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2020年06月04日 08時09分 JST | 更新 2020年06月04日 14時38分 JST

「女性は感情的」は思い込み?「ピルで女性の働き方改革」について考える

堀江氏は「女性の社会進出の手助けになれば」と話しているが、本当に女性の働き方を改革したいと考えているのであれば、他に優先すべきことがあるのではないか。

Ponomariova_Maria via Getty Images
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なぜ、「ピルで女性の働き方改革」に違和感を抱くのか

5月22日、堀江貴文氏の書籍『東京改造計画』の目次が公開になった。その中に「低用量ピルで女性の働き方改革」という項目があり、物議を醸した。わたしもこの項目を一目見て、なんとも言えない不快さを感じたのだが、一体、何がこのような印象につながったのか、書いてみることにする。

 

この「低用量ピルで女性の働き方改革」という項目に対してはすでに、いくつかのタイプの批判が行われている。

 

・低用量ピルを飲むか飲まないかは個人の自由で強制されるものではない

・薬を用いて女性を働かせようとすることのおぞましさ

・副作用もある薬を飲ませるなんて  etc.

 

これらの批判に対して、確かにわたしもその通りだと賛同できるものもあれば、最後の副作用の問題に関しては、そのまま同意できない部分もある。

なぜなら日本は低用量ピルに関して、理解や普及が世界の他国に比べて圧倒的に遅れていると思うからだ。堀江氏もYouTubeにあげた説明動画で述べているが、日本ではピルについて血栓症のリスクや、頭痛・吐き気などの副作用があるなどのイメージだけが先行しているにとどまらず、ピルを飲んでいる女性は「淫らだ」などというレッテルが貼られることすらある。

(もしこのようなイメージを持たれている方がいらっしゃいましたら、素晴らしい性教育の本『からだと性の教科書』をおすすめします。ピルに関する正しい知識はもちろん、月経の仕組みや、多様な避妊法、性病の知識などが得られます。)

しかし、どんな薬だってリスクがゼロであることはありえないことを理解したうえで、服用するかどうかは自己決定するべきものである。そして、どちらの選択をしたとしても、その人を貶めることがあってはならない。

実際、低用量ピルには、高い確率で避妊できる「主作用」のほかに、PMS(生理前症候群)の軽減や、月経痛の軽減、卵巣癌や子宮内膜癌等のリスクの軽減、吹出物などの肌荒れの抑制などの良い作用が期待できるのも事実だ。生理の周期を女性自らがコントールすることができるため、体に合う方は、うまく取り入れることで生活しやすくなる側面が確実にある。

低用量ピルの世界での平均使用率は19.2%で、ヨーロッパでは40%と高いのに対して、日本では1.1%にすぎない(Japan Health Policy NOWの女性の健康国際比較より)。日本での避妊の現実は、日本家族計画協会の2016年の調査によると、82%が男性用コンドーム、避妊効果はほぼ見込めない腟外射精が19.5%という恐ろしい現状がある。

このような状況に鑑みて、低用量ピルは女性主体で避妊をする選択肢を増やすためにも、もっと議論された方がいいと私は思っている。副作用があるから、何がなんでもダメだという主張には同意できない。(以下のようなキャンペーンが今も行われていて、現時点で約2万6000人が賛同している。日本でも女性が使えるより確実な避妊法を承認してください-なんでないの?)。

 

「男性は感情的な生き物」は成立するか

実際、堀江氏は提言について説明する動画の中で副作用にばかりとらわれてはいけないと述べていて、その部分に関しては基本的に同意できる。

しかし、である。その動画の導入部で堀江氏は、なぜこのような提言をいれたのか、その理由として、「男性だから、生理のつらさも身を以て体験できないが」と前置きした上で、「昨日までにこやかに接していた女性に突然ブチ切れられる」ことが何度となくあったと述べている。堀江氏は、PMS(生理前症候群)というものがあることを知った上で、「生理のせいで気持ちが不安定だったために女性にブチ切れられた」と認識しているのかもしれない。おそらく、わたしが堀江氏の目次の項目を見て不快感を覚えたのは、こうした彼の中にある女性へのまなざしによるものなのだと思う。

こうした彼の思考の根っこには「女性は感情的な生き物だ」という考えがあるのではないだろうか。ほとんど根拠のない、こうしたステレオタイプの発言をする人が、いまだに後を絶たない。こんな場面では、ミラーリングという逆の発想を取ってみるのがわかりやすい。

昨日までにこやかだった「男性」が、今日急に「ブチ切れる」ことがないのかと考えてみるのだ。そんなことは当然あるし、電車内で突如「カッとなって」暴力を振るう男性を実際に何度も見てきた。また、性欲や支配欲を抑えられずに職場で女性にセクハラをするのもほぼ男性である。タイムリーなことに、この本の担当編集者である箕輪厚介氏も、ライターに対するセクハラ行為を週刊文春に報じられたばかりだ。なんと自分の感情や欲望に振り回されていることか。

しかし、わたしは「男性は感情的な生き物である」とは結論づけないし、「男性は職場でセクハラをしがちなので、薬でホルモンバランスを調整したらどうか」とも思わない。感情的な女性もいるし、感情的な男性もいる。それは、ただの個人差だ。だからこそ、あの堀江氏の提言は非常に暴力的だと言える。

 

もし、目次の項目が「低用量ピルの普及の促進」だけだったのであれば大賛成であるし、堀江氏の知名度を通じてピルの普及が進むことも喜ばしいことだ。

でもそれを、女性の働き方改革と結び付けられては、余計なお世話だと言わざるを得ない。堀江氏は動画の中で、「(生理のせいで)これまで頑張れなかった」「やりたい仕事があったが、休まざるを得なかった」女性のために、この提言を入れ、「女性の社会進出の手助けになれば」と話しているが、本当に女性の働き方を改革したいと考えているのであれば、他に優先すべきことがあるはずだ。

女性の離職原因のNo.1は、「第一子出産のため」というデータもある通り、育休や産休を取りづらい現実があり、いつか結婚・出産・子育て・介護のために離職する可能性があるということから、重要な役職を任されず「やりたい仕事」ができない女性は多くいる。セクハラが原因で仕事に支障をきたす被害女性が多いのも事実だ。

 

女性が働きづらいのは、これまで構築されてきた社会制度や組織風土が問題だからだ。ジェンダーギャップ指数121位の日本では、企業のトップのほとんどは男性が占めている。だとするならば、どんな女性であっても働きやすい社会を実現するために必要なのは、女性の生理現象に問題があるかのごとく提案される低用量ピルではなく、男性が主体になって働くことを前提にした社会の仕組みのほうではないだろうか。

 

(編集:榊原すずみ