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2019年03月22日 08時57分 JST | 更新 2019年03月22日 15時58分 JST

三つ子の次男を死なせて実刑判決を受けた母に、執行猶予を求める署名が2万を突破。当事者が語る共感の理由

誰かに助けを求める気力さえ持てない、逃げ場がない過労死寸前みたいな状況に置かれた気持ちが、私にはよく分かります。

change.org
被告の母親へ執行猶予付き判決を求める署名キャンペーン

生後11ヵ月の三つ子の次男を床にたたきつけて死なせたとして、傷害致死の罪に問われた愛知県豊田市の母親(30)が3月15日、懲役3年6カ月(求刑懲役6年)の実刑判決を言い渡された。判決で、母親は想像以上に過酷な三つ子の育児でうつ病の状態だったが、犯行時に責任能力があったと認定されたという。

この判決に対し、SNSでは育児経験者を中心に擁護の声が広がっている。オンライン署名サイトChange.orgでは、「母親が子育てしながら罪を償えるように」と、執行猶予を求めるキャンペーンも始まっている。

発起人は、大阪で5歳の三つ子を育てている直島美佳さん。「居ても立ってもいられない」と、判決を知った日の夜、署名キャンペーンを立ち上げた。

「彼女は『特別』ではない。なぜ虐待死をさせてしまうほど追い詰められていったのか、よく分かる」と訴える直島さんに取材した。

■「彼女だからこの事件が起こったのではありません」

呼びかけ文で、直島さんはこの事件が決して「特別」ではないと繰り返し訴えた。

「きっと、三つ子の母のかたは、わかってくれると思います。彼女がしたことは特別なことではありません。三つ子の母でなくても、子育てをしたことがあるひとなら、想像していただけると思います」

「彼女だからこの事件が起こったのではありません。三つ子を育てる生活は、想像以上に過酷です。三つ子育児で手伝ってくれるひとがいなかったら、誰にでも起こりうることです」

直島さんが被告の母親の気持ちに理解を示すのは、被告は「もう一人の自分だったかもしれない」と感じているからだ。

■睡眠不足で気力と感情が失われていく

直島さんは6年の不妊治療の末、45歳で三つ子を授かった。妊娠が嬉しくて、我が子と会えるのを待ち望んでいたが、三つ子育児の現実は想像以上に過酷だったという。

「オムツ替えは1日10回、3人で30回。ミルクは3時間おきに8回なので、3人いたら24回。自分の食事は、何かをしながら立ってつまむ程度。出産後2年くらいは、湯船にゆっくり浸かったこともありません」

3人が同じタイミングでミルクを飲んだりウンチをしたりするわけではない。寝つく時間もバラバラ、常に誰かの泣き声が聞こえている状態だった。

産院を退院する時、どの子が何時にミルクを飲んだかを記入するカードをもらった。だが、実際にはミルクの時間を記入する余裕などなく、カードの出番は一度もなかった。

昼と夜の境界がないような毎日。隙間時間に食事をつまんだり眠ったりするうちに、「感情が失われてきた」と直島さんは振り返る。

「子どもが可愛いとか可愛くない、という感情もない。誰かが泣いたら、抱き上げて、ミルクを作って、オムツを替える。自分がロボットになったみたいでした」

「一番辛かった時期は?」記者がこう尋ねると、直島さんは、被告の母親が犯行に及んだ「11カ月」だと答えた。

「11カ月は疲労がピークに達する時期。1歳になるまでの育児期は、記憶がほとんどないんです」

getty
写真は三つ子のイメージ

■逃げ場がない過労死寸前みたいな状況

被告の母親も不妊治療の末に三つ子を授かったと報道されている。低体重で生まれた子どもたちを最初は愛おしんで迎えたが、寝る暇さえない過酷な育児に、次第に子どもの泣き声が苦痛だと感じるようになった。飲食店経営の両親や夫を頼ることもできず、行政のサポートも3人の乳児を連れての外出が難しくて利用できなかったという。

直島さんも、3人の子どもを連れて徒歩30分の定期検診に出かけられなかったことを思い出す。

3人の子連れで外出する時には、双子用のベビーカーに2人を乗せ、1人は抱っこで歩く。荷物は自分のもの以外に3人分。疲れ果てた体で外出する気力は残っていなかった。

「外出できないのが一番辛かった。体がフラフラなだけでなく、精神的にリフレッシュもできない。保健師さんが訪ねてきてくれても、体がしんどくて対応もできないほどでした」

直島さんの場合、夫のサポートが得られ、出産前からブログを通して繋がった友人が支えになった。

一方、多胎児のサポート団体に繋がろうとしても、双子のお母さんの「大変そうですね」「私だったら絶対無理」という善意の褒め言葉が、逆に「分かってもらえない」と落ち込む原因になった。

2018年1月に被告の母親の逮捕のニュースを知り、直島さんは「自分と一緒だ。この人に会いたい、話がしたい」と思ったという。

「みなさんには、きっとたくさんの『どうして』という疑問があるでしょう。でも、私はその全部の質問に答えられると思う。体がしんどくてしんどくて、正気ではないような状態で正常な判断ができない。誰かに助けを求める気力さえ持てない、逃げ場がない過労死寸前みたいな状況に置かれた気持ちが、私にはよく分かります」

■育児が辛い、しんどい

判決公判で、名古屋地裁岡崎支部の野村充裁判長は「無抵抗、無防備の被害者を畳の上に2回たたきつける態様は、危険性が高く悪質」だと述べたと報道されている。

だが、直島さんはこう強調する。

「どうか、三つ子育ての過酷さを想像してください。私はたまたま大丈夫だった。でも何かが違えば、自分が彼女だったかもしれない」

 

地方で開かれた裁判でメディアが大きく取り上げたわけではなかったが、三つ子育児の過酷な実情を紹介した報道や署名キャンペーンには大きな反響が寄せられている。キャンペーンには21日午後7時現在で、2万2000以上が賛同している。

多胎児の育児支援には、一般社団法人「日本多胎支援協会」や育児サークルなどがある。

「誰かにしんどいと言うだけでもいい。辛い、しんどい、と言っていい」と訴える直島さんは、キャンペーンの呼びかけ文にこう綴った。

「反対意見もお寄せください。そのご意見が『対策』を考えるきっかけになると思います。そして、わたしは、日本がきっと、この母親をサポートする体制を整えてくれると信じています。そして、この母親のことも信じたいです」