30年来のパートナーと2児の子育て。ゲイ公表のGAPジャパン社長が語る、家族と経営

ギャップジャパン代表取締役社長、スティーブン・セアさんは、ゲイを公表している経営者であり、30年来のパートナーと10歳と12歳の子どもを育てる父でもある。
JUN TSUBOIKE

「私ができることは、自分がお手本だということ。自分らしい人生を生きながらも、軋轢なく、充実した人生を送ること。体現して見せていくこと」

アパレルメーカーのギャップジャパン代表取締役社長、スティーブン・セアさんは、ゲイを公表している経営者としての姿勢をそう語る。

セアさんは、競争の激しいファッション界でグローバルに活躍するエグゼクティブ・リーダーであり、30年来の男性パートナーと、10歳と12歳の子どもを育てる父でもある。

日本のLGBTをめぐる現状をどう思うのか。

LGBTの働きやすい環境を作るために、企業ができることは?

日本の同性婚の訴訟をめぐる動きについて、感じることは?

「他の子どもたちと少し違う」と感じていた幼少期、素直にセクシュアリティを表明したら好転しはじめたキャリア、そして愛する家族について、ハフポスト日本版に語った。

同性パートナーも家族割、世界のギャップの基準

JUN TSUBOIKE

――ギャップジャパンでは、「ダイバーシティ&インクルージョン」というポリシーを掲げていますが、LGBTについては具体的にどのような施策をされているのでしょうか?

会社としては、多様性を非常に重んじています。LGBTだけではなくて、ジェンダーギャップ(性差)もそうです。それから人種などで差別をされることはありません。

どんな人でも本来の自分らしさを保ったままで、リーダーになるチャンスを与えられていることが私たちのポリシーです。

同性のパートナーに関しても、ヘルスケア、あるいは退職後のケアなどもあります。世界のギャップではそれが基準ですが、日本では、多少際立ってユニークだと思われるかもしれません。

たとえば、福利厚生プログラムの一つに「従業員割引」の制度があり、この制度は従業員とその家族が利用できます。日本でも同性のパートナーに適用しています。日本でいわゆる婚姻関係になくてもパートナーに対して認められています。

――性的マイノリティが働きやすい職場環境を作る団体「Work With Pride」が策定する「PRIDE指標」で、2018年に最高評価のゴールドを受賞されました。

受賞をとても嬉しく思っています。私たちは企業として、平等性、権利、そしてダイバーシティをとても重要視をし、常に大切にしていますので。

アメリカでは何十年もの間、ギャップは企業として、こういった価値観や権利を大切にし、そしてリードをしてきました。

私個人の喜びだけではなくて、会社はそういったいろいろな人達がつくってきたという自負があります。それぞれが努力し導いてきたことを、従業員一人ひとりが誇りに思ってくれればいいなと思っています。

――セアさんは、LGBT当事者の就活生などに対しても講演されていますね。

私ができることは、やはり自分がお手本だということ。自分らしい人生を生きながらも、軋轢なく、充実した人生を送る。体現して見せていくことだと思っています。

私もリテール界、小売業界で30年間ビジネスをしてきましたが、今では私らしくありながら、日本でリーダーの立場になりました。セクシュアリティを障壁とせずに、ビジネスの世界でここまで生きてきました。

若い人達に、社会に出て自分らしくありながら成功できることをお見せできればと思います。それは私にとっても非常にエキサイティングなことです。

他の子どもたちと違う、と感じた子ども時代

JUN TSUBOIKE

――若い頃、セクシュアリティについて悩んだりした経験はあったのでしょうか?

そうですね。イエスでもあり、ノーでもあります。幼い頃、自分でセクシュアリティという言葉を自覚する前に、他の子どもたちと少し違うな、と自分自身で感じていました。

たとえば興味を持つことが、典型的な男の子らしいスポーツというよりは、音楽だったり、劇場のお芝居だったり。そういった意味で、自分は違うな、という自覚はありました。

ただ、悩んだり苦しんだりしたことは大学時代になるまでなかったんです。大学の頃、何が悩みだったかというと、その時代――1980年代の後半は、自分のセクシュアリティを表明することに対してリスクがありました。

いわゆるエイズが蔓延していて、社会的にもエイズの危機の真っ只中な時代でもありました。その頃はカミングアウトすることで、今後の就職や、キャリアの構築、人生の幸せに関しても、常に何かつきまとうものがあるのではないかと思っていたんです。

ただ、私の結果、経験上では、自分のセクシュアリティを素直に表現しだした途端に、より人生がハッピーになりました。それによって、よりよい就職、よりよいキャリアの道も開かれたのです。

――カミングアウトして「人生がハッピーになった」とのことですが、日本では、LGBTの当事者であることを公表している経営者は、ほとんどいません。セアさんが初めてではないでしょうか。この現状についてどう思いますか?

何事も、最初というのはいいものです。ただ、私はビジネスのリーダーとして自分をとらえたときに、ゲイのリーダーと考えたことはありません。

私がここまでこられたのは、やはり戦略や収益に対する思い。そしてお客様に対する捉えかた。お客様が私たちの商品を愛してくれるように、どうビジネスを効率良く運営しているか。やはりそれがエグゼクティブ・リーダーとしての私の仕事だと思っています。

同じように、私は(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の)柳井さんを、“ストレート”の“男性”のエグゼクティブと考えたことはありません。柳井さんは、素晴らしく才がある革新的なリーダーだという捉えかたをしています。ですから、私のリーダーシップは必ずしもLGBTに紐付いているものではないと思います。

LGBTであっても同じように均等に機会があり、こういった役職や職務を務められる。そういったチャンスが与えられる。そう見ていただけるのであれば幸いです。

東京レインボープライド、匿名で取材に応じる人たち

TOKYO RAINBOW PRIDE2018のパレードに参加
TOKYO RAINBOW PRIDE2018のパレードに参加
ギャップジャパン

――日本で、カミングアウトしづらい状況について、どう思いますか?

新聞で、東京レインボープライドの翌日に記事を読んで、何人かが、「パレードには参加をしたけれども、インタビューは匿名でしたい」と言っていると知って、とても衝撃を受けました。あまりにもアメリカで私が捉えていたことと違っていたからです。

それから自分でも調べたり勉強をしたりました。日本のカルチャー自体が、LGBTだけではなくて、慎ましい。「プライベート」(私的な)と英語ではいいますけれども、少し慎ましいところがあると思います。アメリカと比べるとやはりオープンではない。

ですが、私個人としては、パレードに参加をするけれども匿名でしか話をできないという人たちを批判するつもりも、ジャッジをするつもりもありません。

これは日本でのビジネストレンドにも例えられることができると思います。日本は変革、あるいは変化に対して、とても注意深くアプローチをする傾向があると思っています。

例えば、始まるまでは非常にゆっくりなんですけれど、一度それが起こってしまうと、急速に動き出すことがあります。

ファッショントレンドにおいても、まだ日本の人たちはこのトレンドを捉えていないなと思っていても、始まった瞬間にものすごい勢いで広がっていく。0から100までのスピードが速いんですね。

もちろん人生がファッショントレンドに例えられるわけではないんですが、今は日本でも様々な動きがありますので、いつか本当に真の自分らしく、誰もがオープンにできることが価値があること、そして喜びであるという時代が来ればいいなと思っています。

30年連れ添ったパートナーとの子育て

――家族の日常をInstagramで発信されています。30年連れ添ったパートナーと、2人の子どもを東京で育てているそうですね。家族についてちょっと紹介してもらえますか?

夫のピーターは1989年に出会いました。今年は彼とのパートナーシップが30周年を迎えるということになります。息子は12歳になりました。クーパーです。そしてリリィ、娘が10歳ですね。

いま子どもたちはアメリカンスクールに行っているんですが、子どもたちは言葉も勉強していて、北京語も話しますし、学校で日本語も勉強しています。

日本にいる間に、人生の可能性というのは無限であるということを学んでほしいなと思っています。

――日本は、自治体の一部でパートナーシップや里親認定が始まったりしていますが、まだまだ同性カップルの子育てが認知されていません。セアさんは、どう思いますか?

世界中に今いろいろなファミリーがいて、いろいろな環境で子育てをしている家族があると思います。

子どもたちにとって一番重要なのは、子どもたちが愛されているということ。理解されているということ。そして、子どもたちの自信を深めて、後々には自分の人生を歩めるように自立をさせるということ。

そういったことができる人たちであれば、誰であれ親になってもいいと私は思っています。それは歓迎し、受け入れるべきだと思っています。

ただ、日本ではそういった状況では当たり前ではないことはわかっています。多くの人たちが、日本を変えようとしていることも事実です。ギャップジャパンの元従業員で、今は渋谷区でLGBTの活動を進めて活躍している人もいます。

日本では里親の制度も一部で認められているということですが、里親だけではなくて、実際に養子縁組をして実際の親となることが、LGBTの人たちだけではなくて、いろんな人の選択肢になればいいなと思います。

――日本でもそのようなことが認められる日が来るでしょうか。いま日本でも同性婚の訴訟が始まりました。

私がお話している状況が、昔から可能だったかというとそうではありません。

先ほど、30年パートナーと一緒にいます、と申し上げましたけれども、本当に市民としての権利を獲得したり、アメリカ全土でこういった権利が当たり前になったりしたのは、最近の話。正式に、法的に結婚しているのは、ここ5年なんです。

5年前に同性婚が可能になりました。それは素晴らしいことだと思っています。

日本は昨今、いろいろなことが変わってきています。LGBTについても平等に扱おうという動きも大きい。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本はもう世界の中心になっていくと思います。

そのときに向けて、日本が、そして私たちのやっていることが、グローバルの視点で認知が高まっていくと考えています。

平等さが広がれば、企業に恩恵がある

JUN TSUBOIKE

――最後に、経営者として、LGBTが生きやすい社会のために、企業がビジネスを通じてできることは何でしょうか?

ビジネス上で何ができるか。これは文化的な変革、あるいは社会の変革ですが、私たち企業にとっては文化的なベネフィットです。平等さがより広がることは、実は私たちのビジネスにとっても恩恵があると思っています。

どんなところにもいるトップタレント、非常に才能のある社員を集める。その人たちがベストな仕事ができるのであれば、私たちはどんな人も歓迎します。

お互いの理解があって、お互いの恩恵を得ることで、相互感謝ができると思います。

チームにおいて私が信じているのは共同関係。LGBTだけでなく、複数の観点を持ち合わせるほうが、よりビジネスは成功する、繁栄すると考えています。

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