらず、当の医療職の人たちの中に、まだまだ差別や偏見が残っていると感じます。

人前で話せる陽性者が増えれば...

あとは恋愛ですね。感染によってハードルが高くなりました。今のパートナーに出会うまでに50人ぐらいに断られました。

すごく好きな人がいて、感染の事実を告げずに付き合い始めた人がいたんです。もちろん、セックスはコンドームをつけて安全な形でしたが、1回だけ感染のことを伝えずにしました。

でも隠していることが心苦しくなり、感染について明かすと「なぜ最初に教えてくれなかったの?」と言われてしまって。そのことが原因の1つになり、3カ月後に別れてしまったんです。それ以来、会ったらすぐに病気のことを言うようにしています。

今の彼にも初めて会ったその日に感染していることを明かしていました。彼は、HIVに感染していると具合を悪そうにしているものだと思っていたようなんですが、明るく元気な僕の姿を実際に見て、「普通の人じゃん」と思ったらしいです(笑)。

以前に比べればHIV陽性者がネットで情報発信するようになりましたが、人前で話せる陽性者はまだ少ない。そういう人が増えないと、LGBTのようなウェーブは来ないでしょうね。

その流れの中で、例えば政治家や有名人で感染している人がいて、彼らが情報発信してくれればもっと状況は変わると思います。

早期検査、早期治療が大切

HIVの感染がわかった人は、少しでも早く治療を受けるよう勧められている。エイズ発症前にHIV感染を発見できれば、発症を予防できるだけでなく、余命を延し、HIV以外の病気にかかるリスクを下げられる。HIV治療には健康保険が使え、医療費は3割負担で済むほか、自己負担は限度額が設けられ、収入に応じた低い費用で治療が受けられる。さらに「免疫機能障害」として身体障害者手帳が発行されると、医療費の助成が受けられ、月額で0〜2万円で治療できる。ただ、この助成を得るためには一定の基準を満たす必要があり、認定までに1~2カ月かかる。HIVは感染がわかれば一刻も早い治療が望まれるので、この期間をなくすことが課題となっている。

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