「あかちゃんなんか、いらない」。突然言い出した息子の胸のウチは…

この間までは「いもうとがほしい」と言ってたのに…。ウチの6歳児くんの複雑な心模様とは?
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6歳になる息子がある日突然、脈絡もなく「あかちゃんなんか、いらない!」と言い出した。保育園で他のお友達の弟や妹をあんなにかわいがってるのに、自分のきょうだいは「いらない」と。それは、「あかちゃんができたら、あかちゃんにぱぱとままをとられちゃうから」という、6歳児にとって〝両親から受ける愛の危機〟ゆえの発言だったのだ。「ぱぱとままをだれにもとられたくない」、ときに激しい嫉妬として燃え上がる幼児の「愛をもっとくれよ!」

その小さな胸のうちとは。

他のお友達と話しだけで嫉妬

我が家には、6歳になる男の子がいる。僕ら夫婦が39歳から不妊治療をはじめ、3年経った42歳のときに生まれた子どもだ。さて、その6歳児くんだが、まあ嫉妬がひどい。何の嫉妬かというと、親の愛情をとにかく独り占めしたがるのだ。例えば彼がまだ3歳ぐらいのころ、僕が保育園の他のお友達と喋っただけで、凄く怒られた。「ほかのおともだちと、おはなししないで!」と嫉妬するのだ。さらに他のお友達のことを、つい「かわいいなあ」なんてポロッと言ってしまったら、もうカンカンに怒ってしまう。このように「僕だけを愛して!」という思いが強い子ゆえ、親としてはかわいいと思う反面、他の子とコミュニケーションを取るといちいち怒ってくるので、面倒といえば面倒な部分があったのも事実だ。6歳になった今でも、彼の一番の相棒であるぬいぐるみの〝くまちゃん〟を引き合いに出し、「ぼくとくまちゃん、どっちがすき?」と聞いてくる。何をそんなに不安がってるの? もう十分に愛してるのに、それが伝わってないの? と思いつつ、「お前に決まってるだろ」と答えると、こう返してきた。「そういうとおもった」。じゃあ、聞くなよ!(笑)

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せっかくの貴重な夏休みの思い出が…

そんななか、今年の夏、6歳児くんを連れて区民プールに行った。コロナ禍において週末の区民プールは密を避けるため、ハガキによる完全抽選制。僕は10通出して当選はたった1通という激戦ぶりで、のちにプールの係員に聞いたところ「倍率は16倍」だったという。さて、夏らしいことが何もできなかった今年の夏に貴重な思い出を残そうと、やっとこさ当たったプールに行ったときのこと。保育園で同じクラスのショウくん家族が、偶然プールにいたのだった。

ただでさえ今年初めてのプールでテンションが上がっていたウチの6歳児くんは、偶然一緒になったショウくんの姿にさらに爆上がり。ふたりは仲良く遊び始めたのだが、よかったのはここまで。

というのも途中からショウくんが「あそぼう!」とばかりに、僕に懐いてきたからだ。キャッキャと笑いながら、僕の手に足に絡みついてくるショウくん。するとみるみるうちに嫉妬に駆られたウチの6歳児くんは、その手と足を払い、「むこうにいこう!」と僕の手を引っ張り始めた。以来、ショウくんが僕のほうにやってくると、僕の手を引っ張りショウくんを避け始めたのだった。かわいそうなのは、ショウくん。ただ遊びたいだけなのに、その相手がどんどん逃げていくのだから……。男の嫉妬は、犬も食わないぞ、我が息子!

ひとりは淋しい…、でも複雑な心模様

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そしてウチの6歳児くんが次なる嫉妬のターゲットにしたのが、何と赤ちゃんだった。保育園の同じクラスの多くのお友達には弟や妹がいて、その愛くるしい存在を目にしたウチの6歳児くんは、「ぼくもいもうとがほしい。かわいいから」と言っていた。最初のうちは。それを受け、親として「お前、ちゃんとお兄さんになれる? 赤ちゃんが生まれたら、パパとママは赤ちゃんにつきっきりになることが増えちゃうんだよ。それでもお兄さんとして我慢できる?」。このひと言が彼の嫉妬に激しい炎をともし、「ぼく、あかちゃんなんか、いらない!!」となってしまったのだ。

しかし彼も本当は兄弟が欲しいはずなのだ。公園に連れて行くと、彼は同い年くらいの男の子を見つけると、「あーそーぼ」とよくナンパし、一緒に遊んでいる。ドッチボールをやっている10人くらいの大所帯にも臆せず「いーれーて!」と仲間に入り、気づけば友達になっている。その度胸には恐れ入るが、それほど一緒に遊ぶ相手が欲しいのなら弟や妹が欲しくないはずがない。しかし自分への愛が薄れてしまうのではないか?と不安になり、「あかちゃんなんて、いらない」と言い放つ。

こないだ銭湯に連れて行くと、4人兄弟と見られる子たちが楽しそうに湯船でじゃれていた。一番小さな女の子が「シャンプーが目に入った」と泣いていると、一番大きなお兄ちゃんがやさしくお世話している姿が微笑ましかった。僕が「4人もいると楽しそうだなあ」とつぶやくと、「4にんもいると、おうちがせまくなるだけだよ」と独特すぎる言い回しで強がりを言っていた。お前、ひとりじゃ淋しいくせに。

赤ちゃんがやってくるなら、女の子がいい

それからしばらくしたある日、6歳児くんはいきなりこう言ってきた。

「あかちゃんがうまれて、ぱぱとままがあかちゃんのこと『かわいい』っていったら、ぼく〝いえで〟する!」。目は真剣そのもので、相当な覚悟が感じられた。そのため、「あれ? 家出しちゃったら、パパとママに会えなくなっちゃうよ? それでもいいの?」と返すと、え!? マジで!? とばかりに表情が曇り出し、「じゃあ、はやくにかえってくるぅ」と、家出はお出かけに変わった。

そして次に、彼はこう言ってきた。

「もし赤ちゃんができるなら、おんなのこがいい」

「え? できてもいいの? なんで女の子がいいの? かわいいから?」

「ちがう、おとこはおんながすきでしょ? だからおとこのこがうまれたら、ままをとられちゃう。だからうまれるなら、おんなのこがいい」

いつまでたっても「赤ちゃんは来ないよ」と言ってくれない、パパとママ。それなら大好きなママを取られない、女の子で妥協しようと子供なりに一生懸命考えたのだろう。「おとこはおんながすき」という6歳児なりの理論、「だったら大好きなママを取らない女の子で」という6歳児なりの妥協点、それらすべてが愛おしい。ん? ちょっと待てよ。

「じゃあ、女は男が好きってことだろ? だったら女の子が産まれたら、妹にパパを取られちゃうよ? それでもいいの?」

「うん、それはいい」

いいんかいっ!

鬱陶しいくらいの愛情を君に

しかし我が息子よ、本当のことを言うとウチには赤ちゃんはもうやって来ない。安心していいんだよ。

僕ら夫婦は3年もの不妊治療の末に、42歳のときに授かった。諦めムードが濃厚のなかやってきた、お前こそが奇跡の子ども。お前が生まれてきてくれたことがもう幸せすぎて、ふたり目なんて考えたこともない。

だからもう、「赤ちゃんなんかいらない」なんて言って、不安がらなくていいんだよ。弟や妹はあげられないけど、そのぶん倍の愛情をお前に注ぐから。もう少し大きくなって「鬱陶しいわ」と逃げ出すくらいの愛を、お前にあげるから。

(編集:榊原すずみ

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