変化するベンチャーキャピタリストの常識。「カフェインと野心をジェット燃料に…」

かつてベンチャーキャピタリストは、コツコツ働き、じっくり判断するとの定評があった。では、今日のベンチャーキャピタリストは?
Portrait of mature business man sleeping on desk in loft
Portrait of mature business man sleeping on desk in loft
TechCrunch Japan

筆者は先週サンフランシスコにいて、2日間で1ダース以上のベンチャーキャピタリストと会った。彼らは休暇から帰って来たところで、つまりタホ(米国カリフォルニア州とネバダ州の州境のシエラネヴァダ山中にある湖)のスキーシャレーやビーチのある島への旅行から帰ってきた時期で、ちょうど1年で最も重要な資金調達期間の1つに入ったところだった。第4四半期に仕込んだスタートアップが1月後半から4月にかけて今年の資金調達を始めるのだ。

筆者がベンチャーキャピタリストとの会話の中でひたすら聞いたのは「疲れている」という言葉だった。理由は完全に同じではないにしても似たようなものだった。最大の要因は、押し寄せる洪水のようなベンチャーマネーに対して、シリコンバレーのディールが少なすぎるということだ。コンシューマー関連の投資はイグジット先がなくなって色あせつつある一方で、モバイルのうねりが高まっている。最近記憶にある範囲で、昨年はB2B投資がコンシューマー関連の投資を上回った最初の年だった。誰もが同じようなSaaS企業を追いかけることを余儀なくされている。

彼らは、いわゆる最高のディールで、資金調達プロセスが開始から48〜72時間で終わってしまう様子について話してくれた。数十のベンチャーキャピタルファームが、自らは意識していないが幸運なスタートアップを狙ってタカのように下降し、タームシートに同意する。「キャップテーブルに載るチャンスのためなら、バリュエーションやその他の交渉論点は喜んで譲歩するのだ」と嘆くベンチャーキャピタリストもいる。アーリーインベスターは保有している株を持ち続けることに必死で、過去にみられたような誠実なブローカーの役割などはもはや果たしていない。

さらに「これを逃すことはできない」という感覚がこれまで以上に強くなっている。ベンチャーキャピタリストが数十という会社を見て回ったその日の終わりに、深夜になってもう1つ会社を紹介してもらう。その会社が自分のキャリアを左右するかもしれないと思い、今日最後の会議に参加する。そうやって「今日最後の会議」に参加し続ける。競争に有利に働くとんがった何かを見出したいのだ。

だから、ベンチャーキャピタリストはサウスパーク(サンフランシスコ市内のベンチャーキャピタルファーム集積地の1つ)を中心にをうろうろ走り回り、最近はいよいよ世界中を回って何とかアルファ(市場平均を超えるリターンの源)を探そうとしている。だが、アルファの発見はますます難しくなっているようだ。

ベンチャーキャピタルファームは自分にできることはしている。その「最後の未発掘会社」を見つけるべく、優れた人材をたくさん採っている。また、自らのポートフォリオやその創業者を精査し、競合他社が見逃しているかもしれないディールへの手がかりを見つけようとしている。ディナーの後にまたディナーを開くこともある。筆者もときどき遭遇する。まるで人間が同時に複数の場所に存在することができるかのように、筆者も一晩に複数のディナーに招待されたことがある。すべてはマジックが起こるのを期待してのことだ。

皮肉なのは、かつて「疲れた」というセリフは、シードインベスターからよく聞いたものだ。彼らは金脈を探し当てるために、何十もの気の毒なスタートアップを手当たり次第回っている。最近は、レイターステージのベンチャーキャピタリストからその言葉を耳にすることが多くなった。レイターステージでは、創業者との関係よりもExcelスプレッドシートがバリュエーションを左右し、誰もがSaaSメトリクスのグリッドを読むことができる。

こうしたことは、スタートアップの創業者やアーリーインベスターにとって良い面もある。マークアップ(前回ラウンドからの株価の上昇額)が高いほど、より少ない希薄化でより多くの資金が得られる。それは常に素晴らしい。問題は、極めて凝縮された資金調達プロセスで関係が構築されていくことだ。つまり、創業者はパートナーと仕事をする時間がほとんど取れないまま、取締役会の議席を用意しなければならない。そんな「るつぼ」のような混沌とした状況で人格を見極めるのは難しい。

数字についてもそうだ。タームシートが守られないことについてはEquityで少ししゃべったが、最近いろんな所でささやかれている1つのパターンだ。 タームシートが署名される前のデューデリジェンスが短くなるほど(これも激しい競争に勝つため)、買い手側であるベンチャーキャピタリストが(そしてしばしば創業者も)後悔するケースが増え、結局ラウンドが失敗に終わる可能性が高くなる。

限られた選択肢、目まぐるしいスピード、睡眠不足。これらがすべて、ベンチャーキャピタルのリターンに対する感応度を高めている。VCにメールするのが1時間前後するだけで、資金調達の結果が変わる可能性が十分にある。かつてベンチャーキャピタリストは、コツコツ働き、じっくり判断するとの定評があった。今やその古い常識は死に、代わって登場した現代のベンチャーキャピタリストは、カフェインと野心をジェット燃料にして数分で数百万ドル(数億円)の判断を下す。

最高の時代でもあるし、最低の時代でもある。2019年と2020年のヴィンテージイヤーの結果が、今から8〜10年後にどうなっているのか考えずにはいられない。

(2020年1月19日TechCrunch Japan「ベンチャーキャピタリストは疲弊している」より転載)

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