生活保護申請の女性に「ソープで働け!」という対応 大阪市だけでなく「氷山の一角」

1987年頃、札幌市でシングルマザーの30代の女性が生活保護を受けることが出来ずに餓死した事件をきっかけに初めて生活保護について取材を開始した頃、私が勤務していた地元のテレビ局にはそんな電話が女性たちからいくつも寄せられた。

以下の記事がネット上で話題になっている。

実際にそんなことがあったのかどうかという話だ。

「ソープへ行け」生活保護申請に大阪市職員が求める 女性への「信じられない暴言」は本当なのか(J-CASTニュース)

大阪市で生活保護を申請した30代女性に対し、職がなければソープランドで働くよう職員が求めたと、女性の相談に関わった弁護士がブログなどで明かした。これに対し、市では、「言ってはならないことで、そんな話は聞いていない」と説明している。 ブログで明かしたのは、大阪市生活保護行政問題全国調査団の事務局長をしている普門大輔弁護士だ。2014年5月9日に市の対応について相談に乗るホットラインの電話を調査団が設けたところ、女性が電話をかけてきたという。 30代女性「申請しても、5回も断られた」 5月12日のブログによると、女性は、DV被害をきっかけに夫と離婚した後、知的障害を持つ5歳の子供と暮らしている。仕事を探してはいたものの、保育園に子供を入れることができずに困り果て、大阪市に生活保護を申請することにした。 ところが、申請してもうまくいかず、結局5回も断られたという。その際に、対応した市の職員から、「ソープランドへ行け」と言われたというのだ。 女性は、信じられない気持ちになり、専門家に同行を求めた。その結果、市側も折れて、生活保護の支給が始まった。しかし、その後も、市の福祉事務所が児童扶養手当の受給分を保護費から差し引くのを忘れただけにもかかわらず、ケースワーカーから「不正受給だ。返せ」と言われることがあった。女性は、こうしたことから行政への不信が募ったそうだ。

出典:J-CAST ニュース

私は生活保護についての取材が長い人間だが、実はこうしたことは昔から日常茶飯事だ。

1987年頃、札幌市でシングルマザーの30代の女性が生活保護を受けることが出来ずに餓死した事件をきっかけに初めて生活保護について取材を開始した頃、私が勤務していた地元のテレビ局にはそんな電話が女性たちからいくつも寄せられた。

シングルマザーなどで、生活困窮した女性たちが福祉事務所に言って相談しても、職員の対応は以下のものだったという告発が相次いだ。

「夫と離婚したことが悪い。土下座して復縁してもらえ」

「あなたはまだ若い。生活保護を受ける前で売れるものがあるだろう。自分のカラダだって売れる」

「仕事がないと言っても、ソープランドとかいくらでもあるだろう」

生活保護は、「申請」といって書面に生活保護受給の意思を示して初めて審査の手続きが開始される。

ところが現場で行われているのは、その書面提出の前に、なんだかんだと言って生活保護の受給はハードルが高い、ということを職員が示して、実際に書面を書かせない対応だ。

ひどい場合には、今回明るみになったように「ソープに行け!」と言って諦めさせる場合もある。

これは「水際作戦」と内部で呼ばれている、正式な手続きに載せないようにする行政の対応だ。

正式な手続きに載せると、審査の結果、生活保護を支給するケースが多いことやその際の手続きの煩雑さを嫌って、「なるべく申請させない」のだ。

これは生活保護の「相談」そのものが密室のなかで行われ、職員と相談者との間の会話が正確にどのようなものだったのか分かりないことをいいことに今も一部の福祉事務所や職員が時々「ソープランド」などに言及する。

特に相手が女性の場合は、セクハラ的な姿勢の男性職員が居丈高にこうした言動をくり返す。

私は80年代後半から生活保護に関する弁護士などによる相談の現場を取材してきたが、今回、大阪市で明らかになった「ソープランド」の事案はけっしてまれなものではないことは断言できる。

生活保護を受けられるかどうか、制度について相手がよく分かっていないことをいいことに、職員の側が好き放題を言って、事実上「申請を諦めさせる」「追い返す」ような対応は一時的に問題になることはあっても、けっしてなくならない。

「ソープランドで働け」は氷山の一角に過ぎない。

それは生活保護を受けている女性に対する男性職員によるセクハラとも「表裏」の関係にある。

以前、生活保護受給女性に対するセクハラの問題について記事を書いた。

こちらも氷山の一角だ。

生活保護女性への「セクハラ」 実は氷山の一角

背景にある行政の"絶対権力"生活保護と女性へのセクハラ。 これは、生活困窮にあえぐ人たちからの相談を受ける支援者が、時々、耳にする話だ。私の取材経験から言っても、今回の事件は「氷山の一角」に過ぎないと断言できる。 実際には、生活保護を受けている女性(多くはシングルマザー)と、ケースワーカーと呼ばれる区役所などの生活保護の担当職員の間でこの問題が起きがちだ。

出典:ヤフーニュース 個人(水島宏明)

背景には、生活保護を申請したりや支給を継続されたり、打ち切られたり、という「生活保護のプロセス」が必ずしも法律の手続きに基づかず、密室で職員のさじ加減で行われているという現状の問題点がある。

もちろん、数十年前とは違って、セクハラなどの発言をされても、言葉を投げかけられた側がおとなしく黙っている時代ではなくなってきている。弁護士などによる外部の相談・支援体制も以前よりは整ってきた。

それでも「生活保護を受ける」という行為が、ギリギリの切羽詰まったものであり、現状では世間から後ろ指をさされる面があるため、こうした「ソープで働け」などと言われて自尊心を傷つけられても、泣き寝入りしている女性たちは少なくない。

そうした構図に目を向けない限り、事態は改善されないだろう。

それを回避するには、申請する側も職員との会話を「録音」するなど、防衛手段を持つしかない。

ところが一部の自治体では、相談者が職員との会話を録音することを禁じるなど、なるべく後で不利にならないように規制を強化している。

もちろん本末転倒という他はない。

(2014年6月14日「yahoo!個人」より転載)

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