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2020年10月17日 10時10分 JST | 更新 2020年10月17日 10時46分 JST

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』に心揺さぶられた人へ。原作翻訳者が伝えたい女性たちの物語10選

「韓国文学のいま」を、小説『82年生まれ、キム・ジヨン』を翻訳した斎藤真理子さんが伝えます。

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映画『82年生まれ、キム・ジヨン』

現在公開中の韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』。同名の原作小説は日本で大ベストセラーとなり、読んだ人も少なくないだろう。

 

映画、小説どちらかでも、両方でも『82年生まれ、キム・ジヨン』に触れ、女性の生き方や男女格差について考えさせられたという人は、ぜひ女性たちの物語を描いた韓国文学も読んで欲しい。          

 

今回、原作の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』を翻訳し、韓国文学に詳しい斎藤真理子さんに10冊の本を選んでもらった。

今を生きる女性たちの苦労や生き方をぜひ感じてみてほしい。

HuffPost Japan

 

韓国の女性作家たち

今、韓国の文学はフェミニズムの流れを自然に受け入れた女性作家たちの仕事がしっかり支えていると言って過言ではない。日本でも次から次へと秀作が刊行されるので、10冊選ぶのにたいへん苦労したが、さまざまなタイプの小説を中心として詩や体験エッセイまで幅広く集めてみた。ここに挙がっていないものにも面白い作品が多々あるし、今後も重要な作品がどんどん翻訳されていくので、チェックしてみてください。

 

『彼女の名前は』(チョ・ナムジュ、小山内園子・すんみ訳、筑摩書房

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『82年生まれ、キム・ジヨン』の作家チョ・ナムジュの新境地。多くの女性に直接取材して書いた28の物語を集めている。本書の中で語っている女性は9歳から69歳まで。セクハラとの戦い、新一年生ママの奮闘、半地下に住み生理ナプキンが買えない女子高生、不当解雇にストで対決する労働者、娘に代わって孫の育児を全面的に担当する老婦人と物語の内容は実に幅広い。シビアな現実が続々と浮き彫りにされるが、それを直視するクリアなまなざしは明日に直結している。『キム・ジヨン』によって女性が抱えた問題への社会の認識は広まった。でも、キム・ジヨンはあの本の中で声を上げない。「そこから半歩でも前に進むためにこの本を書いた」と著者は語っている。

 

『屋上で会いましょう』(チョン・セラン、すんみ訳、亜紀書房

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韓国で若い女性を中心に絶大な人気のあるチョン・セラン。日本ではより幅広い層に愛されているようだ。リアリズムとファンタジーを自在に行き来するこの短編集、一作ごとのオリジナリティが半端ではない。同じウェディングドレスを借りた44人の女性を描く「ウェディングドレス44」、先輩に教わった怪しげな呪文で結婚相手を探そうとしたら「滅亡の使徒」を召喚してしまった「屋上で会いましょう」など、想像力が思わぬところへ弾んでいき、深刻なテーマでも読む楽しさにあふれている。同じ著者の『保健室のアン・ウニョン先生』(斎藤真理子訳、亜紀書房)はNetflixでドラマが放映中。

 

『娘について』(キム・ヘジン、古川綾子訳、亜紀書房

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三十代半ばの娘が住む所を失い、同性の恋人を連れて実家に転がり込んできた。夫を亡くして以来、娘のために必死で働いてきた介護職の母は怒り、泣き、絶望する。マイノリティの尊厳を訴え不条理と戦う娘たちを認めるべきだと頭ではわかっているが、今の私にはそれができないという母の悩み苦しみ。一方、彼女の職場では、かつて人々のために懸命に働いた女性人権活動家が認知症になり、尊厳をふみにじられている……。ヘビーなテーマの合わせ技のような作品だが、個人の葛藤をとことん直球でつきつめたところに突破口がかいま見える。めったにない真摯さのかたまりのような読後感で、日本でも2018年の刊行以来静かに熱く読み継がれてきた。フェミニズム文学に続き韓国文学の新しい動力源となっている、「クィア文学」の代表作でもある。

 

『となりのヨンヒさん』(チョン・ソヨン、吉川凪訳、集英社

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韓国の女性作家のSFは、SFが苦手な人が読んでも面白い。時空間を飛び越えながらも「今、ここ」を生きる私たちの喜びや悲しみ、悩みや希望そのものが生き生きと描かれているからだ。チョン・ソヨンはその代表選手といえるだろう。短編集である本作も、隣室に住む異星人との交流を描く表題作も、SF的なしかけが何重にも張りめぐらされた「アリスとのティータイム」も、「私は誰かを慰めるものを書きたかった」という著者の言葉通り、ふわりと優しい安心感に支えられている。フェミニズムSF? ヒューマニズムSF? 何と呼んでもいいが、ここには確かに他では体験したことのない見晴らしの良さとあたたかさがあふれている。もちろん、「アリスとのティータイム」がジェイムズ・ティプトリー・ジュニアへのオマージュであることからもわかるように、コアなSFファンも大満足の一冊だ。

 

『ショウコの微笑』(チェ・ウニョン、牧野美加・横本麻矢・小林由紀訳、吉川凪監修、クオン

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デビューと同時に各種の文学賞を受賞した期待の作家チェ・ウニョン。人と人の出会いと別れを端正な文体で淡々と綴り、心の引き出しにとじこめていた思いをするすると取り出してしまうような短編集だ。表題作は日本人と韓国人の少女の交流と痛みを伴う成長を描いている。

個人の文脈の中できっちり社会を見つめる流儀が全編を通じて貫かれており、「シンチャオ、シンチャオ」「オンニ、私の小さな、スネオンニ」など韓国現代史を振り返る作品も多い。大学時代に学内でフェミニズムの雑誌を発行していたこともあって、性差別に対する鋭敏な感覚も重要な持ち味だ。同じ著者の『わたしに無害なひと』(古川綾子訳、亜紀書房)もお勧め。

 

 

『すべての、白いものたちの』(ハン・ガン、斎藤真理子訳、河出書房新社

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『菜食主義者』でマン・ブッカー国際賞を受賞し、世界での評価が定まったハン・ガンの代表作の一つ。生まれて間もなく死んでしまった姉の存在と、爆撃によって壊滅・再生したワルシャワの街とを重ねつつ、「白」をテーマにした散文詩のような断章を連ねていく。おくるみ・産着・塩・氷・月・米・白木蓮……それぞれは雪のひとひらのように小さいのに、そこから手繰りよせられるのは広大な世界そのもの、生命そのものだ。死者と生者、過去と現在、イメージと現実が交錯する世界を、白さの違う紙を集めた造本の美しさも含めて味わってほしい。

 

『海女たちーー愛を抱かずしてどうして海に入られようか』(ホ・ヨンソン、姜信子・趙倫子訳、新泉社

 

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韓国はとても詩が愛されている国だ。本書は済州島の海女たちの暮らしと闘いがテーマとなっており、厳しく優しい海の生命力と海女たちの誇り高い人生が溶け込んだ読み応えたっぷりの一冊。「わたしの体には水のうろこがある/わたしの体には消えた道がある/探してごらん ザリガニ岩のように縮こまったこの体を」。素晴らしい翻訳と行き届いた編集によって、1930年代から今に至るまでの女性たちの歴史の厚みをじっくりと味わうことができる。著者は日本の読者へのメッセージで、「みずからを弱い存在であると思いこんでいる人びとに限界を飛び越えてゆく彼女たちの勇気を手渡すことができるかもしれない」と語っている。

 

『第九の波』(チェ・ウンミ、橋本智保訳、書肆侃侃房

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これが初の長編とは思えないほど完成度の高いミステリー仕立ての作品。2012年に江原道のとある町で実際に起きた事件をもとにしたフィクション。原子力発電所の誘致を強行しようとする市長、石灰鉱山にまつわる謎の数々、カルト教団の暗躍、そして市長のリコール。ひたひたと押し寄せる不安と小さな町を引き裂く闇の中から、18年前の謎の事件が浮かび上がる。その町の出身者であり、めいめい心に大きな傷を負った3人の人物が真実に接近していく様子を緊密な構成と緻密な文体で描く。ぐいぐい読ませる社会派エンタメ小説であるとともに、哀切なラブストーリーでもある。「本作のきな臭い空気がいまの日本に重なる。深呼吸するためには、主人公のように自らもがかねばならない」とは作家の小山田浩子さんの言。

 

 

『滞空女 屋根の上のモダンガール』(パク・ソリョン、萩原恵美訳、三一書房

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韓国の労働運動には、「高空籠城」と呼ばれる闘争方法がある。煙突、鉄塔、クレーン車、高層ビルの屋上など高いところに立てこもって主張を訴えるのだ。この手法の生みの親とされるのが姜周龍(カン・ジュリョン)という女性。平壌の平元ゴム工場の労働者だった1931年に、小高い丘に立つ楼閣「乙密台」の屋根に登って「朝鮮のすべての労働する女性の団結の志」を叫んだ。本書はこの実在の人物の一生を基にしたフィクションで、緊張感ある強烈な文体で意志的な女性像を描く。姜周龍は逮捕され、1年後病気で保釈になるが間もなく亡くなっている。歴史へのリスペクトにあふれた小説で、何か並外れた存在に打ちのめされてみたい!という気分のときにぜひお勧め。

 

『女の答えはピッチにある』(キム・ホンビ、小山内園子訳、白水社

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サッカー愛が止まらず、自らアマチュア女子サッカーチームに入団した著者による「三ページに一回爆笑させられる」面白ノンフィクション。「ひたすらサッカーについて書かれていると同時に、サッカーを比喩にして女の丸ごとの体、丸ごとの人生、丸ごとの世界をつづっている」という作家チョン・セランの評に大きくうなずかされる。訳者解説によれば『キム・ジヨン』以後に広まったテーマの一つが「女の身体」であり、本書はその代表格だとか。スポーツの世界にはマンスプレイニングがつきものだが、それへの答えは「私のキックは、ゆっくり、優雅に、あんたたちの『コーチング』を越えるのさ!」だそうです(カッコイイ)。

 

(編集:榊原すずみ