拝啓、ロリエ様。生理の個性についてお伝えしたいことがあります

「kosei-fulプロジェクト」についてフェミニズムに興味があり、広告制作者の端くれでもある1人として、差し出がましくもコメントさせていただくことにしました。
kosei-fulプロジェクト特設サイトより

(文/笛美)

ロリエと私の出会い

ロリエと私の付き合いはもう15年以上になります。受験のために勉強漬けだった頃に初めて「ロリエエフ」を使い、驚くほどのさらさら感に感動しました。生理後半に肌がかぶれてヒリヒリするのもなくなりました。ロリエは生理の辛さを変えてくれた大切な存在。だから今回ハフポストさんから「kosei-fulプロジェクト」について書いてみないかというお話をいただいた時に、とても悩みました。でもフェミニズムに興味があり、広告制作者の端くれでもある1人として、差し出がましくもコメントさせていただくことにしました。

ロリエのキャンペーン 施策ごとに振り返り

私は今回の取り組みは、ロリエさんにとっては過去にない挑戦だったと思っていて、まずはそれを立ち上げてくださったことに感謝したいです。その上で、次回に向けて前向きな提案ができればと思っています。

今回のキャンペーンは大きく分けて3つの要素がありました。

1.社員さんのアンケート

2.メッセージ

3.天然石のモチーフ

1.社員さんのアンケート

雑誌『SPUR』の記事で、どのようにこの企画が立ち上がったのかを見ました。生理がタブー視されている日本で、生理の辛さをシェアしたり、他の人の生理を知って人にやさしくなれる場を作るのは、とても意義のある取り組みだと思いました。

ただ気になったのが「男性にはわからないけれど、女性同士ならわかり合える」男性に訴えかける前に女性同士の相互理解が必要だし、社会に訴えかける前に自分たちの足もとである社内でお互いの生理の個性の違いをわかり合うプロセスが必要」「私たちが変わらずに、社会は変えられない」というコメントです。

なんて真面目で謙虚な人たちなんだろうと思いました。生理でも家事でも不妊治療でも育児でも介護でも、男性は分かってくれない中で、誰にも迷惑をかけないよう女性はがんばってきた。そのがんばりはたしかに素晴らしいと思います。でも、いつまで男性社会は女性のがんばりに頼り続けるのだろう?もうみんなギリギリ限界ですよね?私なら「女性はもう十分にがんばってきた。次は男性も含めて社会全体ががんばる番だ」と主張してしまうと思います(打ち合わせを白けさせるのも想像できますが)。

花王は女性管理職の割合が2割強と、国が目標にする3割に近い数値です。女性が働きやすい会社という評判も聞いています。でもそんな先進的な企業であっても、女性が自らの生き辛さに声を上げるのは気が引けてしまうのでしょうか。日本社会における女性の立場について考えさせられてしまいました。

そして私は、“男性のわからない加減”、わりと深刻だなと思っています。「生理=射精」だと思っている人、生理中の女性は感情的だとバカにする人、アイドルの生理を予想して興奮している人、セックスがきっかけで生理が来ると思っている人、生理用品をアダルトグッズだと勘違いしている人…この女性の体を理解せず「オカズ」や「ネタ」にする姿勢は、女性の登用だったり、少子化の原因にもなっている気がするんですよ。生理の話をオープンにしたくない方もいらっしゃるとアンケートで拝見しました。生理に無理解な社会状況で、自分の生理をいたずらにさらけ出すとかえって傷つくことが目に見えていることも、その理由かもしれません。



2.メッセージ

次に「生理を”個性”ととらえれば、私たちはもっと生きやすくなる」というメッセージについて。

kosei-fulプロジェクト特設サイトに掲載されていた花王社員のアンケートでも、生理については「きつい」「辛い」「大嫌い」などのネガティブなワードが多く並んでいます。生理の良いところを探すこともできるけど、ぶっちゃけ「生理はしんどい」のが女性の本音なのかなと感じます。それを「個性」というキラキラしたワードで表現したくなる気持ちはとてもわかるんです。私も広告制作側の人間として、ついついコピーで解決したいとか、コピーで前向きな気づきを与えるべきだと思ってしまうことがあります。

過去にも「女だから減点される」現実を訴えながら「わたしは私」と締め括ってしまったある企業の広告がありました。でも女性が負けるようにできている社会で、自分で負けずにがんばれと言うのは無理ゲーではないでしょうか。

女性差別をこじらせた2020年の日本では、生理にまつわる問題をひとことで解決するのは、そんなに簡単ではないことなのかもしれません。もしかしたら気づきを与えられるのは企業側ではなく、お客様が企業に気づきをもたらすことの方が多いかもしれません。だったらコピーも「私が生理に言いたいこと」とか、お客様からの発信を促すような方向性もあったのではないでしょうか(本当に部外者が好き勝手すいません)。

また、動画では別の場所にいる女性たちがカットが切り替わる形で登場していたのですが、「PMSが辛いんだ」「分かる!私もなんだよね。」など意見の交換シーンがあれば、女性が理解し合うシスターフッド的な部分が見えてきて良かったかもしれないです。

3.天然石のモチーフ

店頭で映えることや、キャンペーンとしてリッチな見た目であることは、とても大切なことだと思います。きれいなこと自体は何も悪くないのですが、何をきれいにするべきなのか、それを考えてしまいました。例えば通常のロリエのパッケージは、肌へのやさしさや、快適な時間をデザインで表現していると受け取りました。それがキラキラでも自然なのは、そのキラキラが商品特性を表現しているからです。

でも生理という傷や弱さなど、ネガティブな存在をキラキラに包むことは、かえって生理をタブー化させているように見えてしまったのかもしれないです。例えばキラキラを作るにしても、生理についてお互いを理解し支え合うシスターフッドや、生理の話をシェアしようという姿勢をデザインの出発点にする方向性もあったのではないかと思いました。

私たちは生理用品ブランドにすごく期待している。

今回のキャンペーンに多くの意見が続出したのは、なんだかんだ女性が生理用品ブランドにめちゃくちゃ大きな期待を寄せているからなのではないでしょうか。少なくとも私はそうなんです。

誰も受け止めてくれなかった、生理についての暗い側面を受け止めてほしい。

社会が生理について持っているタブーを、私たちと一緒に変えていってほしい。

男性社会の生理に対する気が遠くなるような無理解に、一緒に働きかけてほしい。

キラキラできないときの自分を、無理に輝かせようとせず肯定してほしい。

海外では生理を青い液に例えたりせず、赤い血をリアルに描いたCMの“Blood Normal”が話題になりました。生理をタブー視しない海外のキャンペーンを見ては「日本でもこんなキャンペーンをしてくれる企業があったら」と期待する。それが実現不可能な夢だということを実感するたびに愕然とする。私はどんどん歳を取るし、女の子はどんどん大人になる。若い女性には自分と同じような苦労をしてほしくないのに、自分が踏み出せる一歩はあまりにも小さくてもどかしい。それが2020年夏の私の気持ちです。

花王のマネジメントの方にお願いしたいのは、この一件で担当者を責めたり代えたりしないでほしいということです。もし今回のキャンペーンが炎上したとしたら、それは担当者や広告会社だけの責任ではなく、声をあげた女性が気にしすぎなのでもなく、この社会に根強く残る女性蔑視が原因です。ロリエの制作チームのみなさんには、女性だけが頑張らなきゃいけないという責任感から自由になって、自分の本音を大切にし、安心して本音で話せる環境を作ってほしいです。

「生理の話をする」という取り組み自体を諦めないでください。花王社員のアンケートやTwitterに投稿されたCMへのコメントを見て思ったのですが、みんな本当は生理について関心があるのだと思います。日本を代表する企業である花王が先陣を切っていただけると、それは私にとっても多くの女性にとっても希望になります。

冒頭、私の生理のしんどさを変えてくれたのはロリエエフだったと書きました。なぜロリエエフはあんなにサラサラのナプキンが作れたのか?それは花王が女性の肌のカブれを無視せず、解決しようと本気で取り組んだからだと思います。生理や女性にまつわる社会の問題をなかったことにせず、解決すること。花王ならきっとできると確信しています。

大変長くなってしまいましたが、ご検討何卒よろしくお願いいたします。

【編集部より】

「kosei-fulプロジェクト」に関するハフポスト日本版の取材に対し、花王株式会社 広報部は「『生理』は、個人差がとても大きいもので、人により症状も捉え方も様々です。また、女性同士でも話題にのぼることは少なく、生理時の悩みやストレスを自分ひとりで抱え込みがちです。生理をめぐる課題の解決には様々なアプローチが考えられますが、まずは女性同士がお互いの生理の違いや多様性を理解し、受け入れ合うきっかけをつくることが、心身ともに生活しやすい社会への一歩となると考えました。そこで、生理の症状や捉え方が一人ひとり違うということを“生理の個性”という言葉で表現し、広告やWEBコンテンツを制作いたしました」と制作意図を説明。

SNS上で、さまざまな議論を読んだことに関して「真摯に受け止めております。皆さまからいただいた厳しいお声を含む多くの貴重なご意見を、生理に対する社会全体の理解促進に向けた今後の活動に活かしてまいりたいと考えています」と答えた。

(編集:榊原すずみ

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