新型コロナでも“はずれくじ”。ロスジェネが“人生を取り戻す”ためにできることとは?

非正規雇用に“ネット難民”...。パンデミックのもとで苦境に追いやられているのは、またもロスジェネ世代だ。
作家で活動家の雨宮処凛さん
作家で活動家の雨宮処凛さん
撮影:武田裕介

人生は、やり直せるものなのだろうか? 年齢は巻き戻せるわけでもないのにーー。

氷河期世代、ロスジェネを思う時、いつもこの言葉が浮かんでくる。

新型コロナウイルスの影響で、社員は認められるテレワークが非正規雇用の人は認められなかったり、ネットカフェの営業自粛要請でいわゆる“ネット難民”が行き場を失ったり……。

そんな暗いニュースが世間を賑わせているが、非正規雇用の人たちもネット難民も、少なくない数が“ロスジェネ世代”だと言われている。

どうしてこれほどまでにロスジェネ世代は、苦境に追いやられるのかーー。

「失われた世代」「就職氷河期世代」「貧乏くじ世代」「非正規第一世代」「自己責任呪縛世代」……、などさまざまな呼ばれ方をしているロスジェネ。

彼らをめぐり4人の専門家と語り合った『ロスジェネのすべて 格差、貧困、「戦争論」』を上梓した作家で、活動家の雨宮処凛さんに話を聞いた。

ロスジェネの約400万人が現在でも非正規、フリーター、無職

――雨宮さんは「氷河期世代」ではなく、「ロスジェネ世代」という言葉を使いますよね?そこには、どんな意味を込めているんですか?

就職氷河期を入り口にして、正規雇用や安定した収入、結婚・出産、子育ての機会を奪われた、失った=ロストですよね。氷河期をきっかけに、人生のさまざまなものが奪われたという意味を込めて、私は氷河期よりも、ロスジェネを使うことが多いです。

――長らくロスジェネというテーマを追いかけている理由は?

私は1975年生まれ。ロストジェネレーションの中でも上の方の世代です。本にも書きましたが、美大受験を諦めて、世の中に出た時には頑張っても報われないどころか、就職すらできない世の中になっていました。その結果、19歳から25歳までフリーターをしていた経験があります。バイトは何度もクビになり、「自分はいらない人間なのだ」と手首を切り、薬を大量に飲むなんてしたことも……。

私は団塊ジュニアでもあります。中高生のころから、第3次ベビーブームの担い手として「少子高齢化が進んでいるけれど、あなたたちはボリュームゾーン(人口が多い)だから、この層が出産すれば、日本の少子高齢化は解決する」というような期待をされているのを感じていました。

でも、バブルが崩壊し、経済的な停滞がはじまって20年以上経ち、私自身45歳になって、自分の周りの同世代を見てみると、高校、大学を卒業してから、ずっと経済的に不安定、ひいては人生そのものが不安定な人たちがすごく多い。1700万人のロスジェネのうち約400万人が現在でも非正規、フリーター、無職なのですが、そんな状況ではなかなか、安心して結婚も出産もできません。

30代、40代になっても正規の雇用につけず、結婚・出産をしていない人がこれだけ多い世代というのは戦後日本ではこれまで存在しなかった。

だから2019年になって政府は、「人生再設計第一世代」と私たちを名付け、「大変だから、支援しなくちゃいけないね」となった。でも正直、40代になってからそんなことを言われても、もう手遅れだし、「え?今更ですか?」と強く思いましたよね。

支援のひとつとして兵庫県の宝塚市で、氷河期世代限定で人事採用が行われたわけですが、3人の採用枠に1800人も応募が殺到しました。結局4人が採用されましたが、月収20万円代の仕事に北海道から沖縄まで、1800人が応募をするくらい、ロスジェネの人たちにとっては、この機会がラストチャンスに思えたというわけです。

――やはりそこは「正規雇用である」ということがポイントなわけですよね?

そうですね。それほど高収入でなくても、クビにならない、毎月安定したお給料がもらえる……。それを求めて応募者が殺到するなんて、どれだけ大変な思いをしてきた人が多いのか。でもそれがリアル。

しかも、同じロスジェネ世代の中でも、1700万人のロスジェネのうち約400万人が非正規やフリーターということは、正規雇用の人たちの方が多いわけです。マンションを買い、子供が2人くらいいて、共稼ぎで世帯年収も高い「勝ち組ロスジェネ」の人たちから見れば、同世代で今も非正規という人たちは、すごく甘えているように見えてしまうんですよね。だから時に同世代からも非難されたりする。

けれど、そうではなくて「構造の問題」と知ってほしい。非正規雇用の人が悪いんじゃないって。

そして親世代は親世代で、「隣の○○さんや同級生の△△ちゃんはきちんと正社員で働いているじゃないか。結婚もして、二世帯住宅も建てている」と言ったりするんですよ。まわりと比較されるキツさもあるんです、ロスジェネには。

そんないろいろな事情があって、私はずっと、このロスジェネ問題にこだわってきました。

「夢」という言葉で社会に搾取されていた

撮影:武田裕介

――私自身もロスジェネなので、政府がいろいろと言っているけれど、「じゃあ、本当にやり直せるの?私たち?」という話を友人たちとよくするんですよ。

で、その結果、どういう結論になるんですか?

――「いや、やり直せないよね。どこで折り合いをつけていくか」という話になりますね。ある人は、これまでずっと非正規で、あまりにお金がなくて国民年金を払えていない時期がある。だから同年代の正規雇用で働いていた人と同じくらい年金をもらえるというのなら、やり直せないけれど、なんとなく折り合いがついたって感じるかもしれないと言っていました。

その年金の話、いいですね。ロスジェネ補償金みたいなもの、欲しいですものね。あなたたちは、ひどい目に遭いましたね、って。人生において20代、30代はライフイベントもたくさんあり、大体の人はその時期に就職したり仕事を覚えたり結婚したり出産したりローンを組んで家を買ったりする。でも、それをすべてできなかった40代が今、多くいる。

――自分が女性だからでしょうか、本のなかで関西学院大学社会学部准教授の貴戸理恵さんとの妊娠、出産のお話、とても興味深かったです。

政府の中でも雇用の話は出てくるけれど、出産の話はなかなか出てきませんからね。

ロスジェネ女性の出産については10年くらい前から、実はよく聞いていたんです。自分たちの出産のタイムリミットについてですね。でも、とてもデリケートな問題だから、本や記事に出すのが難しい部分もあって。不用意に話を出すと傷つく人がいるというので、触れてこなかったんですけれど。

今回、貴戸さんの知人の話で出てきていますが、ロスジェネ女性で20代の頃、中絶という選択を選んだ人も多くいるわけです。私の周りでも、妊娠したけれどフリーター同士のカップルで、とても子どもを育てるなんてできないと中絶をした人がいます。そういう人たちがその後、安定雇用を得て、20年たった今不妊治療をしているという話も出ましたが、なかなか授かれないこともある。

「少子化」とこれほど騒ぐなら、なぜ、ロスジェネが20代だった頃、安定雇用につけるような支援がなかったのか。なぜ、フリーター同士のカップルが妊娠したりするとバッシングするような空気があれほどあったのか、いろんなことが納得いきません。

一一あの時代、「やりたいことを実現するためにフリーター」「あなたらしく働くために派遣」というような働き方を推奨する、まるでそれが自由の象徴のような風潮を社会的に煽っていた部分もあると思うんです。「たしかに今は不景気で、やりたいことはできないけれど、そういう夢の実現の仕方があるんだ」と希望を持たされてしまったという印象が個人的にはあるのですが。

すごく、ありましたね。やりたいことを実現するための選択肢が増えることはいいことだと思うんですけど、「やりたいことは別にあるんだ」と思うことで、今の自分のフリーター生活を肯定するような部分はあったと思いますね。社会もそれを利用していたわけでしょう? 「いまは仮の姿だから、権利主張はしないでね」とうまく使われてしまったなという気はします。「夢」という言葉で搾取されていたというか。

今思うと、どこかに正規雇用されて普通に働いていたら、そんな自分探しなんてしなくていいのに、一生懸命に自分探しをして、傷ついたり、彷徨ったりした世代ですよね、ロスジェネは。

資格地獄に陥っている人もいました。とにかく非正規から抜け出すため、履歴書に書ける資格をとろうって。

私の弟もロスジェネで、就職氷河期だったのでフリーターになり、ブラック企業に入って、そこから税理士の資格を10年くらいかけてとったんですね。弟の場合、資格をとれたからよかったけれど、とれた人の後ろにはたくさんのとれなかった人たちの存在があるわけです。ロスジェネの中には、ものすごく時間と資金と労力をつかって、今でも資格を目指している人がいると思います。

――そこまでに費やしたお金や労力が、仮に40代をすぎて実ったとして、どれくらい戻ってくるのかと考えると……。

取り戻すのは難しいですよね。そして結局、資格を取れなかったら、自分で選んだのだから自己責任だろうと言われてしまうんですよね。ロスジェネの人は、そういうのを繰り返してきている。

現実問題としてロスジェネ全員を正規化するのは難しい

撮影:武田裕介

――年を重ねるごとに、ロスジェネが人生をやり直す、取り戻すのは、どんどん難しくなっていくのが現実です。これから私たちはどうなっていくんでしょう。

35〜45歳で親と同居している未婚のロスジェネは300万人います。実家を出られないのはかなりの部分が低賃金ゆえだと思うのですが、今後、この層は「親の介護問題」に直面するでしょう。

仮に実家を出ていたとしても、ロスジェネ非正規は介護要員として呼び戻される確率が高い。私は実家が北海道なんですが、親に何かあった場合、地元に呼び戻される確率が一番高いのは「非正規の単身女性」だと思います。

順番としては、①非正規独身女性、②非正規独身男性。私には弟が二人いますが、二人とも仕事と家庭があり、子どもも小さいので、そうなると介護要員にはカウントされない。

でも、介護で仕事をやめてはいけないというのは鉄則ですね。やめてしまったら、親の年金で食べていくしかなくなり、親が死んだらアウト、となりますから。

今のところ、ロスジェネが使える制度は、困窮した時の生活保護くらいしかないですが、親の介護に使える制度は多くありますから、知っておくことが大切です。

――政府は400万人いる、ロスジェネの非正規雇用の人のうち30万人の正社員化を3年で実現すると言っていますが。

30万人は少ないですよね。あと370万人はどうするんだって話になりますからね。

でも、現実問題として全員を正規化するのは難しいので、非正規でも自立した生活を送れて、実家を出られる、望んだら結婚、子育てできるような仕組みが必要です。そのためには最低賃金の大幅引き上げや教育費の自己負担を減らすことなどが重要ですが、なかなか実現にはほど遠い。

そしてロスジェネに限らずですけど、家賃問題が一番大きいんです。神奈川県がロスジェネ世代も公営住宅を入居できるよう、入居条件を緩和すると発表しました。これは、すごくいい政策だと思いました。

貧困問題で最も重要なのが住宅です。家さえあれば、ホームレスにならず、失業しても仕事が見つかりやすい。また、家賃がなくなるとか、半分になれば、例えば10万円しか収入がなくても、使えるお金が増える。それだけで全然違うと思います。家賃がない、家賃が補助される制度ができればロスジェネの生活はだいぶ楽になるのではないでしょうか。

――若い世代はどこか諦めているような部分を感じるんですけど、私たちの世代はどうも諦められないというか、奇跡的に何か起きるんじゃないかと思ってしまっている気がするんですよね。

ロスジェネより下の世代は、「生まれた時から右肩下がり」の日本を生きていますよね。そんな下の世代に「ロスジェネの人たちは、どうして怒っているんですか? 自分たちは日本のいい時をそもそも知らないから、怒りもわいてこない」と言われたことがあります。私はまだ、少し上のバブル世代を見ていたので、怒りがある。彼らが企業から大歓迎されて社会に出ていった光景を知っているので、自分たちの番になって突然はしごを外されたことに対する理不尽な思いがある。でも、若い世代はそういう経験もないので剥奪感もなかったりする。

40歳のひとは65歳まであと25年も時間がある

撮影:武田裕介

――今回この『ロスジェネのすべて 格差 貧困、「戦争論」』を読んで、ロスジェネ対策として、雇用だけではなく、新しい制度など具体的なものを作ってほしいなと改めて感じました。

ロスジェネ自ら要求することが大事ですよね。さきほど話に出た「年金」はすごく大事な要求ですね。そういうことを具体的に、「月にいくらだったら私たちは生活できる」と訴えていくことも重要だと思います。

また、老後はシェアハウスで生き延びたいと考えるロスジェネは多いですが、家賃がいくらで、食費は、光熱費は……と具体的な額を出して、そこにこれくらいの支援がほしいと要求することもできますよね。

いま40歳のひとは65歳まであと25年も時間があるので、25年訴え続ければ、獲得できる可能性はゼロじゃない。

――25年も時間がある! なるほど。

なぜ65歳かというと、今のところ、65歳になると生活保護を受けやすくなるという実態があるからです。だから、いかに65歳まで生き延びるかがひとつの目標ですね。

でも、ロスジェネが65歳になる頃には、生活保護利用者が増えることを見越して、生活保護を受けるための条件が厳しくなっているかもしれない。実際、第二次安倍政権以降、生活保護費の引き下げが続いています。私はそれに反対の声を上げているのですが、それはロスジェネ対策のためでもあるんです。自分たちが少しでも安心して老後を迎えられるような制度を、守っていくことが重要だと思うので。

なので、ロスジェネ同士で要求をすり合わせて、1テーマでもいいから、たとえば、非正規で国民年金を払えない時期があっても「年金20万」くらいもらえるようにしてほしいと訴えるとかも有効ですね。あるいは、ロスジェネが一斉に生活保護をうけたときにかかるお金を試算して、政府に現実をつきつけて、「だからこそ、今もっと有効な支援を」と訴えるとか。

今、「勝ち組ロスジェネ」でも、コロナ禍の中、本当にこの先どうなるかわかりません。生き延びるために、ロスジェネの声を政治に突きつけていくことが大事だと思います。それは必ず、下の世代を助けることにもつながると思います。

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『ロスジェネのすべて―格差、貧困、「戦争論」』

雨宮処凛著

対談相手:倉橋耕平、 貴戸理恵, 木下光生, 松本哉 あけび書房刊 1,600円+税

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