北欧デザインで「ノルウェー」が目立たない原因はシャイな国民性?

デンマーク、スウェーデン、フィンランドは、過去・現在において家具、食器、テキスタイルなどのデザインが、日本でも根強い人気を誇っている。その北欧の中で、目立たない国がふたつある。アイスランドとノルウェーだ。

5月末にノルウェーの首都オスロで開催された北欧デザインフェア Photo:Asaki Abumi

北欧デザインと聞くと、カラフルでシンプル、機能的で長く使えることなどが共通点として挙げられる。デンマーク、スウェーデン、フィンランドは、過去・現在において家具、食器、テキスタイルなどのデザインが、日本でも根強い人気を誇っている。その北欧の中で、目立たない国がふたつある。アイスランドとノルウェーだ。

アイスランドが影に隠れがちな理由は、他国と比べても地理的に離れ、文化的にも他の4カ国と相違点が多いことがある。ここではノルウェーについて考えてみよう。

5月後半、首都オスロでは「ノルディック・デザインフェア」という、1930~70年代のノルウェーを中心とした北欧ヴィンテージ展が開催された。木製家具や食器をはじめとした美しいレトロなデザインがずらりと開場に並び、2日間で約3000人が来場。「ノルウェーにはこんなにも素晴らしいデザインがあったのか」と驚いた人も多かったことだろう。これらの芸術は今までその価値を宣伝されてこなかったので、一般家庭の地下室や蚤の市の片隅でホコリをかぶって埋もれていたのだ。

木棚の左側にあるオレンジや水色のホーロー鍋は、キャサリンホルム(Cathrineholm)社のデザイナー、グレーテ・プリッツ・キッテルセン(Grete Prytz Kittelsen)氏によって1960年代に発表されたノルウェーを代表する有名な作品 Photo:Asaki Abumi

主催者であるノルウェーデザイン建築センター「ドガ」の責任者のひとりであり、キュレーターであるべネディクテ・スンデ氏はトークショーで口を開いた。「デザインをテーマにした、北欧共同制作の展示会やテレビ番組に携わることが多いのですが、ノルウェーのパートは大抵カットされたり、省略されたりすることが多いのです。北欧出身の関係者はこう言います。"だってノルウェーのデザインは知られてはいないので"と。私はこの現状は非常に問題だと思いますし、なんとかしなければいけません」。

ノルウェーがデザインにおいてあまり話題にならない大きな理由は2つある。まず、「オイル採掘」だ。これは、ノルウェー人デザイナー達が必ずといっていいほど口にする一言となっている。北欧の中でもノルウェーは特に物価が高いお金持ちの国として知られているが、かつては大自然の中に暮らす貧しい「農民」の国であった。1960年代に北海油田が発見されて以降、みるみる国の富は潤い、今やエネルギーの輸出大国。世界第3位の天然ガス輸出国、世界第7位の石油輸出国、世界第6位の水力発電国となっている。

石油採掘以降、お金持ちとなった国は、北欧他国に比べて、国の事業を必死に後押しする必要がなくなってしまった。ご近所の国がデザイン分野を将来的に付加価値のある資源として積極的にプッシュしてきた間、ノルウェーはのんびりとしすぎてしまったのかもしれない。石油はさまざまな意味でノルウェーの国のあり方を大きく変えた。現在も、自国でモノを作るよりは、物価の安い海外から「輸入してしまったほうが楽」という考え方が少なからず残っている。

もうひとつの原因として、「ノルウェー人の恥ずかしがりやな性格」がある。この点は、国際的なデザイン展などの場で、名だたるデザイナーたちもあえて口にはしない。ただ、身内同士でデザインについて語るときにはポツリとつぶやく。「私達はシャイだからね」。

左側にあるイスは、ノルウェーの設計技師フレドリク・カイセル(Fredrik Kayser)によって1955年にデザインされた作品「Kryss」 Photo:Asaki Abumi

これはノルウェーに滞在して6年目となる私自身、ずっと感じていたことだ。北欧人はもともと全体的に優しく、おとなしく、穏やかなイメージがあるが、その中でもノルウェー人の「自己主張下手」は突出している。隣国スウェーデンのほうが、圧倒的に自己ブランドのPRやマーケティングにたけている。

営業下手なノルウェー人は、みずからを宣伝することがあまりない。国際的な大企業ブランドともなると、積極的な広報担当者はいるが、国内に留まるブランドやデザイナーは、メディアなどの外部者がコンタクトをとってくるまで自分達から動くことはまれだ。「モノがよければ、人は自然と寄ってくる」と内心思っている人も多い。しかし、情報が氾濫している現代社会で、残念ながらその考えは通りにくい。

ここ数年、ノルウェーはようやくデザイン事業の推進や若手の育成に力を入れ始めたように感じる。ノルウェー発の人気カフェとして日本でも知られつつある「フグレン」も、東京でデザイン展を開催するなどして貢献している。

私が日本のメディア関係者によく言うことがある。それは「ノルウェーにも実はネタはたくさんあります。ただ、彼らはPR下手なので、私達が探し出す必要があります」。プラスに考えると、ノルウェーは北欧の中でも情報が日本語化されていない、未発掘ネタが豊富な国なのだ。フィヨルドやオーロラ以外にも、デザインをはじめとする原石は、実はこの国の土地にはたくさん眠っているのである。

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