「生活費、少なっ!」と驚かれるバンライフ。人生で2度絶望した私の金銭感覚とは?

お金でどん底に落ちた経験がトラウマなのか、このテーマと向き合ったとき、脳が記憶をシャットダウンしようとする。でも、ディープなことも腹をくくりながら書こうと思う。
菅原恵利さん・菅原拓也さん
筆者提供
菅原恵利さん・菅原拓也さん

子なし夫婦、2人暮らし。共働き。家は持たず、借りず、車で暮らすバンライフを送っている。

現実的な話、そんな家庭の出費は月々どれくらいのものだろうか?

いつもハフポストで原稿を書くとき、「次回のテーマはどうしましょうか?」と編集者の榊原さんがメッセージをくれる。基本的に、榊原さんが提案してくれることが多くて、二つ返事で「ぜひ!」と返信。iPadに向かって、テーマに沿った話を書きはじめる。

で、今回もらったテーマはなにかと言うと、「バンライフって、いくらくらいかかるの?」いう質問と、榊原さんに話したことのある、「家族とのトラブルが原因でホームレスになった過去を踏まえて、お金に対する考え方を書いてみるのはどうですか?」だった。なんともカオスなテーマに「ぜひ!」と言ってしまった。

というわけで、今回はそんな話をしたいと思う。

周りの友だちに驚かれる、生活費の少なさ

ぶっちゃけて言うと、私たち夫婦の生活費は月々だいたい15〜18万円ほど。

これは2人合わせての金額だ。貯金や多少の贅沢ができるくらい。

夫婦2人ともリモートワークで勤めている会社が一緒、食事やお風呂などの日常生活のリズムも一緒。だから財布も一緒にしちゃった方が楽だね、と結婚したときに話し合って決めた。

少し前のデータになるけれど、「ゼクシイ新生活準備調査2016」の調査結果では、平均年齢は夫30.5歳、妻28.7歳の新婚カップル(うち80%弱が共働き)で、1カ月あたりの生活費が平均22.0万円というから、消費税も上がっていることとかを考えると、我が家はだいぶ安いのだろう。

「生活費、少なっ!」とよく周りの友だちに驚かれる。

出費を少なくできている理由は、私たちが実践している「バンライフ」という、車に必要最低限なものだけを積んで旅をするライフスタイルにある。

生まれた時は、何の不自由もない“お嬢様”だった

実際のライフスタイルの前に、書いておきたいことがある。

私は人生で2回、お金でどん底に落ちている。それがちょっとしたトラウマなのか、あの時のことを思い出したくなさすぎて、脳が記憶をシャットダウンしようとする。

この「お金に対する考え方」というテーマと向き合ったときに、何度もPages(WordのApple版アプリ)を開いては閉じ、開いては寝落ち、を繰り返していた。

でも、ただ「バンライフはいくらかかるのか」内訳を書いただけでは、200文字くらいで終わってしまう。それでは読者のみなさんにとってはおもしろくもない、何の役にも立たない記事になってしまうので、ここからディープなことも腹をくくりながら書こうと思う。

幼少期の私は、何不自由なく育てられた“お嬢様”だった。

3歳のとき、父親のDVが原因で両親が離婚したものの、母の実家は地主で、その実家で暮らすことになったので、お金の心配はなかった。

毎週のように新しい服を買い与えられるだけじゃなく、ほしいと言った金額だけお小遣いをもらい、好きなように使っていた。ほぼ毎日のようにダンスや歌の習い事、ミュージカルなどの子役としての活動費用、さらにはかなり高額な音楽大学の学費まで、惜しみなく出してもらっていた。

「一生お金の心配をすることなく、芸事だけをやっていればいいの」と母に言われて育ったので、どんなに歌が上手くなっても、私の金銭感覚は崩壊していった。

「お前を家族だと思っていない」と私に言った弟

菅原恵利さん
筆者提供
菅原恵利さん

そのまま23歳になった私に、悲劇は突然訪れる。女手一つで育ててくれた母が「悪性脳腫瘍で余命1年」と宣告され、本当に1年後、母は亡くなった。

母が亡くなったあと、弟が私にこう言った。

「お前がずっと好き勝手生きてきたせいで、俺の人生めちゃくちゃだ。お前のことは家族だと思ってない」

その言葉を投げつけられたのを最後に、弟とは1度も会っていない。

すぐに私は、実家を出ることにした。

幼少期に私が習い事やら、舞台の活動やら勤しんでいる最中、母は私に付きっきりだったので、弟は家で1人ぼっちの鍵っ子だった。私が弟にできる唯一のことは、すぐに目の前から消えて二度と関わらないこと、相続には手を出さないことだと悟った。

実家で飼っていたワンコだけに「バイバイ」と小さな声でお別れの挨拶をして、家をあとにした。一文無しで、ノープランだったけど、その時の私は冷静さを失っていて、ただ遠く遠くに行くことだけを考えていた。

そのあとは、日払いのバイトをしながら、彼氏や友だちの家を泊まり歩いたり、漫画喫茶に泊まったりする生活(その時の月収12万くらい)を経て、なんとか1人で住むアパートを見つけた。

そして、縁あって、ボイストレーナーの仕事をすることになった。生活水準はガクンと落ちてしまったものの、前を向いて歩いていくしかないと思っていた。

帰る家があるだけ、有難い。進むのをやめてしまったら、泣き崩れてしまいそうで怖くて、ただひたすらに毎日を必死に生きていた。

信頼していた友だちの言葉で消えた母の保険金

そんな生活の中で、生命保険の仕事をしている母の友人から連絡があり、母が私のために保険金を残してくれていたことを知った。その額は1000万円を超える大金だった。

本当に私の銀行口座に振り込まれた。いざという時にこれがあれば、という安堵と、母の優しさに涙した。

少し話はそれるが、母が亡くなったすぐあとに、私には何でも話せる友だちができた。

誰よりも私のことを理解してくれて、受け止めてくれる人だった。

母が亡くなってすぐ、当時の彼氏の転勤と同棲することになったのに、彼の両親に反対されて別れてしまったり、母の死を知らせるために幼い頃に離婚した父親探しの旅に出て、父親には会えたにもかかわらず、複雑な気持ちになって落ち込んだり……。さらには舞台女優への道を諦めたことを他の友達にからかわれてしまったり。そういう辛いことが起きるたびに、その友達に電話して泣いていた。

毎日のように泣いて電話しても、優しくうなずいてくれて、私の言うことを全肯定してくれた。当時の私は、その人のおかげで、なんとか気持ちが保たれていたと言っても過言ではない。信頼して、なんでも話していた友だちだ。

彼女に、母が残してくれた保険金の話もしてしまったのだ。結局、その友だちに投資話を持ちかけられて、母の保険金2000万円は消えてなくなった。

自分のバカさ加減に、絶望した。予定していたいろいろな支払いができなくなり、今日食べるものがない、どこかに行くための交通費がない。生理用品が買えなくて1日中おふろの中で泣いて過ごす日もあった。

人を見る目、お金の使い方、自分が目指すライフプランをもう一度真剣に考えてなおして、人生建て直さなきゃと、立ち上がった。

11歳のとき、あの有名なミュージカル「アニー」の舞台に立ってから、「大人になっても通用する舞台女優になる」という、母と一緒に目指した夢は遠ざかっていった。

実家を出る前、親戚の人に、「お前の舞台なんて観たくない」と言われてから、なんだか誰にも応援されてないような気がして、やる気も少しずつ消えてしまった。その代わりに、無一文で、もう一度人生をやり直すために仕事をするなら、誰かの役に立つことだけをやろうと決めた。

生活は自由に、でもお金にはシビアに

菅原恵利さん・菅原拓也さん
筆者提供
菅原恵利さん・菅原拓也さん

そんな経験があるせいか、現在のライフスタイルは「私らしく自由に、だけどお金の使い方はシビアに」というのを徹底している。

弟に言われた言葉、お金に関する失敗が、今の私を作ってくれた。感謝、とまではまだ言えないけど、あんな経験がなかったら、私は成長できていなかった。

大きく稼ぐ、収入を増やす、というより、出費を減らす、お金を上手に使うということに注力することにした。でも不思議なことに、お金の使い方にちゃんとこだわりを持っておくことで、私の幸福度は上がっていったのだ。

本当にいるもの、いらないもの。お金を使うもの、使わないでおくもの。以前のミニマリストの記事でも書いたけれど、出費する際の判断力がだんだん養われていったと思う。

工夫と一石二鳥を楽しみながら

菅原恵利さん・菅原拓也さん
筆者提供
菅原恵利さん・菅原拓也さん

私は旅行が好きで「自由気ままに暮らしたい」冒険心を持っている反面、お金を使う場面ではかなりの慎重派だ。なので、出費を抑えても楽しい旅ができるバンライフは、私にとってちょうど良くて、気に入っている。

「車で旅をしながら暮らしています」というと「お金がかかりそう」とイメージをする人が多いようだ。でも実は、車を拠点にすると自由度が高い割に「節約しやすい」ということがわかった。

車が拠点と言えども住民票は夫の実家に置いているので、保険料、住民税、年金、車の保険、通信費、食費は一般家庭と同じくらい、当然かかる。

ただ、家賃と光熱費がかからない。そこは大きい。代わりにかかるものと言ったら、毎日入る温泉・銭湯代(1回平均600円程度)、コインランドリー利用代(月7000円程度)くらいだ。車中泊スポットは無料の場所もあれば、有料でもだいたい1台1000〜2000円程度なので、ホテルや家賃に比べたらはるかに安く済む。

トイレは、コンビニや道の駅などで無料で使わせてもらうことになる。でも、トイレを利用したら、そのお店でお金を使う(何かを買う)というのが私たち夫婦のルール。そんなに大きな買い物をすることはないが、多少のお金は必要になる。

だから節約をするために、外食を控えて車内で自炊したり、温泉料金が安いところを探したり、ガソリン代を抑えるために長距離移動は避けたりするなど、私たちなりの工夫はしているのだ。

また私たちは、車中泊スポット、温泉、観光地に行くこと自体を仕事にしてしまうので、取材・PRするために交通費、食費、温泉代、宿泊代などが浮くことも多い。そのため、自分たちが行きたい場所に旅行する、というより、仕事がある場所に赴くスタイルになっている部分もあるが、それはそれで、とても楽しいので一石に二鳥と言えるかもしれない。

過去に2度、お金で絶望していた私。

お金の使い方を考えた結果、夫とバンライフという道を選んだ。

家賃を払わない分、日本全国いろんな地方を巡って、食や体験にお金を使う。

こうして、私はバンライフで暮らし続けるのだ。

(編集:榊原すずみ