妊婦なのに優先席に座れない。私がマタニティマークを隠したくなった理由

本当は頼りたい、頼っても大丈夫、とわかっているのに…。私の頭の中ではこんな葛藤がありました。
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これだけ情報が溢れている時代でも、経験してみなければわからないことはたくさんあります。妊娠もそのひとつ。身体の変化、メンタルの変化。妊娠・出産にそこまで関心がなく、子どもをあやした経験もない30代後半の私が思いがけずに子どもを授かって見えたこと、体験したことをまとめてみました。

今回は、「人に頼ることのハードルの高さ」について、自分の経験をもとにお伝えします。実は私、おなかが目立ってくる妊娠中期まで、電車に乗る時にマタニティマークをあえて隠してしまっていた時がありました。電車の中で嫌がらせとかを受けるから「つけられない」人がいるという話は聞いたことがあったし、社会側の問題で、女性が身を守るために自粛しているという側面もあると思います。それに加えて私は、本当は頼りたい、頼っても大丈夫、とわかっているのに、頼れないジレンマもありました。。そのとき私の頭の中ではこんな葛藤が……。

電車の中でマタニティマークを隠してしまう私

無償配布される「マタニティマーク」。
時事通信社
無償配布される「マタニティマーク」。

子どもが出来ると、「妊娠届」を出す必要があります。私の住む自治体の場合は区役所で、自治体によっては病院で届けを出すことができます。この時に初めて、母子手帳やマタニティマーク、妊婦健診の補助券など行政から受けられる支援一式や、かなりの量の資料やパンフレットをもらいます。

私が「妊娠届」を出したのは、まだ赤ちゃんの大きさは数グラム〜十数グラムの頃。体調の変化はあるものの体型の変化はまだなく、妊娠の自覚も持てない時期です。当時の私は、妊娠初期の流産率が最も高い時期を乗り越えることに必死で、マタニティマークをもらうことで少しホッとしたのを覚えています。

で、嬉しいような恥ずかしいような気分でバッグにマタニティマークを付けたのですが、そこから新たな葛藤が始まりました。「見ず知らずの人に頼って良いのか」という葛藤です。以来、しばらくの間、電車に乗る時にわざわざマタニティマークをしまうようになってしまったのです。

頼ることに慣れていない人は多いんじゃないか

この話をすると、「なんで! 堂々とマタニティマークを見せればいいじゃない!」という方もいらっしゃいます。でも、そう一筋縄ではいきません。なぜ、マタニティマークをしまうようになったか。当時の私の頭の中を箇条書きにします。

・マークを付けているということは、支援が必要という意思表示である。

・でも、幸い私はつわりもほとんどなく、そこまで深刻な体調不良はない。

・そんな私が人に助けを求めて良いのか。

・自分よりも具合が悪い人、支援を求めている人はたくさんいるはず。

・でも声を出せずに頑張っている人を、私のマタニティマークを見て立たせてしまうことになるんじゃないか。

・そもそも、電車の中でどこに立ったら良いんだろう。一般の席? 優先席?

・一般の席の前でマタニティマークを付けて立っていたら、座っている人は「妊婦なら優先席に行けよ」と思うかもしれない。それで嫌がらせをうけたらどうしよう。

・でも、優先席の前に行ったら、ご高齢の方や怪我をしている人に気を使わせてしまうかもしれない。

・どう行動していいかわからない……。

・ダメだ、隠そう。

という具合です(苦笑)

頭では、自分が人の命を預かる特殊な期間を過ごしていて、自覚がなくても身体に負荷がかかっているので、遠慮なく支援を求めていい、というのはわかっているんです。でも、「その支援は本当に必要なのか」「人の迷惑にならないか」「もう少し頑張ったほうがいいんじゃないか」「自分のことは自分でどうにかしなきゃ」という思いがよぎってしまいました。

「一人でやって一人前」の呪縛

これは、マタニティマークに限った話ではないと思います。たとえば、日本では依然としてシッターさんや家事代行の利用が進みません。調べてみたところ、2017年4月に株式会社キッズラインさんが行った調査によると、ベビーシッターの利用率はわずか4.7%、2019年1月にリンナイ株式会社さんが行った調査によると、「定期的に利用」している人は7.0%となっていました。

アンケート調査は、調査母数や対象が違うので一概には言えませんが、2つの数字を比較するに、おそらくこのくらいの数字が日本の実態と言って良さそうです。シッターさんの利用が進まない理由としては価格の問題ももちろんあると思いますが、ネットの声を見ていると、「自分の子供を人に預けられない」「育児は母親がやって当然」などの意見が多そうです。

海外に住んでいた経験のある知人・友人の話を聞くと、もちろん地域にもよりますが、「妊娠・出産・育児は、人に頼って当然。必要なサービスは使って当然」という意見をよく聞きます。しかし、日本においてはまだ「人に頼る」が難しい。それは、自分の中に「自分のことは自分でなんとかしなくてはならない」という思いがあるからなのではないかと思います。

もちろん、すべての妊婦さんが同様の葛藤を抱いているわけではないでしょう。性格によるところが大きいと思います。とはいえ、現在の日本の女性は決して人に頼るのが得意とはいえない方は少なくないと思います。世の中の風潮としても、性別に関わらず見知らぬ人に助けを求めることがしにくい空気があるのは事実ではないでしょうか。

誰に何を委ねるかは自分次第

とはいえ、だんだんとおなかも大きくなってきますし、さすがにもう無理が効かなくなってきて、子供の安全も考えて普段から見えやすいところにマタニティマークを付けるようになりました。普通席でも、優先席でも、席を譲っていただけたらありがたく座り、席がないときは運動だと思って立っています。そこからちょっとした会話が生まれたり、心が暖かくなったり、人のやさしさは本当にありがたいものだと思います。

最近は、家事代行サービスも使い始めました。今までそういったサービスを使ったことがなかったのですが、私は一人会社の経営者ですし、出産後は早々に現場に復帰する予定です。その時のためにどんなものか試してみたのですが、これが非常に快適です。これまでは「同居する家族がいるならともかく、女性の一人暮らしで家事代行なんて!」と思っていましたが、ニーズは人それぞれ。別に気にしなくていいんです。もっと早くお世話になればよかったと思いました。

何が必要で何が必要ではないかは人それぞれ。感じ方も事情も人それぞれ。自分がほしいと思う支援は、「席を譲る」のようなものでも、「サービスを活用する」のようなものでも、何の気兼ねもなく、ありがたく受ければいいんです。フランスで子育てをしたある女性が「日本人は人の目を気にしすぎ」とおっしゃっていましたが、本当にそのとおりだと思います。自分は自分。

私は過去の離婚経験から、『人は、自分がしあわせじゃないと、誰かをしあわせにすることは出来ない』と思っています。大切な誰かをしあわせにするためにも、人目を気にしないで、自分にやさしくすることも大切だと思う今日このごろです。

(編集:榊原すずみ